第21回 経営は“生き方”を問う時代に入った

皆さん、こんにちは!

毎年、お盆の時期を迎えると第2次世界大戦や原爆投下の悲惨な話、終戦からの日本の奇跡の復興、現在の平和の有り難さといったコトを考える機会になりますが、特に今年は憲法改正論議や映画でも「風立ちぬ」「終戦のエンペラー」等もあり、例年以上に何かと話題になる機会が多かったように思います。

「日本の奇跡の復興」を振り返った時に、規模の大小を問わず、多くの先人たちが「この国を何とかしたい」の一念で会社を興し、必死に歯を食いしばりながら育ててきたことを忘れるわけにいきません。
もちろん、自身の生活のため・・・という視点はあったとはいえ、ベストセラー「海賊と呼ばれた男」のモデルとなった出光佐三氏に代表される偉大な企業人たちと共に、名もなき勤労者、労働者たちが「貧しくても、光り輝いていた」時代の精神性の根本背景の真実を今一度考えてみたいと思います。

■「夢・希望」
言うまでもなく、戦後、衣食住さえままならない時代には「食うために働く」という考えは、とにかく前に進むしかない時代背景においては一般的であったと同時に必然であったわけです。
だからこそ「終身雇用」という滅私奉公的な制度が有効に機能し、「この国の成功」という全体の大きな目的意識の下に、さらに自身のいる組織の「オヤジのために」という想いで日々の仕事に取り組めたのだと思います。

そして、その結果も、去年よりも今年、昨日よりも明日と右肩上がりに目に見える変化として分かりやすかったが時代であり、その未来に「きっと、こうなる!」という意味での「夢・希望」を見いだしていたのだと思います。

そして、その結果が1970年代の「Japan as NO.1」と呼ばれる時代につながっていきました。

■「目的の変容」
ところが、世に言う「バブルの崩壊」で成長神話が崩れ、「国の成長・成功」という全体目的も同時に危うい時代に移り変わりはじめました。
また、同時に「護送船団」「終身雇用」といった従来は効果的だった制度も時代の変化と共にギャップが生まれ、「成果を出したものが報われる」思考が生まれてきたわけです。

個人的には、この時代の思考習慣をいまも引きずってしまっていると感じていますが、この時に大きな「目的の変容」を生んでしまったとではないでしょうか。

「人を伸ばす力(著:エドワード・L・デシ)」の中に下記のようなユダヤ人の寓話(ぐうわ)が書かれています。

ある町の目抜き通りに洋服屋を開いたユダヤ人に嫌がらせをするために不良たちは店の前で毎日、大声でやじったりののしったりした。
止めさせたいと思った洋服屋は賢かった。
不良たちがやってきたある日、洋服屋は彼らのヤジったり、ののしったりする努力に対して全員に10セントコインを1枚ずつ手渡した。次の日も彼らは10セントを期待して騒ぎにやってきた。
しかし、今度は5セントしか上げる余裕がないと洋服屋は告げ、全員に5セントずつ手渡した。
彼らは少しがっかりしたが、5セントでも金がもらえることに変わりはないので、各自5セントを受け取り、叫ぶだけ叫んで帰った。
次の日、彼らはまたやってきた。今度は1セントしか上げられないと洋服屋は言ってコインを手渡そうとした。
それを聞いて憤慨した不良たちは、あざ笑いながら言い捨てた。
「おれたちは1セントのはした金のためにわざわざヤジるような暇はないんだ。ばかばかしい!やってられない!」と。
そして彼らは騒ぐことなく立ち去った。
結局、洋服屋は不良たちの嫌がらせを阻止することに成功したのであった。

この内容は、私たち自身に置き換えても、心当たりのある大きな示唆が含まれているのではないでしょうか。
それは、金銭を受け取ること(外発的動機付け)で、本来の内発的動機づけ(困らせることを面白がる)が低められてしまい、同時にその「初期の目的が気づかないうちに変えられてしまっている」事です。

■「奴隷にならない」
出光佐三氏は「出光の仕事は金もうけにあらず。人間を作ること。経営の原点は人間尊重です。
世の中の中心は人間です。金や物じゃない。その人間というのは、苦労して鍛錬されてはじめて人間になるんです。
金や物や組織に引きずられちゃいかん。そういうやつを、僕は金の奴隷、組織の奴隷と言うて攻撃している」と言ったとされています。

前述の不良たちは「金の奴隷」になってしまっていたことを意味しており、本来の目的を見失わないことの重要性を強く説いています。
もちろん、「組織の奴隷」という表現も厳しい指摘であり、「いい社員」の意味することが「組織(会社)にとって都合のいい社員」であってはならないことを示唆していると読みとれます。

おりしも先日の日経新聞「経済教室」で一橋大学大学院教授・野中郁次郎氏も「今や経営は“生き方”を問う時代に入った」と論じておられました。

その問われている「生き方」とは「社員の人間(性)を尊重する生き方」か、「社員を事業の成否を担う経営資源・道具の一つと考える生き方」かの違いに通じるものだと思います。

「貧しくても、光り輝いていた」時代の精神性の根本には「経営者の人間観」があったのではないでしょうか・・・。

戦争のない平和な時代に甘えてしまい、幼稚な思考に陥ってしまわないように可謬主義に基づいて、自分の悪しき思考習慣がないか、自問自答を繰り返していきたいものです。

引き続き、よろしくお願いいたします。

次回は9月18日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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