第161回 現代社会における「精神的幸福度」を考える

5月に国連児童基金(ユニセフ)が「子どもの幸福度」に関する調査報告書を発表し、日本の子供は、「精神的幸福度」が32位と下位に低迷しているという調査結果でした。今回は、私たちビジネスパーソンを含めて現代社会における「精神的幸福度」のあり方に関して考えてみたいと思います。

現代社会における「精神的幸福度」を考える

皆さん、こんにちは。

時がたつのは本当に早いもので、もう6月……。アッという間に2025年も半分を過ぎようとしています。
米・トランプ関税の波紋や、国内では令和のコメ騒動と、私たちの生活に直接的な影響を及ぼす出来事が次々と起こっています。まさに「VUCA時代」という表現どおりになっており、2025年という年の後半がどんな年になっていくのか……本当に混迷を極める社会になっているように思います。

そんな時代を生きている中で、5月に国連児童基金(ユニセフ)が経済協力開発機構(OECD)および欧州連合(EU)の加盟43カ国の「子どもの幸福度」に関する調査報告書を発表しました。日本の子供は「身体的健康」は2020年に続き首位でありながら、「精神的幸福度」が32位と下位に低迷しているという調査結果でした。

この「精神的幸福度」は、子供たちだけの問題なのでしょうか……。大人の社会においても、親に注意されたから殺そうと思って親を人質にして立てこもった事件など、孤立感のようなものにさいなまされている方は多くいるのではないかと感じています。
また、2017年に米ギャラップ社が世界各国の企業を対象に実施した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査の結果、「日本は『熱意あふれる社員』の割合が6%しかいない」と発表して以降、この値はほぼ横ばいが続き、改善の兆しが見られないとされています。

ということで、今回は、私たちビジネスパーソンを含めて現代社会における「精神的幸福度」のあり方に関して考えてみたいと思います。

「ウェルビーイング(Well-being)」とは何か?

最近では「ウェルビーイング(Well-being)」という表現は、すっかり市民権を得ているほど浸透してきたと思いますが、あらためて理解を深めるためにひもといていきたいと思います。

「ベネッセ ウェルビーイングLab」によると、「主観的ウェルビーイング」と「客観的ウェルビーイング」とに区分がされると定義しています。

主観的ウェルビーイング
一人一人が自分自身で感じる認識や感覚によって見えてくるもの。測る指標として、「人生への幸福感や満足感」「生活への自己評価」「うれしい、楽しいなどの感情」などが挙げられるでしょう。例えば、「自分にとって良い人生とは?」「自分は今どんな気持ちだろうか?」と自分自身に問いかけることも、主観的ウェルビーイングを把握するために有効です。「良い状態かどうか」の感じ方は一人一人異なります。

客観的ウェルビーイング
客観的な数値基準で把握できます。例えば、平均寿命や生涯賃金、失業率、GDP(国内総生産)、大学進学率、収入に占める家賃の割合、労働時間や有休取得率、人と関わる時間、保育所待機児童数、育児休業取得者数、介護時間など、統計データで測れるものです。これらの統計データは、国別や県別などウェルビーイングの充実度を比較するときに利用されることがあります。

この区分から考えると「精神的幸福度」は、「主観的ウェルビーイング」と強く関わっていると考えられそうです。

「ベネッセ ウェルビーイングLab」(ベネッセ)

社会の影響を受けている子供たち

「経営の神様」と称されるP.F.ドラッカーの代表的な言葉の一つに「マネジメントとは人のことである」があります。
つまり、経営とは「人が自由で民主的な生活を送るための手段」として位置づけられており、「組織の中で人が幸せに、生き生きと自己実現し、幸せな生活を送るための道具」に過ぎないとしていることになります。

そういう意味で、経営の中心にあるものは「人が幸せになる」ということです。「人が幸せになる」ということの意味解釈は、それぞれの人によって異なり、見解が分かれることではあるかと思います。
ただ、その中の一つに「主観的ウェルビーイング」、つまり「精神的幸福度」が重要な要素の一つであることは、異論の余地は少ないのではないでしょうか。

つまり、社会の中の一つの機能として大人が関わる「企業経営」が位置づけられ、そこで、いろいろな価値観が形成されている大人が関わる子育てや教育を通じた言動や振る舞いが、子供たちの「精神的幸福度」に影響を与えていることは紛れもない事実なのではないでしょうか。

そして、上述したとおり「日本は『熱意あふれる社員』の割合が6%しかいない」という現実があるとされています。そう考えると、どうやら大人の「精神的幸福度」が低いから、子供の「精神的幸福度」が低いという仮説が成り立ってしまうかもしれません。

「精神的幸福度」を高めるとは……

色んなことが絡み合って、積み重なってきた結果の「今」なわけですから、こうした現実は何らかの取り組みの結果であると受け止めないといけないのだと思います。それにしても、どこで、どんなボタンの掛け違いがあったのでしょうか……

子育てをしている親の多くが、子供に対して「自分らしく」とか「好きなことをしてくれたら」といったことを大切にしている傾向が強くなっているように見受けられます。

その意味合いの本質を否定するつもりは全くありませんが、どこかで「自分さえ良ければ……」「自分が楽しいのであれば……」といったニュアンスの容認という誤解のまん延も許容してしまっていないでしょうか。

先日、とある会社の社長さんのお話を伺っている際に、社員の方々に対して「自分で決めた“自分以外の誰か”のために、自律的に行動できる人になれ」とおっしゃっているという話がありました。

つまり「社会で生きていく」ということは、「自分」という存在だけで成り立っているのではなく、「自分以外の誰か」との関わりの中で「自分の存在」が意味を持ってくるということです。

ですから「自分さえ良ければ……」「自分が楽しいのであれば……」というニュアンスを前提にして生きていると、現実社会の中で、「誰かとの関わり」という関係性の中で障害や壁・矛盾にぶつかってしまい、本人にとってのストレス、つまり「精神的幸福度」にネガティブな影響を与えてしまう結果になってしまうのではないでしょうか。

こう考えてみると「子供の精神的幸福度」は、実は「私たち・大人の精神的幸福度」を現しているだけなのかもしれません。

「自分以外の誰かのために、自らを律して行動できる」ことの実践の前提となる精神状態・思考性は、自分にしか興味のない人にはできるはずもなく、相手への興味・関心、つまり「自分以外の誰かのため」に心や想いをはせる人にしかなせられない業ではないかと思います。

今、TVCMで流れているJTの「心の豊かさをもっと」というメッセージをテーマにした「鬼と若い男女とのやり取り」が秀逸です。

鬼:おい、人、心の豊さって何だ?
男:分け合うことかな?
鬼:分けたら減るだろ
女:でも……“うれしい”が増えるでしょ?
鬼:ど、ど~ぞ
うれしさは分け合うと増える。鬼はまた一つ心の豊かさを知ったのでした。

大人である私たちが、あらためてここから考えることが、子供たちの「精神的幸福度」を健全にしていくことなのかもしれません。

そして、「大人である私たち」の「精神的幸福度」を高めていくために、企業経営者である皆さんが「従業員である大人」を本当に尊重し、信頼し、彼らを幸せにする考え方・姿勢、覚悟を持つという大きな役割を担っているのではないでしょうか……

引き続き、よろしくお願いいたします。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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