第4回 戦略的なマリーシア

「日本チームにはマリーシアがない、それが世界で通用しなかった最大の原因だよ」

思い起こせば6年前、ジーコ監督率いるサッカー日本代表が、大会前の大きな期待にもかかわらず“惨敗”したW杯ドイツ大会。直後の、ブラジル代表カカ選手の発言。

マリーシア(ポルトガル語)を直訳すると、「ずるがしこい」「アンフェアーな」という意味だが「いい意味でのずるさ」「ルール内で許容された不正」と言ったほうがあっているかもしれない。
いずれにしても、あまりいい言葉ではない。
サッカーの世界で言えば、審判の見ていないところで倒れている相手に蹴りを入れたり、時間稼ぎの為にゆっくりと行動する等がこれに該当するのだろう。

この発言を聞いた時、私はとても違和感を覚えた。
Jリーグ発足当初ならまだしも、当時の日本代表は世界で経験を積んだずっるい選手をたくさん擁していた。たいしたことないのに足を押さえて転がりまわる。セットプレーのドサクサに紛れて相手のジャージを引っ張る等々。
それ故、大会前の期待感が大きかった訳で、そんな(成熟した)(大人の)チームに対していまさら「マリーシアがない」なんてことはないだろう?という違和感である。

しかし、よくよく調べてみると、一般的に理解されているマリーシアは、同じポルトガル語で「マランダラージ」と呼ばれるものであって、カカ選手が言ったのはどうやらイタリア語の「マリッツイア」。サッカーでも使用されるが、どちらかというと、男女の関係で使用されることが多い言葉、とのことだった。さすが、愛情の国イタリア(笑)

マリッツイア(イタリア語)とは、相手に「こうして欲しい」と思う行動をさせるための行為のこと。
バーの片隅に一人で座っていた女性が、反対のカウンターに座ったイケメンに、ちらり、ちらりと熱い視線を送り続ける。その結果、イケメンの方から「お隣の席はあいてますか?」と切り出してきた。
この時、彼女がとった「ちらりちらりと熱い視線を送り続ける行為」がマリッツイア。
確かに「ずるがしこい」「アンフェアーな」と言えなくもないが、前述の「マンダラージュ」とは明らかに一線を画す言葉であり、カカ選手は、さらにその技術?を、チームとして戦略的に使いこなすことが世界の一流チームの証であると言及している。

要約すると、マリーシアとは「豊富な経験から得た知恵」。
マリーシアを使うとは「試合に勝つために、知恵を絞ること」。
つまり、マリーシアが足りないとは、「チームとして経験が足りない」「チームとして全く知恵を絞っていない」「チームとして子供と同じ」いやはや(実は)相当きついことを言われていた。ということになる(汗)

相手に「こうして欲しい」と思う行動をさせるための行為。これをサッカーで、チームとして、戦略的に実行すると、どうなるだろうか?ディフェンダーがシュート力のない選手をわざとフリーにして、その選手にパスが通りやすくしておいて、計算どおりシュートを打たせて外させる。
こんな感じだろうか。

マリーシアの目的は、決して個人レベルでのミッション完遂を追及することではない。
ディフェンダーの仕事(ミッション)は相手を止めることだが、それ「ダケ」に集中するとシュート力の弱い選手にパスを通すという行為そのものがタブーであり、わざとシュートを打たせて外させるなんて発想にはとても結びつかない。「得点を与えないこと」という一つ上の目的を共有していれば、その行為が自分の(あらかじめ与えられた)使命から外れていても一向に構わない。
この感覚が戦略的にマリーシアを使いこなす本当の前提であり、自分の「与えられた」仕事に対してまじめで、決まりごとを、愚直なまでに守り抜くことが得意な日本人にはなじまない考え方、、、と思われている。

本当に、日本人にはなじまないのだろうか?方法はないのだろうか?

まず、チームとして「目的」と「目標」と「戦略」を共有する。ここで言う「目的」とは、的(マト)であり最終のゴール、「目標」とは、目的にたどり着くまでの道標(マイルストーン)、そして、目標実現の為の対策が「戦略」。これを個人のミッション(アクション)に落とし込む。ここまでは日本チームの得意とするところ。何の問題もない。

ところが、「戦略」とはあくまでも「仮説」であり、実行した結果を「検証」し、問題(ギャップ)が生じたら直ちに修正して「新戦略」を立てて再実行する必要がある。これを「試合中にやってのけることができるかどうか?」が、戦略的にマリーシアを使いこなせるチームとそうではないチームとの違い、と、私は思っている。

サッカーは(実は営業活動も)相手があって初めて成り立つものであり、自分がどんなにこういうプレーをしようと練習を積んできても、思い通りにならないことの方が多い。実際に思い通りにならなかった時にどう対応するか?世界の一流チームは、何百種類ものパターンをチーム内で共有し、試合中に、試合の中で、修正対処してくる。

たとえ普段は別のチームに所属していても直前の合宿で意思疎通・情報共有を完成させ、試合が始まれば、絶妙の連携プレー(チーム全体で頭を使った高度なマリーシア)を展開してくる。前述のカカ選手によれば、直前の合宿で確認するポイントは4点のみとのこと。すなわち、目的、目標、戦略(仮説)、他の選手の力量の見極め(何ができて何ができないか)だけ。

逆説的だが、目的、目標、戦略(仮説)、リソースの見極めを共有し、実戦の中で、仮説→検証のサイクルをスピーディーに回すことができれば、戦略的にマリーシアを使いこなすことが可能になる。ということになる。

目的、目標を、それぞれ、経営理念、ビジョンと置き換えると、これは企業経営でも同じ。市場環境の変化は戦略の変化をもたらす。
市場環境の変化により新たな戦略が必要になった時、勝ち残る為に自らが市場環境にあった戦略のPDCAを、切られた期限内で(サッカーで言えば試合中に)高速回転させること。が、組織としてマリーシアを戦略的に使いこなす為のポイントだと考える。

今、チームとして何をなすべきかを理解し、勝利という最終目的のため、今、その一員として何が求められているかを判断し、プレーすること。練習のときから、常に頭を使って、賢くプレーすること。これができていないと、いかに技術を持った選手を集めてもカカ選手が言う「チームとして知恵を絞る」という感覚にはほど遠い。

あれから6年、日本代表の進化はすばらしい。オシム監督、岡田監督、そして、ザッケローニ監督の元、選手個人の能力は既に世界基準。チームの目的、目標、戦略(仮説)の個人レベルへの浸透、さらに、試合中のPDCAサイクルの高速回転も十分機能しているように思える。これならカカ選手に「マリーシアがない」などという(屈辱的な)ことを言われることもないだろう、と書こうとしたタイミングで、ウズベキスタンに意味不明な負け方をしてしまった。私は、直前の情報共有・コミュニケーションが不十分だったことが原因(香川選手、長友選手が合流したのは試合1日前)だと思っている。

このセミナー、是非、ザッケローニ監督に見て評価いただきたい。
あっ、書いてしまった(笑)

次回は4月初旬の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社NIコンサルティング ビジネス企画推進部 部長

古川 豊

慶応義塾大学理工学部卒業後、専門商社のSI部門でシステムエンジニアとして、数々の基幹システム構築/運用に関わる。2000年よりパートナー営業として国内初の国産企業ポータルパッケージ拡販に従事。2005年NIコンサルティング入社。中堅・中小企業の営業改革・IT導入に携わるとともに、パートナー企業とのお互いの強みを活かした数々の「価値協創ビジネスモデル」を構築。今日に至る。石川県白山市出身。
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