最終回 センスのいい人、悪い人

「おまえは本当にセンスね~やっちゃなあ」
もう何年たつか忘れてしまったが、新入社員のころ、隣に座っていた上司から毎日言われ続けた台詞である。最初は気にしなかった。「センス=仕事の進め方」と解釈していたので、そのうち慣れれば、仕事を覚えていけば、と思っていた。

ところが何ヶ月たっても上司のボヤキは一向に止まらない。止まらないどころか「何をやらせても」とか「どうしようもなく」とかいう形容詞がつくに至って、さすがに悩んだ。聞いても教えてくれない。「そんなもん自分で考えろ!」という、とても親切な回答である。これが私と「センス」という得体の知れない化け物との壮絶な戦いの序章であった(笑)

まず取り組んだのは「センス」の形式知化。と書くと格好いいが、要するに「センスって何?」と聞かれた時に「センスとは○○である」と誰もが納得できるように説明できるようになることを目指した。

結論を先に言うと、ずばり「センス=バランス」補足すると「2次元、3次元、4次元のバランスを制御する能力(ちから)」(注:私が勝手に定義していることであって、一般論ではありません)

ドキュメントの作成/デザインを例にとると、タイトル文字の大きさと背景とのバランス。縦横位置のバランス。色合いのバランス。濃淡のバランス。左右何センチ上下何センチ。この「微妙な」バランスによって完成品のイメージ、伝わり方、訴求力が変わってくる。これを「誰が見ても納得する配置」に制御できる人を「センスがいい人」制御できるように訓練することを「センスを磨く」と強引に定義づけた。

いったん定義づけてしまうと、そこからは結構とんとん拍子に説明できるようになってくる。ピラミッドで有名な「黄金数」「黄金比」なる考え方はその典型ではないだろうか。いわく、世の中の完全といわれるものはすべて1:1.61803の比率で構成されている。美しい人の目鼻立ち。モナリザ。名刺の縦横規格。つまりは2次元のバランス感覚の形式知化である。

次に3次元。私は新入社員のころ、会社の華道部に所属していた。毎週水曜日18時から会議室で女性社員に囲まれて花を生けて帰ってくる。この経験は貴重だった。ご存知の方もいらっしゃるかと思うが、生け花には基本形がある。一番背の高い中心となる花を芯、右45度で2番目の添え、そして左前方に角度をつけて三番目の控え、と配置し、すべての完成形がこの形に添っているというもの。

体験して初めて知ったが、いたるところにある生け花を見れば、なるほど基本形を踏襲しているんだな、ということに気づく。これなどは空間(3次元)のバランス感覚を形式知化した事例ではないだろうか。ミケランジェロのダビデ像、ロダンの考える人、バレエダンサー、ダニールシムキンの空中姿勢等々、美しいものは(おそらく)誰が見ても美しい。のである。

そして重要なのが4次元、時間の制御。最近、柳家紫文師匠の都々逸(どどいつ)、三遊亭兼好師匠の落語を至近距離で堪能できる機会があった。テンポとリズム、「間」の取り方に衝撃を受けた。

一つの言葉を発した後、反応を正確に見極めてから次の言葉を、絶妙のタイミングで叩きこんでくる。コンマ一秒でも遅れれば(あるいは早過ぎれば)、おそらく全く違う伝わり方になるのであろう、まさに刹那の制御術。伝統芸能の底力と同時に名人芸と称される奥の深さを思い知らされた。

黄金比、生け花、落語。いずれもバランス感覚を「誰にでもわかるように体系化した手法」つまり「センスがいい」を標準化したノウハウに他ならない。この体系化されたバランスに、あえてアクセントを加えてみる。完璧なドキュメントのタイトルを若干左にずらして3ポイントほど大きくする。そうすることによりバランスが崩れた分だけ、作り手の主張が入る。最初からバランスを崩したものにするのではなく、あくまでも体系化されたバランスに対し、アクセントを加えていくのである。

