第120回 「カスタマーサクセス」に思いをはせられる人材・組織

あらゆる分野において製品・サービスがコモディティ化している昨今、品質・機能といった目に見える部分での差別化が難しい時代においては、「顧客満足」という概念さえも、見直さざるを得ない状況になっています。今回は新たな時代の変化の一つである「カスタマーサクセス」を実現する組織・人材要件について解説します。

「カスタマーサクセス」に思いをはせられる人材・組織

2022年、最初の寄稿となります。本年もよろしくお願いいたします。

足掛け2年にわたるコロナ禍は、グローバルな視点だけでなく、規模の大小・業種のいかんを問わず、企業活動、およびそれに関わる人の気持ちも大きく変えてきました。

リモートワークの定着といった表面的な部分だけでなく、上司と部下との関係性を含めた目に見えない内面的な部分も大きく変わったのではないでしょうか。

日本経済新聞、2022年最初の特集「成長の未来図」では、そんな内面的な変化を経営者がどう捉えるかを問う切り口がテーマだったような気がします。

今回は、上記特集「成長の未来図」に出てくるキーワードから、新たな時代の変化の一つである「カスタマーサクセス」を実現する組織・人材要件を考えてみたいと思います。

物心両面の豊かさ

日本では名経営者の1人として名前が挙げられる稲盛和夫氏が主宰してきた盛和塾に代表され、多くの企業が掲げる“物心両面の豊かさ”という概念が広く定着しています。

これを求めるのであれば「“業績・結果”が良いから、“物心両面の豊かさ”につながるのか?」それとも「“物心両面の豊かさ”が良い“業績・結果”を生み出すのか?」という「鶏が先か卵が先か」的な議論が付きまといますが、現在では「“従業員の幸せの実感”が長期的な業績反映につながる」ことが証明されているかと思います。

“物心両面”の“物”を先に豊かにしようと思うと、どうしてもお金が必要になります。つまり、業績が上がらない限り“物(報酬・オフィス環境など)を豊か”にすることはできないかもしれません。

一方、“心”を豊かにすることを優先するのであれば、少なくとも先立つお金は必要ないかもしれません。では、“従業員の幸せの実感”の正体とは何なのでしょうか……。
最近の調査や見解の代表的なものを下記にご紹介します。

幸福度を高める4つの因子とは? 慶応義塾大学大学院教授 前野隆司さん

グーグルが突きとめた! 社員の「生産性」を高める唯一の方法はこうだ/プロジェクト・アリストテレスの全貌

日立製作所の子会社:ハピネスプラネット

それぞれの視点があるものの、いずれも「心の資本」ともいうべき「見えざる資本/インタンジブル・アセット」の重要性に帰着している点では共通しています。

「現場主義」の罠(わな)

同様に、日本では「三現主義(現地・現物・現実)」という考えが以前から浸透しており、中でも「現場主義」を大切にし、このキーワードを掲げている企業や経営者も多く、工場や拠点を訪れることも多いのではないでしょうか。

製造業を中心に「モノづくり」が主流だった時代には、絶大な効果・意味合いを持っていた考えであることは間違いないものの、現代の多くがコモディティ化し、その機能や品質での差別化が困難になっている時代における「現場」は、その「モノづくりの“現場”」、すなわち「社内」ではなく、本来着眼すべき「現場」は市場や顧客先での使用“現場”ではないでしょうか……。

企業に勤める多くの社員は、自分たちが作ったり、建てたりしている製品・サービスを自身が自社から購入する経験は必ずしも多くはないもので、特にB2Bビジネスや素材、中間材を扱っている企業に勤めている場合は、その傾向が顕著になりがちです。

つまり、社内やモノづくりの現場をいくら丹念に通っても、本来、その製品・サービスを使った体験の乏しい従業員が、「顧客が何を、どう感じているのか?」といった使った体感を肌感覚として、思いを巡らせることは極めて難しいということが容易に想像できるのではないでしょうか。

その結果、無意識のうちに「顧客視点」ではなく、「自分たち都合の視点」「作り手の視点」での発想に陥っているケースは少なからずあるように思います。

その「顧客体験の肌感覚」こそが、最近、目にする機会の増えた「カスタマーサクセス」という概念につながっているのではないかと思います。

「顧客満足」から「カスタマーサクセス」へ

あらゆる分野において製品・サービスがコモディティ化している中で、その品質・機能といった目に見える部分での差別化が難しい時代においては、今まで金言のようにいわれていた「顧客満足/CS」という概念さえも、見直さざるを得ない状況になっています。

「カスタマーサクセス/Customer Success」は、直訳すると「顧客の成功」となります。

つまり、そのゴールは、顧客の成功や成長を目指すことになりますので、販売・契約をして終わりというものではなく、自社の製品・サービスを利用していただくことを通じて、顧客が得られる成功や成長を、維持・増幅させられるようにサポートしていくこともその目的に含まれてきます。

そのためには、顧客の話・要望を聞いてから受動的に対応・動くのではなく、能動的にアドバイスやサポート・支援を行っていくことが不可欠になります。

そういう意味で「カスタマーサクセス」を追い求めるということは、「顧客の成功」を強く願い、それに思いをはせる「ホスピタリティ」を欠かすわけにいかず、成立のための必要条件になってくるといえます。

こうして考えてくると、「“ホスピタリティ”に溢(あふ)れた人材の組織」づくりが第一義にあり、その結果としての「カスタマーサクセス/顧客の成功の実現」につながってくることに気づいてもらえるのではないでしょうか。

さて、コモディティ化しつつある製品・サービスで、「その使用に対する顧客満足を求める経営」から、「カスタマーサクセス/顧客の成功を導く製品・サービスとは何か? を問い続ける経営」に進化させていく1年にしていくには、どうすれば良いのでしょうか……。
真摯(しんし)に向き合って、取り組んでみてはいかがでしょうか。

今後もよろしくお願いいたします。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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