第149回 「功罪の二面性」をひもといてみる

何事においても「功罪の二面性」は必ずついて回るわけですが、どうしてもその「功」の一面にスポットが当たってしまいがちで、「罪」の側面を無視しがちな傾向があるように思います。今回は、こうした「功罪の二面性」を理解する視点に関して考えてみたいと思います。

「功罪の二面性」をひもといてみる

こんにちは!

早いもので、2024年ももう半ばの6月を迎えてしまいました。
先日、恒例の「上期ヒット商品番付」が発表されていました。もちろん「オッ、知ってる!」というものと「ハッ、何それ?」というものとが混在しています。

さすがに横綱の「新NISA」「円バウンド」は分かりましたが、関脇の「東急プラザ原宿『ハラカド』」はさっぱり分かりません。個人的には、前頭に位置付けられていた「不適切にもほどがある!」が一番ヒットしたように感じていました。

多くの方がご存じのとおり、現代の過剰なハラスメント対策を皮肉りながら、昭和世代の価値観のアップデートを描いたドラマですが、コンプライアンス疲れの世相を表した側面もあるのではないでしょうか。

また、PCで文章を作る(書く)ことに慣れてしまい、その便利さを普通のこととして受け入れている今、一方で、どんどん漢字を書けなくなってしまっていることを誰もが経験しているのではないでしょうか……。それどころか、その状況になった時に「調べたら分かる」が前提にありますので、いまや「覚えておこう」という気すら失っていっているかもしれません。

というように、何事においても「功罪の二面性」は必ずついて回るわけですが、何かと趨勢(すうせい)・風潮となっていくと、どうしてもその「功」の一面にスポットが当たってしまいがちで、「罪」の側面を無視しがちな傾向があるように思います。

今回は、こうした「功罪の二面性」を理解する視点に関して考えてみたいと思います。

「タイパ」の功罪

いまやすっかり定着した感のある「タイパ」は、今の時代の効率を最優先する社会の趨勢(すうせい)を表している代表格の言葉のように思います。

個人的には、その効用や若者がそれを求める意味も一定の理解をしたうえで、一方で何かを置き去りにしてしまい、本来大切な何かを失ってしまっているような気がしてなりません。

しかも、その失っている「何か」の正体が明確に分からないままに、もっと言えば「失っていること自体」に気付いていないという怖さを感じざるを得ません。その「正体」とは一体何なのでしょうか……

「昭和的価値観と令和的価値観」の功罪

前述したTVドラマ「不適切にもほどがある!」は昭和的価値観と令和的価値観とを対比的に扱っていました。

ただ、これも二元的に良しあしを語ることは適切だと思いませんし、抵抗もあります。つまり「昭和的価値観」の中にも功罪があり、「令和的価値観」の中にも功罪があるはずです。

例えば、SNSは物理的距離や情報の民主化を通じて“つながり”を生みました。現代、メディアに多く取り上げられている問題の多くは、10数年前であれば、隠蔽(いんぺい)されて誰も知らないままに終わっていた可能性があった問題が、世の中に、表に出るようになっています。

その一方で、“つながり”を持った同質性集団が、異なる同質性の“衝突”という“分断”を生んでしまっています。こうした事実を見れば見るほど、「目に見えないコト」に対する認識や理解・解釈をできる能力が今後、ますます問われていくように思います。

この「目に見えるコト」と「目に見えないコト」を「文明と文化」という視点で少し考えてみます。

文明的豊かさと文化的豊かさ

文明的豊かさ

  • 生活を便利にしたり、効率的にしたりするもの
  • 目に見えやすい、合理的な説明がしやすい
  • 現代社会的に分かりやすい成果をもたらしてくれる

文化的豊かさ

  • 心を豊かにするもの
  • 目に見えにくい、合理的な説明がしにくい
  • あいまいさを含み、非効率ですらある
  • だが、人間らしく生きるために極めて重要

少し乱暴ですが、上述のとおり、「目に見えやすい≒文明的」「目に見えにくい≒文化的」という一つの見方が成り立つかもしれません。「文明」、つまり便利さ・快適さのための合理化や効率化が行き過ぎると、「文化」面が失われていく傾向は否めません。

現代社会では、誰もが同じ認識ができるもの、

  • 誰がやっても同じ結果になる
  • 誰が話しても同じように理解できる
  • 再現性や確定性

ということ(文明面的価値)が、重視されています。

再現性や確定性は、安心・安全と物質的豊かさ、合理的価値の増大をもたらしてくれます。そして、私たちはこれをたくさん享受しています。

ただ、当たり前といえば当たり前ですが、人生において、本当に大切なことは当然目に見えなければ、合理的に説明しきれるものでもなく、人それぞれによって感じ方や捉え方も違っているはずだということです。

日本において、あるいは、ご自身が所属している企業でも、チーム・コミュニティー・学校においても、そこにいて感じる“いい文化“とは、どのようなものが挙げられますでしょうか?

合理的ではないかもしれませんし、便利でもないかもしれません。ヘタをすれば面倒くさいことかもしれませんが、その習慣や行動様式、思考様式に基づくことで、結果として心が豊かになっていることはないでしょうか……

ただ、残念ながら、こうした文化的思考・行動は、現在の社会的評価軸、つまり文明的評価軸では、評価されにくいことが大半なのではないでしょうか。なぜなら目に見えにくいし、合理的に説明しづらい、短期的に何かが大きく変わるものでもありませんので……

それが分かったうえで、でもそれを醸成しようと思考・行動し続ける人がどれだけいるか、それによって、その集団のいい文化が醸成されていくか、失われていくのかが分かれていくのかもしれません。

当たり前ですが、私たちは「良い組織文化の会社にしたい」という言い方はしても「高度な組織文明の会社にしたい」という言い方はしませんよね……
何か、答えはおのずと出てくるような気がしますが、いかがでしょうか……

「優れた経営者」も最初から優れていた訳ではなく、多くの苦難と向き合ってきた経験を経て「優れた経営者」になってきたという「時間軸」があることを見落としてはいけないように思います。

「功罪の二面性」を考えるに当たっては「考える時間軸の長さ」によって「功」にも「罪」にも見えるということなのかもしれません。ということは、私たちは「長い時間軸と短い時間軸の視点を持ち合わせておく」ことが求められているということではないでしょうか。

引き続き、よろしくお願いいたします。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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