第74回 自分(自社)を客観的に見る自分

私たちは「自分のことは自分が一番よく分かっている」と思いがちですが、「自分を客観的に見る・自分を知る」ということは、それほど簡単なことではないのではないでしょうか……。今回は、最近ご支援させていただいている会社の経営者の方との会話から、「自分を客観的に見る」ことの難しさについて考えてみたいと思います。

自分(自社)を客観的に見る自分

皆さん、こんにちは。この冬は猛烈な寒波や大雪の日が多かったようですが、皆さんの生活やお仕事には影響はありませんでしたでしょうか。

政治利用されている感覚が色濃く、純粋にスポーツを楽しむ気持ちを損ねている気がしますが、それでも、やはり平昌オリンピックでの日本選手の活躍は明るい話題ですね。
トップアスリートである彼ら・彼女らのインタビューを聞いていると、自分のパフォーマンスを最大限に発揮するために、いかに自分のことを客観的に見ているかがよく分かります。

今回は、最近ご支援させていただいている会社の経営者の方との会話から、「自分を客観的に見る」ことの難しさについて考えてみたいと思います。

とある経営者の気づき

先日、ある経営者の方とお話をしていて、その方が「自分を客観的に見ることができていない」ことに気づかれた話をご紹介させていただきます。

その方は「ウチの若手社員は、何かにチャレンジさせたいと思って、“○○をしてみよう”と言っても“できない・ムリです”を口癖のように言い、やりもせずに、すぐ諦めてしまうんです」ということをこぼしておられました。

私が、「それに対して、社長はどうしておられるんですか?」とお聞きしたところ、「“諦めるな! 投げ出すな!”とも言っているのですが、それでもやっぱり“イエ、私にはできません”ばかりなんです」とおっしゃり、さらにこう続けられました。

「本当に、アイツらはすぐに“できない”って言うんです。どうしたらいいでしょうね。正直、もう無理だと思います」と……。

私は「アレッ??」と思い、「それって、社長ご自身も“できない・ムリ”と言い、投げ出していませんか?」と問うと、ハッとした顔をされました。

このことがあり、さらにいろいろな話を聞かせていただいていたのですが、その方は、休日に少年野球のコーチをしておられ、今度は下記のようなことを話してくださいました。

「不思議なのですが、少年野球のコーチをしていると、“上手にできる子”よりも、なかなか上手くならないいわゆる“下手な子”の方が可愛く見えて、応援し、一生懸命教えられるのですが、会社では、どうしても“できる社員”に目が行き、“できの悪い社員”にはイライラするし、腹が立ってしまうんですよね……」

私は非常に興味深く聞かせていただき、「この二つの違いは、どこにあるのでしょうね……?!」と伺ったところ、しばらく、いかにも静かに深く自問・内省されていたのですが、顔を上げて、こうおっしゃいました。

「これ、マズイわ。この違いは“自分にとって損得があるか、ないか”のような気がします。少年野球のコーチのように、損得がなければ、私は“人の成長”を応援できるのに、経営者として損得が関わってくると、私は“人の成長”よりも、“損得”を優先してしまっているってことになります」

自分を客観的に見る

前述の経営者の方の「気づき」をどうお感じになりますでしょうか。
この「気づき」は、この方にとって、大きなターニングポイントになられたようで、そこからいろいろな言動に変化が生まれはじめておられます。

私たちは「自分のことは自分が一番よく分かっている」と思いがちですが、「自分を客観的に見る・自分を知る」ということは、思っているのとは裏腹に、それほど簡単なことではないのではないでしょうか……。

ドラッカースクールではそうした「セルフ・マネジメント」に関して、下記のように伝えていると聞いたことがあります。

自分自身が何者かを理解し、
自分を活かすマネジメントができなければ、
決して組織をマネジメントすることはできない。

本当の意味で「分かっている・できる」状態を目指しているわけですが、そうなるための最初の一歩は、「自分は“分かっていない・できていない”ことを分かっていない」という事実に向き合い、自覚することなのかもしれません。

クリティカル・シンキング

一般的には「批判的思考」と訳され、「物事や情報を無批判に受け入れるのではなく、多様な角度から検討し、論理的・客観的に理解すること(参照:デジタル大辞泉)」と定義されていますが、別の言い方をするとすれば「多面的思考」とも言えるかと思います。

いろいろな書籍などでも、その実践方法は紹介されておりますが、今回は「経営品質向上」のための視点をご紹介させていただきます。

「経営品質向上プログラム」には「四つの基本理念」があり、下図のように表しています。

顧客本位・独自能力・社員重視・社会との調和とありますが、多面的に思考しようとした場合に、この四つの切り口を活用します。

それは、この四つの理念の真ん中に自分(自社)を置いて考えるイメージですが、肝心なポイントは「矢印の向き」ではないかと思います。

「自分(自社)がやっていること」は、

 次のプロセス担当者(顧客)にとっては、どういう意味・意義があるのか?
 自分(自社)の独自性を高めるという視点では、どういう意味・意義があるのか?
 一緒の仲間(社員)から見ると、どういう意味・意義があるのか?
 世の中にとって(社会貢献)の視点では、どういう意味・意義があるのか?

と考えると、少なくとも四つの視点で多面的に見ることになります。全ての視点で意味・意義が見いだせない限り、経営品質的にはよい取り組みではないという言い方になってきます。

私たち自身の都合ではなく、あくまでもそれぞれの相手の立場にとって、どういう意味があるのか、を考えるトレーニングになるのではないでしょうか。

そして「自分を客観的に見る自分」になっていくことは、「自社がやっていること・取り組みを客観的に見る」につながっていくのではないかと思います。

それを、ドラッカーは上記のように言っているのではないでしょうか。

今後とも、よろしくお願いいたします。

次回は3月22日(木)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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