第71回 「個人の哲学」の重要性

今年の経済界を振り返ると、国内企業の不祥事が多かったように思います。名門企業がなぜこんなことに陥ってしまうのか……これらは全て「コンプライアンス違反」という言葉に包含されるかと思います。今回は、企業という組織に所属する従業員の深層心理として何が起こっているのかを考えてみたいと思います。

「個人の哲学」の重要性

皆さん、こんにちは!

先月の選挙で自民党が大勝し、株価もバブル崩壊以降最高値を記録するなど、国内景気は良い方向に進んでいるようですが、皆さんの会社はいかがでしょうか。今年も残り2カ月を切り、いろいろな意味で振り返ったり、来年を計画したりする時期になっているのではないかと思います。

今年の経済界を振り返ると、東芝の不正会計問題に続き、神戸製鋼や日産の問題など、国内企業の不祥事が多かったように思います。

こうした名門企業がなぜこんなことに陥ってしまうのか……これらは全て「コンプライアンス違反」という言葉に包含されるかと思いますが、今の多くの日本企業で何が起こっているのでしょうか。

今回は、企業という組織に所属する従業員の深層心理として何が起こっているのかを考えてみたいと思います。

企業の不祥事の背景にある心理

日本といえば国際的には「ルールをよく守る国民性」として知られているかと思います。にも関わらず、昨今のルール違反的な不祥事はなぜ起こるのでしょうか……。

雇用の流動性が低く転職もしづらく、コンプライアンス違反を強要された際に「倫理観に従って会社を辞める」という決断をしにくかったり、世間体を気にする見栄っ張りが多かったり、出世や年収アップ以外に生きがいを見つけられない人が多かったり、とかいくつかの理由が複層的に絡んでいると思います。

加えて最近は、経営者やリーダーが、目の前の数字の漸進的な改善について部下に強い圧力をかけることでしか組織を牽引できず、実現が難しい数値目標を組織に課してしまっている実態も挙げられるのではないでしょうか。

「ルールをよく守る国民性」という表面的なイメージと「コンプライアンス違反を起こしやすい組織風土」は、一見すると矛盾して見えますが、実は「周りから浮いてしまうのが嫌だ」という根っこの部分でつながっているのかもしれません。

世界各国を対象とした各種調査結果によると、「他者への信頼」に関して、日本は非常に低い数値であり、「治安の良さ」は倫理に根ざしているのではなく、「他者からの排除への恐れ」でしかないとの指摘もあるようです。

参考出典
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所
「ネット社会における評判と信頼」山岸俊男

つまり、他者への信頼関係があるわけではなく、排除されない安心感があるだけということになります。

仮に日本人には、こういう価値観・マインドセットがベースにあることを前提とすると、無理な数値目標を押し付けて、しかも多くの人は逃げ場がない、となると何となく何が起こるか容易に想像できてしまいますね。

「君たちはどう生きるか」

一方、今、80年も前の戦前である1937年に発刊された『君たちはどう生きるか(著:吉野源三郎氏)』が漫画化され50万部を超える大ヒットになっているそうです。既に手に取られた方も多いのではないかと思いますが、今なぜ、この本がこのような反響を呼んでいるのでしょうか。

まだご覧になっていない方のために、主旨・メッセージをご紹介しますが、中学生である主人公コペル君が、日常の生活の中で世の中や社会とのつながり、人としての在り方・道義的な部分を、叔父さんからの示唆的な手紙のやり取りを通じて、自分自身に問い続ける、いわゆる「人生読本」という位置づけです。

今風に言うなら「お堅い・面倒くさい」内容ではないかと思います。

特に、後半のコペル君が犯した過ちに対する叔父さんからのメッセージの下記部分は象徴的だと思います。

一番深く僕たちの心に突き入り、僕たちの眼から一番つらい涙をしぼり出すものは、――自分が取りかえしのつかない過ちを犯してしまったという意識だ。自分の行動を振りかえって見て、損得からではなく、道義の心から、「しまった」と考えるほどつらいことは、恐らくほかにはないだろうと思う。
そうだ。自分自身そう認めることは、ほんとうにつらい。だから、たいていの人は、なんとか言訳を考えて、自分でそう認めまいとする。しかし、コペル君、自分が過っていた場合にそれを男らしく認め、そのために苦しむということは、それこそ、天地の間で、ただ人間だけが出来ることなんだよ。

~中略~

僕たちが、悔恨の思いに打たれるというのは、自分はそうでなく行動することも出来たのに――、と考えるからだ。それだけの能力が自分にあったのに――、と考えるからだ。

  • * 「君たちはどう生きるか」 吉野源三郎 著 岩波文庫(1982年) p.255 より抜粋

つまり、周囲がどうであれ、「自分自身の生き方・哲学」がないと、「他者からの排除」を恐れるあまり、不祥事につながることに手を染めてしまい、そのことへの罪悪感すら覚えなくなってしまうということではないでしょうか。

個人の「哲学」の時代

時代はAIの進化が急速に発展し、2045年がシンギュラリティということまで言われるようになっています。だからこそ、人が人でなければできないことや、人にしかたどりつけない境地というものに向き合うことが、これからますます求められていくのだと思います。

そういう意味では、会社という組織は、社員という名の「人」によって構成されており、そこにいる人によって「組織文化・企業文化」が形成されていくわけですから、さかのぼって考えて突き詰めていけば、社員一人ひとりの「個人の在り方・生き方」に行きつき、所謂「個人の生き方・哲学」という領域が、今後重要になっていくように思います。

経営者の立場の皆さんは、自社の社員の一人ひとりの「生き方・哲学」を理解しておられますでしょうか……。仮に知らなくても、そういうことを考えることの重要性を伝えていますでしょうか……。

社員が「自律的に考える」ことなく「言われたことを言われたとおりに実行する人」の集団だったとしたら、それはAIといったテクノロジーに凌駕(りょうが)され、淘汰(とうた)されていってしまうのではないでしょうか。

多くの企業不祥事の話題を聞くたびに、その会社にいる「個人の生き方・哲学」はどうなっているのだろうという思いが頭をよぎります。

「安心感」に安住する組織・会社から、お互いに「信頼できる」関係にしていくことが重要なのではないでしょうか。

これからの時代に立ち向かっていける強い組織とは、「個人の哲学」を持った社員を育てるということであり、それが企業の不祥事を招かない本質なのかもしれませんね。

今後とも、よろしくお願いいたします。

次回は12月20日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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