「お客様へのレスポンスは早く」とは言うが、単純に早ければいいってものじゃないはずである。遅すぎず早すぎず、別の要素(情報の正確性、内容の充実度合い)とのバランスも制御した上で、最善のレスポンス返却を可能とする「総合的なバランス感覚が身に付いている人」が(たぶん)「センスのいい人」ということではないかと思っている。

淀みなくスラスラと非の打ちどころのない完璧なプレゼンテーションよりも、時につまりながらも緩急つけながら丁寧にこなす説明の方が伝わりやすかったりするのである。

そう考えると、世の中には究極のセンスの持ち主が存在する。先に出したバレエダンサー、ダニールシムキン。雑誌に掲載されていた彼の写真に直線を引いて、実際に定規で測ってみたことがある。左右の指先の間の長さ:頭からつま先までの長さ=1:(1+√5)/2正確に黄金比だった。最初、彼自身が意識的に黄金比を制御しているのかと驚いたが、冷静に考えれば、そんなことできるわけがない(笑)これはひとえに撮影したカメラマンの「センス」。

また、映画ボレロで有名なジョルジュドンのダンスも監督のモーリスベジャールが照明装置(光と影)、単調なボレロのリズムに4次元の強弱とスピードを駆使して10分前後の演技を、何度見ても、いつまで見ていてもあきさせない次元にまで昇華させていた。

さらに、あの、有名な「興福寺の阿修羅像」を作った人。

阿修羅像[あしゅらぞう](法想宗大本山 興福寺 Webサイト)

モデルはインドの神様らしいが、三面六臂(さんめんろっぴ)の姿を、私は顔と両腕を高速で動かしている少年。つまり残り二つの顔と4本の腕は残像。と解釈している。

この像を3種類の姿(右の顔と左上の腕と右下の腕+真ん中の顔と左右の真ん中の腕+左の顔と左下の腕と右上の腕)を重ねたものとして眺めていると、エキゾチックなダンスを踊っている少年の連続動作がありありと浮かびあがってくるのだ。

私は、おそらく作者が、写真も動画もない時代に、踊っている少年の姿を見た感動を伝える手段として、このような仏像を作り上げたのではないか?と信じている。日本が世界に誇るアニメーション技術の原点!(注:私が勝手に思っているだけです。学術的根拠は全くありません。)

「おまえは本当にセンスねえやっちゃなあ~」
時を経て、入ってきたばかりの新人君に偉そうに説教している自分がいる。より美しく!よりスマートに!私自身が、アライアンスコーディネーターとして、総合的なバランス感覚を身につけるべく格闘中の日々。その過程での創意工夫、挫折、を通して少しでも「センスのいい人」に近づけるようこれからも精進していきたい。しかし、上には上がいる。道は、まだまだ、はるかに遠いことを実感する日々。である。

アライアンスコーディネータの独り言。ここで(一旦)打ち切らせていただきます。半年間ありがとうございました。
次回からは弊社コンサルタント中小企業診断士、清永健一による「営業コンサルタントの独り言」(仮題)をお届けします。どうぞお楽しみに。

最後に4月2日からオンエアされているNIコンサルティングのTVCMを紹介します。
自戒をこめて作りました。

「コンサルは絵に描いた餅では困る」(株式会社NIコンサルティング Webサイト)

引き続きよろしくお願いいたします。

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この記事の著者

株式会社NIコンサルティング ビジネス企画推進部 部長

古川 豊

慶応義塾大学理工学部卒業後、専門商社のSI部門でシステムエンジニアとして、数々の基幹システム構築/運用に関わる。2000年よりパートナー営業として国内初の国産企業ポータルパッケージ拡販に従事。2005年NIコンサルティング入社。中堅・中小企業の営業改革・IT導入に携わるとともに、パートナー企業とのお互いの強みを活かした数々の「価値協創ビジネスモデル」を構築。今日に至る。石川県白山市出身。
twitter: @yutakafurukawa
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