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第99回 「新型コロナウイルス騒動」から学ぶべきこと
今回の新型コロナウイルス感染症の目下の対策はもちろんですが、同時に「緊急ではないが重要」なことを経営者自らが先頭に立って、組織・社員の思考性をアップデートしていける機会と考えてみてはいかがでしょうか。
「新型コロナウイルス騒動」から学ぶべきこと
皆さん、こんにちは!
東京オリンピック・パラリンピックの延期決定を含め、この一カ月の間に、世界中を大混乱に陥らせている新型コロナウイルス感染症拡大の影響は、止まるところを知らない状況です。連日、報道が繰り返され、その被害は私たちの日々の生活をも怯えさせかねない事態を想起させることとなっており、気持ちが滅入りがちになってしまいます。
もちろん、万全を期して、感染しないようにすることが喫緊の課題であることは間違いないです。しかし、必要以上に神経質になってしまうのも、精神的ストレスに関わってきますので、留意していきたいものですね。
新型ウイルスによるここまでの大きな被害は、私たちの世代の人類にとっては初めての経験なのではないかと思いますが、今後はこれらを「自然からの逆襲」「地球からの警告」として、あらためて長期的な視点で向き合っていかないといけないのかもしれません。
このことは、企業活動においても同様のことがいえ、もちろん、コロナ対策として目の前の業績や資金繰りを含めた課題解決と同時に、ポスト・コロナとして、今回のことをあらためて長期的な経営の在り方を考える機会にしていければと思います。
ということで、今回は「新型コロナウイルス騒動」から、学ぶべきことをあらためて考えてみたいと思います。
サル化する世界
『サル化する世界』(刊:文藝春秋)の著者である思想家・内田樹氏がその要約的なコラムを文春オンラインに掲載されています。
「今さえよければそれでいい」社会が“サル化”するのは人類が「退化のフェーズ」に入った兆候
内田樹インタビュー「サル化」が急速に進む社会をどう生きるか?
この記事の中で、私が特に気になった記述は下記のとおりです。
- 広々とした歴史的スパンの中で「今」を見るという習慣がなくなった。時間意識が縮減したのです。
- 長期ビジョンが失われ、刹那的な傾向が強まったように思います。
- 過去の自分のふるまいの結果として今の自分がある。未来の自分は今の自分の行動の結果を引き受けなければいけない。
- 限定的な時間意識しか持たない人間と、広々とした時間意識を持つ人間がいる。
- 今の経済活動の基本時間はもう人間的時間ではない。~中略~人類史のなかで農業が支配的な産業だった時期は長いです。~中略~ 産業構造が変わって、第二次産業が基幹産業になると同時に、工場での工業製品の生産プロセスに準拠したメタファーが用いられるようになった。そういう転換は無意識のうちに行われたので、誰も気づかなかった。
- Honesty pays in the long runということわざがありますね。「長期的に見れば、正直は引き合う」という意味ですが、それは逆に言えば、「短期的に見れば、嘘は引き合う」ということです。
経営視点に置き換えた「サル化した世界」
前述した視点を経営に置き換えて考えてみると下記のようになるのではないでしょうか。
(1)広々とした歴史的スパンの中で「今」を見るという習慣がなくなった。
- 自社の過去の歴史を通じて核となる企業遺伝子・組織DNAを軽んじてしまう。
(2)長期ビジョンが失われ、刹那的な傾向が強まったように思います。
- 上場企業の四半期決算に代表される「今の業績」が優先されがちになっている。
(3)過去の自分のふるまいの結果として今の自分がある。未来の自分は今の自分の行動の結果を引き受けなければいけない。
- 起こった事象を「自分事(自責)」として捉えずに、自分以外の外部要因や「だれかのせい(他責)」にしがちな傾向がある。
(4)限定的な時間意識しか持たない人間と、広々とした時間意識を持つ人間がいる。
- 「今の損得」を重視する社員の多くと「将来のビジョン」を語る経営者の間の意思疎通・共感が得られなくなっている。
(5)今の経済活動の基本時間はもう人間的時間ではない。
- 以前に比べて、時間の経過が尋常でないほど早くなっている気がする。
(6)Honesty pays in the long runということわざがありますね。「長期的に見れば、正直は引き合う」という意味ですが、それは逆に言えば、「短期的に見れば、嘘は引き合う」ということです。
- 自分が担当している間にはほころびや矛盾が出ずに、担当変更後に問題が顕在化する。
何だか、多くの経営者が感じておられる懸念事項と重なっている部分が少なからずあるように思いますが、いかがでしょうか……。
成熟した考え方とは?
『7つの習慣』では「アイゼンハワーマトリックス」の名称で有名な「重要度の高低と緊急度の高低」で表す四象限があります。このコラムでも過去にご紹介させていただいていますので、ご参考にしてみてください。
上記の中でも書かせていただいていますが
「緊急ではないが重要」なことを放置していると何が起こるでしょうか・・・。
それは、ある日突然「のっぴきならない程、緊急!」という事態に姿を変えて、私たちの前に姿を現すということです。
と指摘させていただいています。
今回の新型コロナウイルス感染症の問題も「緊急ではないが重要」なことをないがしろにしてきた人類に対して「のっぴきならない程、緊急」なこととして姿を現してきたと考えることもできますね……。
「経営品質向上プログラム」では「組織の成熟度」という表現を使います。これは「成熟度の高い組織」とは、「緊急ではないが重要」なことを「将来・未来を見据えて確実に進めていくことができる組織」と言い換えることができると考えています。
そして「企業」とか「組織」という実体のないものの中で、それを実践するのは、経営者やリーダーさらには、所属員である社員という「人」となります。つまり、「企業」や「組織」には「将来・未来を見据えて確実に進めていくことができる人の集まり」であることが求められていることになります。
ということは、社員が「サル化」して刹那的で短期的な視点に基づいた思考の集団になってしまっていると、会社にとっても、ある日突然、「のっぴきならない程、緊急」なこととしての問題が起こり得る可能性を高めてしまうことになるのではないでしょうか……。
今回の騒動の目下の対策はもちろんですが、同時に「緊急ではないが重要」なことを経営者自らが先頭に立って、組織・社員の思考性をアップデートしていける機会にしていただくように考えてみてはいかがでしょうか。
今後も、よろしくお願いいたします。