第121回 「はみ出す」経験が人を育てる

昨年末から、コロナ禍中での自身のストレス、閉塞(へいそく)感を表出させた殺傷事件や放火事件が続いており、組織の中に定着してしまう厄介な特性などの現在の社会情勢の背景を映し出しているように見えます。今回は、組織をむしばむ、あしき思考性・価値観の「枠をはみ出す経験が人を育てる」ことについて、考えてみたいと思います。

「はみ出す」経験が人を育てる

皆さん、こんにちは!

2022年に入ってからのオミクロン株の急拡大で、多くの都道府県でまん延防止が発出された状況になってしまいました。以前のような重症化リスクは少ないにしても、これだけ広がってしまうと、自宅待機を余儀なくされる方も増え、経営においても、あるいは日常の業務を進めるにおいても、少なからず影響があるのでないでしょうか。

無症状で身体が元気なのにも関わらず、自宅待機という形の軟禁に近い状況は、精神的にも大きなストレスになり、要らぬことを考えてしまう方も増えているような気がします。

昨年末から、京王電鉄内での殺傷事件、北新地での放火事件、さらには電車内での喫煙を注意した高校生への暴行事件、埼玉での立てこもり医師殺傷事件と、いずれも「自分さえ良ければ……」的な自身のストレスや閉塞感を、あらぬ形で表出させた事件が続いており、何だか正義や倫理・モラルといった領域の壊れた事件・出来事が増えているような気がします。

表には出てこないまでも、現在の社会情勢を背景にしたこうした思考性は、少なからず誰しもの心にジワジワと染み込んでいっているのかもしれません。

ウイルスの人体への影響は、熱が出るなど症状が明確ですが、組織においては、潜伏期間が長く、しかも知らぬ間に組織の中に定着してしまう厄介な特性があるのではないでしょうか。

今回は、そんな組織をむしばむ、あしき思考性・価値観の 「枠をはみ出す経験が人を育てる」ことについて、考えてみたいと思います。

前提条件にとらわれた5匹のサル

私たちは、一度経験したことが意識するかどうかとは別次元で、自身の思考性や価値観形成に大きな影響を受けてしまいます。

さらに、それは組織においても当てはまり、一度組織文化として染まってしまうと、本人の意思とは関係なく、それが当たり前になり、染みついてしまいます。これは、有名な「前提条件にとらわれた5匹のサル」の話でも表されているかと思います。

「前提条件」にとらわれた5匹のサルのお話(DIAMOND オンライン)

ここに書かれている内容は、組織に携わる多くの方に心当たりがあるのではないかと思います。

何のためにやっているのか分からずに、もしくは無駄だと思いつつ作成している資料、いつから続いているか分からない毎月行われている会議……、実はそんなことが身の回りに溢(あふ)れているかもしれません。

はみだす経験

一方で、三井住友海上が「課長昇進の条件として、外部への出向や副業経験があることを前提とする」という記事に、私は目を引かれました。

課長昇進、出向・副業経験を前提に(日本経済新聞)

この三井住友海上の取り組みは「前提逆転機会を意図的に創り出す」ということだと思います。「異文化に接する機会」、それを通じた「新たな視点・着眼を促す」という狙いだと思いますし、一定の効果があるような気がします。

今後は、こうして、会社としても「今いる場所・範囲・枠を超える/はみ出す」経験を通じて、意図的に「自身の価値観を揺さぶる/揺さぶられる」ことが必要な時代になっているのかもしれません。

NPO法人クロスフィールズでは「留職プログラム」というサービスがありますが、代表理事・小沼大地氏がパネリストの1人として話しておられる「越境体験」に関するコラムでも、このことがよくご理解いただけると思います。

~越境人材への期待が高まる中で、「私」を中心に始める「これからの越境」~

  • 「大きな越境」に夢を見るのも大事なんですけど、一方で「自分の身の周りにある異なる世界」に気づいていくことも価値がある
  • 「ちょっとはみだしてみる」という。すると自分の軸がどこかっていうのが見えてくる
  • 越境して初めて「自分が普段、前提にしてしまっていること」を学ぶんですね
  • 気づきで終わりにするんじゃなくて「じゃあ次はここで会ったこの人と、こういうことをしてみよう」「勉強会を探して参加してみよう」と行動していく

越境人材への期待が高まる中で、「私」を中心に始める「これからの越境」(DIAMOND オンライン)より引用

このように「何も変わらない楽チン快適ゾーン/コンフォートゾーン」から「はみ出した経験」から得られた感覚は、それまでに体験をしてこなかった自己変革の手応え、成長の実感であり、それ以降「より大きくはみ出す」ことに抵抗感が下がり、どんどん自分の新しい世界・視界が広がっていくことは紛れもない事実ではないかと思います。

その結果、「転職・退職してしまう」という意思決定をする方も出てきてしまうのかもしれませんので、経営者にとっては「もろ刃の剣」の側面もあるかと思いますが、そういう意思決定の選択にならないような「選ばれる会社づくり」にまい進するしかないのではないでしょうか……。

この混沌(こんとん)とした時代における経営において、経営者やリーダーが認識しておく必要のある視点/切り口ではないかと感じています。

「分かっていないことを分かっていない」という事実を受け入れる

このように、「はみ出す経験」は、幅の大小に関わらず、自分の価値観や思考性に刺激を与えられる機会となり、初めて自分を客観的に知ることができるのではないでしょうか。

「自分のことは自分が一番分かっている」と思いがち、もしくは思いたいものではありますが、必ずしも、そうではないことの方が多いように思います。

英語で「unknown, unknown」とか「DKDK(don't know, don't know)」といった表現でも表されますが、「分かっていないということが、分かっていない」状態を自覚的になることは、ある意味で「自己否定」を伴う側面もありますので、簡単ではないかもしれません。だからこそ、そういう一歩を踏み出せる人こそが「成長のポテンシャルを持った人材」であり、そういう機会を与えていける組織が「人を育てる組織」なのではないでしょうか。

今後もよろしくお願いいたします。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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