ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
第46回 コミュニケーションを阻害する「色メガネ」をはずす
皆さん、こんにちは!
夏の猛暑に続き、涼しくなったと思えば、軒並み続く台風に、大雨による河川氾濫の甚大な被害が続出しており、少なからず影響のあった方もおられるのではないでしょうか。心からお悔やみ、お見舞い申し上げます。
今月は、「経営者」の方を含めた「経験豊かな方のコミュニケーション」に関して考えてみたいと思います。
現在、関わらせていただいている幾つかのお客様でも、この手のご相談が多く、ご支援をさせていただいています。
ある経営者の事例
あるお客様の経営者からのご相談の事例をご紹介させていただきます。
この方は「財務会計のプロフェッショナル」として自他ともに認める方で、経営者であると同時に財務担当の責務も担っておられ、その部下のお一人との信頼関係が築けず、コミュニケーションが上手くいかないというご相談でした。
お話を伺うと「彼は自分の職務能力が不足しているにも関わらず、その能力向上を図ろうともせずに、文句ばかりを言う」という趣旨でした。一方、部下の方にお話を伺うと「幾ら努力しても、認めてもらえず叱責ばかりで、人格も否定されやる気を出そうにも出せない」という言い分でした。
経営者の方ご自身としては「重要な役割を担ってもらっている部下なので、何とかコミュニケーションを正常化したい」という思いは持っておられ、その方向に進むためには努力を惜しまないという姿勢は持っておられます。
自分のプライドがコミュニケーションを阻害する
ところが、その経営者にいろいろヒアリングをさせてもらっているときに、私が感じたことがあります。「コミュニケーションを良くするためには努力は惜しまない」と仰り、その方向を模索しているはずにも関わらず、「実の職務がらみ」の話になると、ご本人は気づいておられないようですが、気色ばみ語調が荒くなっていかれ、頑なな姿勢が顔を出すのです。
「財務会計という仕事は、期限があり、ミスが許されない世界です。それを実践できる能力を高めようとしないのは、プロとして失格です」といった論調です。
これは典型的な「自身の仕事に対するプライド・誇り」が人を見るときの「色メガネ」になってしまっている例のように思います。本来のその人の考え方や姿勢をフラットに見るのではなく「ご自身の得意分野のプライド・誇りを基本にした判断軸」を通して、相手の“人となり”をも決めつけてしまっているという状況です。
この方の場合、「財務会計のプロ」という自負が「色メガネ」となってしまっている一方で、営業部門や製造部門の経験がないために、こうした以外の部門の方に対しては「聞く」という姿勢を取れているのですが、それがまた、財務担当部署の方々からすると「依怙贔屓(えこひいき)」しているような印象をもたれてしまっているようです。
自分の「固定概念・思い込み」を外す難しさ
一般的に「人は99%固定概念・思い込みに基づいて思考している」と言われ、他人とのコミュニケーションを高めるには、自分のそうした見方を取り払ってフラットに、その相手の等身大を理解することが前提と言われます。
ところが、「そもそも自分はどのような固定概念や思い込みを持っているのか?」ということは、普段は無意識ですし、あらためて考える機会もあるものではありません。
自分の「固定概念・思い込み」を超えるには、「自分はどのような思考のクセがあるのか?」を知らないことには、それを超えることはできないのではないでしょうか。
可謬(かびゅう)主義・「自己否定ができますか?」
今回の事例のように、ご自身が最も自信を持っている分野や経験を通じて得てきた確信が、逆にご自身を苦しめてしまうジレンマがあるのかもしれません。これは、なかなか難しい問題です。
特に経営者や上級幹部のポジションを得てきた背景には、その得意な分野での実績やその経験に裏打ちされたものがあるわけで、そのことに対する「自負・プライド・誇り」があることは、むしろ当然であり、大切なことだと思います。
ただ一方で、そのキャリアや実績に満たない方々とのコミュニケーションを考えた場合、それそのものが「阻害要因になる可能性」が生じます。
こうなってくると、ご自身の「自負・プライド・誇り」をいったん横に置いて、「自分の見方だけではないのかもしれない」というスタンスで相手と接しないと、解決しないかもしれませんね。このスタンスのことを哲学の世界で「可謬主義」と言いますが、もはや「人間としての器」とも言えるのではないでしょうか。
今までのご自身の経験を「自己否定できる」器を持つことが、コミュニケーション能力を高める条件になってくるようです。
今後も、よろしくお願いいたします。
次回は10月14日(水)更新予定です。
前の記事を読む
次の記事を読む