第58回 指を自分に…

皆さん、こんにちは!
暑い暑い夏が過ぎ去り、台風と共に秋が近づいていますが、皆さん、被害はありませんでしたでしょうか。例年とは違い、東北・北海道を中心に大雨による被害があったようで、日本を取り巻く気象状況が大きく変わっているようですね。
被害にあった皆さん、心からお見舞い申し上げます。

ところで、最近、ご支援させていただいている会社さんで「組織風土・社員の思考性」をテーマにしているお客さんが数件ありますが、一様に特徴的な思考性があるので、今回はそれをテーマにしたいと思います。

前回は「学習する組織」から「メンタルモデルの克服」を取り上げさせていただきましたが、その中でも象徴的なクセとして挙げられる「他責思考」についてご説明します。

「他責思考」

「他責思考」とは、三省堂大辞林「Weblio」では「思いどおりに物事が運ばない時に,それを自分以外のもの,状況や他の人などのせいにしようとする傾向」とあります。
日々起きる物事の理由を何かと「誰かのせい」にしてしまい、自分は何もしないで文句やできない理由を挙げてしまいがちな傾向とも言えるかと思います。

この「他責思考」は「メンタルモデルの克服」の視点で見ても、極めて象徴的な思考性の一つです。

エドワード・L・デシの「外発的動機づけの限界」

心理学者エドワード・L・デシの有名な実験で「ユダヤ人の洋服屋さん」という話があります。概要は以下のとおりです。
アメリカでユダヤ人が迫害されていた1890年代のこと。
あるユダヤ人が洋服屋をオープンしたが、オーナーがユダヤ人と分かるとお客さんが来てくれない。何とか知られないようにしたかった。
ところが、どこで嗅ぎつけたか、アメリカ人の悪がきどもがその事実を知り「オ~イ、この店はユダヤ人の店だぞ~。こんな店で買うな、買うな」と囃し立てたそうです。
この悪戯に困ったこのオーナーは、あることをして子供たちを黙らせたという話ですが、一体オーナーはどうやって黙らせたのでしょうか…。

これは「外発的動機づけの限界」というテーマで有名な逸話ですが、実はこのオーナーは子供たちに「1ドル」をあげたそうです。そして「バレたくないから黙っていて…」と言った…。
実はそうではなく「1ドル」を渡して「もっと言って」と言ったそうです。

???
これで黙るのでしょうか…。調子に乗って、翌日も来たその子供たちに、今度は「50セント」を渡して、また「もっと言って」と言ったそうです。
そして、またその翌日。今度は「10セント」を渡して「もっと言って」と言ったそうです。

すると、その子供たちは「バカバカしい!10セントなんかで言ってられない」と言って、冷やかすのを止めた…という話です。

これは「外発的動機づけの限界」として、右肩上がりでなければ続かないということの証明として有名なのですが、今回は少し掘り下げて「他責思考に陥る罠」という視点で解説させていただきます。

他責思考に陥る罠「目的の変容」

上述の話で、悪戯をした子供たちはなぜそんな悪戯を始めたのでしょうか。
おそらく、彼らは「オーナーの困る顔」を見ることが楽しく、「コラ~ッ」と言われ、蜘蛛の子を散らすように逃げることが楽しかったから始めたのではないでしょうか。
つまり「自分たちが楽しかった・面白かった」から悪戯を始めたということになります。

ところが、「お金をもらう」ことで、目的が「楽しむため」だったことが「お金をもらうため」に変わってしまい、それがもらえなくなったために止めてしまいました。

その「目的」が変わってしまったことに、本人たちは気づいていません。

また、この子供たちに「どうして止めたの?」と聞いたとします。
おそらく「あのオーナーはケチだから。お金をくれなくなったから」といった類の理由を挙げるのではないでしょうか。

つまり、始めた理由は、「自分たちが楽しむため(自責)」であったはずなのに、止めた理由は「人のせい(他責)」にしているということになります。
ところが、多くの場合、「自分が止めたことを人のせい」にしていることには気づかずに、自分を正当化してその理由を言ってしまっているのです。

「他責思考」を自覚的にするには…

このように「何かと自分を正当化して誰かのせいにする」ということが往々にして見ることがあります。

再三表現しているように「無自覚」ですので自分では気づきにくいという難問があるわけですが、少しでもそれを「自覚的」になるようにするには、どうしたら良いのでしょうか…。

その方法の一つが「指を自分に…」という言葉です。「アイツは…」と相手を指さしている時には、人差し指は相手に向けていても、少なくとも中指以下の3本は自分に向いているという話です。

つまり、「仮に相手に要因があったとしても、こちらにもそれ以上の要因があったのではないか…」と考えるようにするということです。

現実には、なかなかそう思えないケースがあるとは思いますが、組織のリーダーである経営者の皆さんであればこそ、そんな「謙虚な気持ち」をいつも忘れないようにしておく必要があるのではないでしょうか。

今後も、よろしくお願いいたします。

次回は10月19日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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