第60回 経営における『「空気」の研究』

皆さん、こんにちは!

アメリカではトランプ氏が大方の予想を覆し、次期大統領として選ばれ、良くも悪くも今後の世界に大きな変化が予想される状況になりました。アメリカでは既に大規模な抗議活動も起こって国を二分するかのような影響がでてきており、今後が見通しづらい時代になっています。

フィリピンのドゥテルテ大統領も含め、従来の国家元首のイメージとは異なるタイプのリーダーが台頭しているのには、やはり従来の政治のあり方による閉塞感や矛盾の限界がピークに来ていることの現れなのでしょうか……。

日本でも国家レベルではないとはいえ、東京都知事になった小池百合子氏の取り組み方は、やはり従来の日本政治のそれとは一線を画すアプローチであるように感じます。

その小池百合子氏が「座右の書」として『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(共著:戸部 良一氏・野中 郁次郎氏他/中公文庫)『「空気」の研究』(著:山本 七平氏/文春文庫)」を挙げられ、あらためて注目を浴びているようですが、今回は、『「空気」の研究』を企業経営・組織運営・リーダーシップの視点で考えてみたいと思います。

『「空気」の研究』のポイント

『「空気」の研究』は、記述が哲学的であり、なかなか難しい部分もありますが、この中で印象的なポイントを表しているフレーズの幾つかをご紹介させていただきます。

  • 事実を事実のままのべても、それは事実であるから(中略)それは大変なことではありますまい。大変なことは、私が口にしようとしまいと大変なことです(P.12)
  • 事実を、まず事実のままに知らせる必要がある、それをしないなら、それを克服することはできない(P.13)
  • 「せざるを得なかった」とは、「強制された」のであって自らの意志ではない。そして彼を強制したものが真実に「空気」であるなら、空気の責任はだれも追及できない(P.17)
  • 論理的判断の基準と、空気的判断の基準と言う一種の二重基準(ダブルスタンダード)のもとに生きているわけである。そして、我々が通常口にするのは論理的判断の基準だが、本当の決断の基本となっているのは「空気が許さない」という空気的判断の基準である(P.22)
  • 日本人には、元来、何の意味も持たない「物質」や「事実」に、何らかの意味を持って捉えてしまう傾向があり、それを絶対視化してしまう(臨在感的把握)(P.37)
  • 同様に、「善悪」のように「一方を善、一方を悪」というように、「対立的概念」で捉える傾向があり、どちらかを絶対視化してしまう(対立概念による対象把握)(P.51)
  • 「一つの命題が絶対視化された場合の恐ろしさ」「敵」という言葉が絶対視化されると、その「敵」に支配されて、(中略)結局は一億総玉砕という発想になる(P.87)

参考文献:山本七平(1983)『「空気」の研究』文春文庫.

ザッとご紹介させていただきましたが、「臨在感的把握」や「対立概念的対象把握」といった堅い表現はありますが「なるほど……」と思われる部分は多いのではないでしょうか。

これ以上の説明は、私レベルではしかねますが、ご興味を持たれた方は、ぜひご一読をお勧めします。

経営者・リーダーが考えるべき「空気」に対する認識と行動

この著書の中では、最終的に「絶対視化」の怖さを指摘しているのだと理解しています。何かを「絶対視」することは、同時に、それ以外を「否定」し、「敵対視」する結果になることと同義であると指摘しています。

つまり、一般的には、経営者・リーダーが「自分の信じること」が確固たるものとして確立されていることは重要だとされ「理念」といった形で表現されるケースが多いと思います。しかし、それらを含め「絶対視」してしまう段階に踏み込んでしまうと、それ以外は「敵」「間違っている」という思考に陥って「他を容認しない」という「空気」を生んでしまい、結果的に「周囲にイエスマンしか置かない」「部下・社員は何も言わない」といった現象を生み出してしまうということになるのではないでしょうか……。

会議やミーティングで、部下に意見を問うた際に「特にありません」と言われたご経験は多くの方に覚えがあるかと思います。
私は、以前ある方に「“特にありません”という表現は、本当に“ありません”という意味ではなく、“特に”と“ありません”の間に隠れている言葉があるんだ」と教示いただいたことがあります。
皆さん、どんな表現が隠れていると思いますか……。

それは「特に“あなたには言いたいことは”ありません」でした。
つまり「あなたに言っても聞いてもらえないので、言いません」という意味で使っているという話になります。
実に「空気を読んだ発言」ですね……。

その「空気」を醸し出している要因が「経営者や、その会社・組織の歴史の中で形成されてきた“何か”に対する絶対視化」であるのだとしたら、そこを解決しない限り、「空気」に支配され続けることになってしまうのかもしれません。

この著書で書かれている内容は、「空気を重んじる日本人の特性・傾向」の要因を分析・解析することを通じて、それを克服できるようになることを主眼に置いていると思われますが、いまだに若い人たちの中でさえも「KY(空気が読めない)」といった表現があるということは、21世紀も10年以上経った現在においても、まだ全く克服できていないということを表しているように感じます。

「従業員がイキイキと働く組織風土」を作っていきたいとお考えになっている経営者やリーダーのお立場であれば、一度自社の「空気」を形成している「絶対視化」してしまっていることが何なのか? と向き合う必要があるのかもしれませんね。

今後も、よろしくお願いいたします。

次回は12月21日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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