第150回 経営者が「”従業員”を信じる」ということ

「人的資本経営」に関するテーマに対して、話し合いをする機会がありました。「会社における人財」に対する「解・認識」が微妙にズレていることで、思考性や意思決定の軸が異なっていくことを感じる機会となりました。今回は、「会社が“従業員”を信じる」を考えてみたいと思います。

経営者が「”従業員”を信じる」ということ

こんにちは!

例年よりも早く暑さが来ているようで、この夏は昨年を超える猛暑が予想されており、先が思いやられる感じです。

先日、私たちが長年継続している経営者向け勉強会に過去ご参加いただいたOBの皆さんにお集まりいただき、「人的資本経営」に関するテーマに対して、いろいろな角度で話し合いをしていただく機会がありました。

私たちの勉強会は「経営品質」をバックグラウンドにしていますので、ご参加いただいた皆さんは基本的には「経営品質の考え方」に共感いただき、自社の経営の成熟度を高めていくことを掲げておられます。

日本経営品質賞

そんな皆さんの集まりであるはずにも関わらず、根っこの部分である「会社における人財」に対する「解・認識」が微妙にズレていることで、最終的な思考性や意思決定の軸が大きく異なっていくことを感じる機会となりました。

そういうことで、今回はそもそも論ではありますが、「会社が“従業員”を信じる」を考えてみたいと思います。

経営品質の四つの基本理念

経営品質では「顧客本位・従業員重視・社会との調和・独自性」という四つの基本理念があり、そのバランスの重要性がうたわれています。いわゆる「買い手よし・売り手よし・世間よし」の近江商人「三方よし」が包含されていることをご理解いただけると思います。

最近は「五方よし」とか「八方よし」といった表現も出てきていますが、原点はこの「三方よし」の理解が前提になっていると思います。

こうした視点でいえば、「会社は何のために存在するのか?」の解は「顧客のため・従業員のため・社会のため」という表現に異論を挟む余地はあまりないように思います。

とはいえ、経営者の立場で考えれば、やはり「会社をつぶしてしまっては元も子もない」という気持ちが強く働くことも事実であり、「業績/利益を上げ続ける」ことが前提にあり、それがなければ「従業員のため」、つまり「“従業員に報いる”こともできない」と考える方が多いのではないでしょうか……

ただし、この“従業員に報いる”の前提の多くは、「収入や金銭的報酬」を占めていると思われます。

もちろん「収入や金銭的報酬」を否定する気は全くありませんが、それはあくまでも「結果」であり、その「結果」を得るための「働く」というプロセス上で“従業員のため”になる視点は、どのように捉えれば良いのでしょうか。

また「報いる」という表現の裏側には、「会社の業績に貢献してくれたことに対する……」という「条件付き受容」が思考の前提にあるような気がします。

「社会のため・社会貢献」との距離感

「顧客のため」はもちろん、その先にある「社会のため」になっている実感が「従業員のため」につながっていることも間違いありません。

最近の「社会起業家」と呼ばれる人たちの話を見聞きすると、その志の高さは、まさにそれを体現しておられると思います。

ただ、多くの「会社員として働いている人たち」にとっては、そのような「社会的貢献」といった「志の高さ」は、ややもすると高尚過ぎたり、自分事という意味での距離感を感じたりしてしまいがちになることも理解ができます。

とはいえ「誰かのためになっている実感」が自分のやりがいにつながることも当然の帰結だとも思います。

だとすると、「会社が“従業員に報いる”」とは、どのように考えれば良いのでしょうか……

一人一人の社員にとっての「誰かのため」

多くの「会社員として働いている人たち」にとっての最も身近な「誰か」といえば、やはり、「奥さんや子供」といった「家族」が大切な「誰か」であり、最も身近な「社会」なのではないでしょうか。

そして、それであれば社員の人たちにとっての対象は「条件付き受容」ではなく、「無条件の受容」で考えられるのかもしれません。

と考えるのであれば、会社も「社員に“報いる”」という「条件付き受容」ではなく、「無条件の受容」で受け入れる・信じるということが必要になってくるということがいえるのではないでしょうか。

そんなふうに考えることは経営者の方にとっては非常に難しく、ハードルの高さを感じるかもしれません。

でも、経営者であるご自身も「奥さん」や「子供」といった「家族」に対しては、「無条件の受容」に基づく「無償の愛」をごく普通に実践しておられる方は多いはずです。

では、なぜ「経営」になると、その実践のハードルが上がるのでしょうか……

「家族的な会社」の真偽

中小企業の経営者の中には「私たちの会社は家族的な会社です」的な表現をされる方が少なからずおられます。

でも、私が知る限り、そうおっしゃっている経営者の多くは「条件付き受容」としての思考性を認識できておらず、「無条件の受容」という覚悟とは程遠い方も多いように思います。

先日、とある方との会話で下記のようなやり取りがありました。

上司Aさんには、いつも、どこかで“見られている”気がするんですが、
Bさんには、いつも、どこかで“見てもらっている”気がするんです

この“見られている”と“見てもらっている”との違いは、端的にいえば、「見張られている」と「見守られている」との違いではないでしょうか。

当然、この方のBさんに対する無条件の信頼感と貢献したい思いを口にしておられました。さて、どうしましょうか……

引き続き、よろしくお願いいたします。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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