第122回 ダイナミック・ケイパビリティ

「VUCA時代」という「不確実性の時代」の中で、経営においては、何をどう捉え、どのようなアクションを取るべきなのでしょうか。企業として、組織として、どのような考え方で臨んでいく必要があるのかを考えてみたいと思います。

ダイナミック・ケイパビリティ

皆さん、こんにちは!

オミクロン株に変異した新型コロナウイルス一色だった世の中でしたが、北京オリンピックの終了を待っていたかのようなロシアのウクライナ侵攻で、今までの閉塞(へいそく)感とは種類の違う緊張感が一気に高まってしまいました。国内での出来事ではありませんが、新型コロナウイルス以上に日本経済には影響が大きくなる可能性があり、あらためて「VUCA時代」を痛感させられる動きが続いていますね。

今や「VUCA時代」という表現も一般化し、「不確実性の時代」は誰しもが感じている状況です。そんな時代の中で、経営においては、何をどう捉え、どのようなアクションを取るべきなのでしょうか。

今回は、そんな時代背景・社会情勢の中で、企業として、組織として、どのような考え方で臨んでいく必要があるのかを考えてみたいと思います。

人を生かす経営が問う覚悟

「ISO30414」という人的資本の情報開示のためのガイドラインをご存じでしょうか?

2022年3月2日付日本経済新聞「中外時評」で「人を生かす経営が問う覚悟:論説委員/半沢二喜氏」のコラムに下記のようなことが書かれていました。

~一部抜粋~
この春の産業界の労使交渉で「人への投資」がキーワードになっている ~中略~ 国際標準化機構(ISO)が定める人的資本の情報開示の指針「ISO30414」をベースに人材開発費や生産性、開示状況を尋ねた。社外に公表している企業は14.9%にとどまった。データの測定さえしていない企業も25.9%あった。人的資本に対する投資家の関心は高く、情報開示のルール作りが日米欧で進む中、企業側の準備の遅れが目立つ。 ~中略~ 調査を担当した津田都研究員は「株主ばかり見ていて、社内に目が向いていないのではないか」と指摘する。 ~中略~ 「すべての人的資本を活かそうとする経営トップの意志と、自社ならではの拘りが重要になる」と指摘する。「人を生かす経営」を推し進めれば、会社と社員の関係も見直しを迫られる。個人が能力を最大限に発揮するには、同じ会社に勤め続ける事が最善とは限らない。「『囲い込み型』から『選び、選ばれる関係』へ」。 ~中略~ 人を生かせない企業は働き手からも選ばれなくなるだろう。改革への覚悟が経営トップに問われている。

上記にあるように、「人を生かす経営」というキーワードも一般化されてきましたが、実践レベルでそれを実現している企業はまだまだ少ないということで、それは、そもそも経営者の方の「覚悟」が問われているということです。

特に日本においては、人口減少・生産労働人口減少は不可避な制約条件であるわけですので、「会社が採用する≒選ぶ・選考する」という考え方を「優秀な人材から会社が選ばれるかどうか」に考え方を180度変えないと、本当に立ち行かなくなるのではないでしょうか。

「選ばれる会社」とは?

今回のテーマとして取り上げさせていただいた「不確実性の時代における企業としての考え方」の前提の一つとして、「人材が集まってくれる」ことが挙げられる思います。

しかも、これから新卒で採用する人は「Z世代」になります。この世代の人たちに対する評価はいろいろありますが、少なくとも、40歳以上の世代の方々とは価値観・職業観も大きく異なることは明らかではないかと思います。

上述したように、経営者・トップのマインドセットの転換、それに向かう覚悟は当然ですが、加えて、「では、どんな会社がそんなZ世代の人たちに選ばれるのか?」という問いに向き合わなければなりません。

同時に、経営者側としては「“労働者・ワーカー”としての数さえ確保できれば良い」と思っている訳ではないと思います。

「不確実性の時代」で先が読めない、不透明なわけですから、極端にいえば「言われたことを言われたとおりに、考えずに“作業”をする人」を欲しているわけではなく、少しでも「不確実性の中においても、自社の経営に対する当事者意識を持って、自律的に考え“解”を見いだし“仕事”ができる人」を望んでいる方が多いのではないかと思います。

ダイナミック・ケイパビリティ

「不確実性に対する行動」として、カリフォルニア大学バークレイ校D. J. ティース教授は「ダイナミック・ケイパビリティ理論」を挙げておられます。

それによると、企業のケイパビリティとしては下記に二分されます。

  • オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)
  • ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)

それぞれの特性を表すと

オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)

  • 安定した状態の中で、現状の維持・拡大を目指す能力
  • 与えられた経営資源をより効率的に利用し、利益を最大化しようとする能力

故に、「決められた物事を“正しく行う”時に発揮される能力」であり、平常時に利益を最大化するために適切な能力。

ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)

  • 環境変化に対応する自己変革能力
  • 境変化に対応して、既存の資産・資源・知識等を再構築し、相互に組み合わせて持続的な競争優位性を作り上げる能力

故に、「“正しいことを行う”時に発揮される能力」であり、何が正しいかを探索し、自己変革を伴いながら対応していくことができる。

「正しく行う」と「正しいことを行う」とは、似て非なる表現ですが、全く異質なものだと思います。

  • 「Do the things right/正しく行う・間違いなく行う」
  • 「Do the right thing/(人として)正しいことをやる」

こう考えると、リクルート元フェローである藤原和博氏が仰っている「正解主義(情報収集力)」と「修正主義(情報編集力)」との違いも同じことを指し示しているのかもしれません。

今後の企業活動の屋台骨になるであろうZ世代の価値観・職業観として下記5点が挙げられています。

  1. 組織を超えて、プロジェクトベースで個人が未来社会を創っていく
  2. 個人にとどめず、貢献・共有することが未来社会を創っていく
  3. 社会との接点を持った研究が未来社会を創っていく
  4. ストーリーや体験の価値が未来社会を創っていく
  5. 「経済大国」「持続可能性」が未来社会のキーワード
  • *出典:2020年4月17日 経済産業省・官民若手イノベーション論ELPIS「企業・大学・官庁の若手が描く未来のたたき台」から抜粋

「不確実性の時代」を、こういう価値観の人たちに「この会社に入れば、成長できる」と学生たちが実感できるような「仕事の在り方」を明らかにして「選ばれる会社」になるためには、経営者から幹部を含めた今いる社員が「ダイナミック・ケイパビリティ」の組織風土に変革をして、共に切り拓いていける会社になっていければと思います。

今後もよろしくお願いいたします。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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