第106回 「両利きの経営」に求められる組織能力

「両利きの経営」とは「既存事業」と「新規事業」という相矛盾する二つの両立を求めていくことであり、両立させることができない組織は淘汰(とうた)されていく運命にあります。

「両利きの経営」に求められる組織能力

皆さん、こんにちは!

今月は冬に向かって新型コロナウイルス感染拡大の第三波(?)の状況も懸念されますが、大阪都構想/住民投票やアメリカ大統領選挙の話題が目立ったように思います。

ここで、政治的な話題を取り上げる気は全くありませんが、いろいろなメディアで取り上げられている「分断か? 統合か?」の「二者択一の是非」という視点は、企業経営においても大きな意味を持っているのではないでしょうか……。

米大統領選挙では、四年前のトランプ氏登場を境にもともと「存在していた課題」だったであろう課題を顕在化させ、右か左か、自分たちにとって損か得かのように「二者択一」を迫る時代の思考を台頭させてきたように思います。

それは、「既存事業か? 新規事業か?」で例えられることの多い話題で、『両利きの経営』(著:チャールズ・A・オライリー/マイケル・L・タッシュマン、刊:東洋経済新報社)という書籍で詳細が記述されています。今回は、その視点で「組織のあり方」を考えてみたいと思います。

「両利きの経営」とは?

上述のとおり、早稲田大学・入山章栄教授監訳の書籍でベストセラーになっていますので、ご存じの方も多いかと思います。

そのサブタイトルに「『二兎を追う』戦略が未来を切り拓く」と書かれています。

非常に奥深い内容ですので、ここで、私が全体を説明するわけにはいきませんが、帯に書かれている解説を借用すると下記のようになっています。

「両利きの経営」とは?

  • 知の探索:自身・自社の既存の認知の範囲を超えて、遠くに認知を広げていこうとする行為
  • 知の深化:自身・自社の持つ一定分野の地を継続して深掘りし、磨きこんでいく行為

両利きの経営が行われている企業ほど、イノベーションが起き、パフォーマンスが高くなる傾向は、多くの経営学の実証研究で示されている。

つまり、「既存事業を深掘りする能力」と「新規事業を探索する能力」の二つがあり、こうした相矛盾する能力を同時に追求することのできる組織能力が必要になるということを意味しています。

いわゆる「トレードオフ」が発生する問題であり、当事者同士の間では感情的な緊張関係を含めた対立が発生しがちになる問題だと思いますが、この両立を求めていくことが重要になるとの指摘だと理解しています。

ヘーゲルの「弁証法」的思考

「弁証法」という言葉自体は、古代ギリシアの哲学に登場してきた古いテーマですが、19世紀のドイツの哲学者ヘーゲルが提唱したそれは「正→反→合」のプロセスである「テーゼ→アンチテーゼ→ジンテーゼ(統合案)」の思考方法といえます。

そして、二つの意見の矛盾を解決し、よりよい結果を導き出すことを「アウフヘーベン」といいます。

「両利きの経営」も基本的には上記「弁証法的思考」的に考えていかないと「対立の構図」を乗り越えていけないということではないかと思います。

その場合の大前提として挙げられているのが「そもそもの“存在目的”の再定義」にあるのではないでしょうか……。

そして、その“存在目的”の継続のために、どのような組織能力が求められるのか……、になってくるのではないかと思います。

異なる組織能力の両立・併存

企業や組織における「存在目的」とは、「経営理念」や「社是」といったものとして明示的になっていることが多いのではないでしょうか。歴史のある企業であれば、「創業の精神」の類いで記されているかもしれません。
ソニーさんでいうところでは、有名な「設立趣意書」ということになるのでしょうか……。

そして、あまりに表現が古めかしい・時代にそぐわないと考えた場合に、その時の経営者が「使命」とか「ミッション」といったものに再定義されているケースもあるのではないかと思います。

いずれにしても、これらは「目的」であり「目標」ではなく、たどり着くことのない「エンドレスジャーニー・終わりなき旅」ということになります。

時代が変わり、世の中が変化していくわけですので、企業経営における事業そのものや、提供価値も変化・進化をしていかなければ、時代とのギャップが生まれてしまい、存続が問われてしまうことになります。

つまり、ダーウィンの「進化論」の中の言葉として有名な「この世に生き残る生物は、最も強いものではなく、最も知性の高いものでもなく、最も変化に対応できるものである」に行きつくことになるわけですよね。

ということは、「企業としての進化」のために「既存事業を深掘りする能力」と「新規事業を探索する能力」は両立させていかざるを得ないということであり、両立させることができない組織は淘汰されていく運命にある、ということを意味しているのではないでしょうか……。

それぞれの当事者としては、その責任感や誇り・自負が高ければ高いほど、拘泥する心情に駆られるものです。

だからこそ、こうした「相矛盾することの両立」を実現する組織にしていくには、あらためて「経営者のリーダーシップとしての“覚悟”」が問われるのではないでしょうか……。

Biz/Zineの会員サイトではありますが、AGC代表取締役社長・島村琢哉氏のインタビュー記事が参考になると思いますので、ご紹介させていただきます。

AGC島村社長に聞く、地道な対話による経営──偉大なリーダーは“人の心に灯をともす”(Biz/Zineサイト)

今後もよろしくお願いいたします。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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