第59回 組織と個人の価値観における相性

皆さん、こんにちは!

ふと気がつけば、暦は10月も半ばを迎え、アッという間に秋から冬を迎える季節になってしまいました。ここ数年、クールビズも10月末まで延長をしている会社が多いようですが、それも場違いな日に感じるような気温の日もあるような気がしています。でも、こうしたビジネスファッションのフォーマルというものさえも以前の常識が変わっていくように、私たちのビジネスそのものにおいても、変化が激しく、何が常識なのか分からなくなっているのではないでしょうか。

そもそも「常識」と思われていることが、実は歴史も浅かったり、つい数年前・数十年前からの慣習だったりすることは往々にして見られます。

そういう意味で「インタンジブル・アセット(見えざる資産)」と呼ばれる「組織風土・組織文化」がクローズアップされたのも、ここ20年ほどのことのような気がします。

そんな中で、ここ数回にわたってご紹介させていただいている「学習する組織」という概念は、「個人の多様性」の広がりを受容しつつ、かつ一方では「組織としての価値観」を共有するという、一見すると、この相矛盾するかのような事柄の両立を求めているとも言えます。

今回は「学習する組織」の5つの構成要素から「ビジョンの共有」「自己マスタリー(個人のビジョン)」の両立という視点を取り上げさせていただきます。

「ビジョン・価値観の共有」

組織において「ビジョンの共有」や、「価値観の共有」というものが重要であるということは、議論の余地がないほどに定着していると思います。組織を構成する従業員が、その組織が目指す方向や成し遂げていきたいことを認識していなければ、それぞれの行動は無秩序に広がっていくことになってしまいます。

企業における「ビジョン」というと、売り上げや利益といった定量的な業績や成果をもって「ビジョン」としているケースは今も少なからずあるかと思いますが、本来のビジョンとは「社会に対する使命」や「~のために」という目的を指しているものです。

その「目的」に向かって、構成員である従業員がそれぞれにその役割に応じてお互いに協力し、力を結集することで、「ビジョン実現」に向けて進んでいくことが「組織の成熟度」を高めていくことになるかと思います。

個人の多様性

「仕事をバリバリやってキャリアを積みたい人」「自己実現・自己成長というキーワードに敏感な人」「誰かの役に立っている実感を得たい人」、そしてもちろん「プライベートな生活・時間を大切にしたい人」……。本当に千差万別です。

こうして考えると「組織のビジョン・価値観を共有すること」と「個人の多様性を受容すること」とを両立することは、なかなか至難の業のように思われます。

確かに決して簡単なことではありません。ただ、世の中を見まわしてみると少なからず、それを実現している会社や組織はあるわけで、どう考えれば良いのかという知恵を絞るのが、経営者の皆さんの仕事なのかもしれません。

抽象度の難しさ

一般的に企業のビジョン「顧客への貢献(顧客満足度)」「社員への貢献(従業員満足)」と「社会への貢献」で構成されていることが多いのではないでしょうか。

私もいろいろな企業や経営者の方と接してきていますが「顧客をないがしろ」にし「社員を不幸」にし「反社会的な行為を推奨」してでも、自社の売り上げや利益を高めることを「是」とするといった方にはお目にかかったことがありません。

つまり、抽象度を最大に高めていけば、「顧客への貢献・社員への貢献・社会への貢献」の3要素に集約されてしまうということであり、これは「自社の利益の最大化」が目的ではなく、あくまでも「目標」であって、「目的」、すなわち「組織が目指すビジョン・価値観」においては「誰かのために役に立つ」ということが普遍的な要素であることを示しているのではないでしょうか。

ただ、この粒度にしてしまうと、業種・業態を問わず、規模の大小に関わらず、全ての企業が同じような表現になってしまいます。それでは「私たちの会社ならでは」の存在価値が明示的になりません。

ですので、多くの会社において「私たちならでは」の存在価値を模索し、それを通じた「ビジョン・価値観」を表現しようとしています。

組織の価値観と個人の価値観の相性

上記を同様に個人に当てはめてみると、いくらわがままや自己中心的な思考が目立つような方であったとしても、多くの場合「反社会的な行為をしてでも、自分さえ得をすればイイ」と考えている人は、そんなに多くはいないのではないでしょうか。

もちろん、少しでも給与が多い方がイイでしょうし、生活に困らない方がイイことは間違いないと思います。かといって、上記のように「反社会的になっても」「誰かに迷惑を掛けても」とは思っていないケースの方が多いのだと思います。

ということは、基本的には「善良な個人」の集団が「善良な組織」を形成しているわけですから、そもそも「組織のビジョン・価値観」と「個人の価値観」とは合致するべき特性を持ち合わせていると言えるのではないでしょうか。

相互を擦り合わせるポイント

上記のような特性を持っているにも関わらず、多くの企業で「組織の価値観と個人の価値観との齟齬」に苦しんでいる話は枚挙にいとまがないです。

なぜ、そんなふうになってしまうのでしょうか……。

結局のところ、本当に「組織のビジョン・価値観」をどれだけ大切にしているか、言っていることとやっていること(もしくは、やらせていること)とが一致しているかどうかに掛かっているのではないかと思います。

「人は、言っている言葉を信じるのではなく、行動を信じるのである」といったことはよく言われますが、結局「組織」という目に見えない・実態のないものが醸し出す「組織の常識」という名の「空気感」が、その行動を規定してしまっているように思います。

つまり「組織のビジョン・価値観」がどれだけ崇高なものであったとしても、それに向かう行動が実践されているかどうかがその構成員の共感につながっていくのです。

人は弱いものではありますが、経営者として組織を率いるお立場にいる皆さんだからこそ、「言行一致」に対する「真摯さ」を持つ覚悟がいるということなのではないでしょうか。

今後も、よろしくお願いいたします。

次回は11月16日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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