第148回 自信と謙虚との両立

企業経営・組織経営において「人的資本経営」といわれ、経営者側は従業員一人一人を見ることを余儀なくなってきているものの、従業員自身の側にそのような「自己変革認識」はあるのでしょうか。今回は、「自らが変われる」という思考性に関して考えてみたいと思います。

自信と謙虚との両立

こんにちは!

ゴールデンウィークも終わり、インバウンドの訪日外国人の多さに負けず海外旅行に行かれた方も多いようですが、円安影響で海外旅行に行くにも食材を持参するような話も聞きます。何か世知辛い感覚になってしまいそうなのが、今の日本の状況を表しているのでしょうか……

つい最近まで、「失われた30年」といわれていたのが、日経平均株価が4万円を超えることで「日本経済復活」のような表現が増え、ベースアップを含め個人消費を喚起する言葉があふれてきた印象があります。しかし、本当に私たち日本人は「自信」を取り戻し、また「自信」を取り戻すだけの何らかの取り組みをしてきた結果なのでしょうか……

「K字傾向」と評されるような二極化が顕著になり、確かに一部の人にとっての恩恵は大きいのかもしれません。ただ、多くの日本人は自身の取り組みは何も変わらないままに、何となくの空気に身を委ねているだけにはなっていないでしょうか……

そもそも、企業経営・組織経営において「人的資本経営」といわれ、経営者側は「人的資本」として従業員一人一人を見ることを余儀なくなってきているものの、当の「人的資本」を担う従業員自身の側にそのような「自己変革認識」はあるのでしょうか。

今回は、そうした従業員が「自らが変われる」という思考性に関して考えてみたいと思います。

ライフスクリプト(人生脚本)

「TA交流分析」というものがあります。T=Transactional(交流) A=analysis(分析) の略で、1950年ごろにカナダの精神科医のエリック・バーン氏が創始したとされており、世界中で広く使われている心理テストの代表格といえます。

交流分析(TA)とは、人の心と行動を快適にする心理学です(特定非営利活動法人 日本交流分析協会)

その中の概念の一つに「ライフスクリプト(人生脚本)」があります。
これは、誰もが生まれた後、親や周りの人間とのコミュニケーションや影響を通じて「人生脚本」を書くとされており、幼少期に形成される「自分はこう生きるのだ」という筋書きを指しています。
脚本には、「勝者の脚本」「平凡者の脚本」「敗者の脚本」があるとされています。概念的に表現すると下記のようなイメージです。

  • 勝者の脚本:人を信じ、信じられ、自分の可能性を信じ、自分らしく生きることができる人。結果的に自身が掲げる目的や志を実現できると信じ、努力を惜しまない行動につながる。
  • 敗者の脚本:人を信じたり、信じられたりすることに何となく息苦しさを覚え、自分の思うように生きられない人。結果として、人生そのものに対して、投げやりな態度や姿勢となり、行動を起こさない。
  • 平凡者の脚本:上記のような両極ではなく、「まぁほどほどでいい」という考え方。人生を投げやりにまでなっていないものの、逆に自分らしい自発的かつ自律的な人生を歩む努力もしたいとは思っていない。

では、この上記を3種類の脚本を踏まえて、実際の社会、あるいはそれぞれの会社の従業員を見渡してみるとどのような印象をお持ちになりますでしょうか。

日本では「6%しか“熱意にあふれる社員”がいない」などといった有名な米国ギャラップ社の調査結果もありますが、意外と的を射ていたりするかもしれません。

米国ギャラップ社「熱意あふれる社員」の割合調査 日本では6%しか「熱意にあふれる社員」がいない!?(アイディール・リーダーズ株式会社 BLOG)

だとすると、これは、個々人の素養の問題もあるとはいえ、多くの日本人が経てきた「教育」の中に、その遠因がある可能性があります。

「自信」と「謙虚」との両立

「教育」という表現をしましたが、もちろん、学校教育だけを指すわけはありません。各ご家庭での親子関係の中での教育もあれば、会社を含めた社会全体の教育をも指しています。

いずれの範囲・状況の中でも、特に「失敗」に対する日本人の捉え方が少なからず影響しているのではないでしょうか。

「失敗・ミスはNG」という固定観念に縛られ、「夢や希望のようなものは無理」だから「失敗しないような、ミスしないような範囲での行動」や思いどおりにならない壁にぶち当たり、落ち込んだり、無力感を覚えたりすることを繰り返しているうちに、自らを「平凡者」もしくは「敗者の脚本」に帰結させてしまう人を増やしてしまっているのではないでしょうか。

逆にたまたま何かうまくいき、「勝者の脚本」への賭場口に立つ機会があったとしても、「調子に乗ってはいけない」「喜んでもすぐにしっぺ返しを食らうに決まっている」「どうせ自分は……」と、自分自身の脚本に沿って自ら可能性を排除してしまった記憶を持つ方は少なからずおられるのではないでしょうか。

日本では「成功」を必要以上に誇張すると「傲慢(ごうまん)・鼻につく」と煙たがられる風潮があり、「人の成功」を素直に受け取れない気質もあるのかもしれません。

ただ、私たち日本人のこうした感覚に大きな風穴が開き始めていることも間違いありません。

その代表格が大谷翔平選手ではないでしょうか。彼は明らかに「勝者の脚本」の持ち主だと思われます。そして、彼の軽々と大きな夢を成し遂げていく柔軟な思考性や、一つ一つの素直で率直な発言に、多くの日本人が魅せられています。

その実現している実績そのものは、市井の私たちにはまねのできる範囲は大きく上回っているものの、その考え方や姿勢は、才能に満ちあふれた、神に選ばれた特殊な人だけに与えられたものではないことを彼は体現してくれているのではないでしょうか。

であるならば、彼が歩んできた道を振り返って、彼がどのような人に出会い、どのような教育や影響を受け、あのような思考性を育んでいったのかから何かヒントを見いだすことはできないでしょうか。

ご両親、花巻東高等学校・硬式野球部/佐々木洋監督、北海道日本ハムファイターズ/栗山英樹監督(当時)をはじめ、多くの人の影響を受けてきたのだと思いますが、誰もが彼の「二刀流」という大きな夢の前に立ちふさがって「できやしない・無理だ・止めておけ」と言ってこなかったのではないかと思います。

彼が、私たちに見せてくれているのは「自分は変われる・自分にはできる」と「自分を信じる力(自信)」と、その「変わるための謙虚さ」とが両立することなのかもしれません。

さて、私たちはどこへ行きたいと思っているのでしたっけ……

引き続き、よろしくお願いいたします。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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