第3回 若者の涙

それは異様な光景だった。全国高校ラグビー決勝戦。残り時間3分。スコアは36-19。勝負の行方が(ほぼ)決まりかけてたのは誰の目にも明らかだった、が、この時、負けている学校の選手が泣いていたのである。一筋の涙を流す、とか、目を真っ赤にする、とかいうレベルではない。TV画面に大写しにされたそれは、感情も露わに、顔をクシャクシャにして泣きじゃくっている中心選手の姿だった。

「おいおい君、まだ終わってないんだよ、まだ5分くらいあるじゃないか、可能性はゼロではないんだぞ」と(つい)叫びたくなる気持ちを抑えるのに苦労してしまった。

高校ラグビーに限った話ではない。高校野球でも、9回裏、追い込まれたチームのベンチを映したカメラが、泣きじゃくる選手達を捉えた映像を時々目にするようになった。一体いつのころからだろうか?(たぶん、現在日本ハムの中田翔選手が9回途中から大泣きしていたのを見たのが最初だったと記憶している)

泣くのが悪いと言っているのではない。まだ、終わってないのに、勝負がついていないのに、なぜ泣くのだろう?という素朴な疑問である。

ここに戦術的な意義があるというのであれば話は別だ。例えば、泣くことによって、ある種の脳波が活性化され、一時的に試合展開を優位にすすめられるようになる(幼稚な表現で恐縮だが)スーパーサイア人に変身!的な最後の切り札なのだ。とか。相手チームや審判が同情してタックルや判定がつい甘くなるのだ。とか。

しかし、残念ながら、どう(ひいき目に)見ても、泣く=諦め=戦意喪失、としか結びつかず、あ、このチームもうダメだな。この試合決まったな。と感じてしまう。無責任にTV観戦している私でさえそうなのだから、同じグランドで一緒に戦っている他の選手の目にどのように映っているかは推して知るべし。事実、試合終了前に選手が泣きだして、それ以降、逆転した事例を、少なくとも、私は知らない。

もちろん、私自身は、高校時代に、青春の全てをかけてスポーツや勉学に打ち込んだ経験があるわけでもなく、全国トップレベルでしのぎを削る彼らに対して偉そうに批評するような資格もなければ、その立場でもないのだが、企業における実務経験者として主張したいのは、企業は「目的集団」である、ということ。仲良しクラブでも家族でもない。顧客価値(社会的価値でもいい)の増大を目指して共に戦う同志である以上、その目的に対して勝つために、あらゆる方法を、ひとりひとりが問題意識を持って、当事者意識を持って、最後の最後まで模索すべきであるし、事実、戦う集団において「諦める」という言葉が持つ意味、その怖さをいやというほど味わった体験があるだけに、どうしても(職業がら)見過ごすことができないのだ(苦笑)

北島康介選手の「勝負脳」で著名な日本大学の林成之教授は、勝負脳を鍛えるポイントとして「否定語を使わないこと」を上げている。脳に入ってきた情報はドーパミンA10神経群を通り、前頭前野に送られてくる。嫌なこと、嫌いなことなど否定的な情報がドーパミンA10神経群に入ってくると、それらの情報は拒否したいので、神経細胞はあまり反応せず脳は活性化しなくなる。そういう状態が続くと、思考のうねり(人間の考えるメカニズム)が発働されなくなりドーパミンA10神経群の機能はどんどん低下し、意欲の減退や思考力の低下を招く。ということらしいのだが、決着前に泣いてしまう、という行為は勝負の過程で「否定語を使う」に等しい行為。その結果、勝利の可能性を自らの手で閉ざしてしまう行為。と解釈されても仕方がないのではないだろうか。

勝負の中で明らかにマイナスとなることをなぜやるのか?(やってしまうのか?)

使い古された表現だが「絶対に何があってもあきらめない」「勝負は下駄を履くまでわからない」というのは、この舞台に立つレベルの選手であるなら当然、わかりきっていることだと思うし、そう信じたい。おそらく、全員、日ごろから自分自身をギリギリまで追い込んで、想像を超えるような厳しい訓練を積んできているのであろう。それが最後の最後、ついに届かない。もう駄目だ。と思った(判断してしまった)瞬間に、気持ちが切れて感情を抑えられなくなってしまった。ということなのであろう。

面白いのは、林教授は、もう一つのポイントとして「素直であること」と述べていること。素直な性格は「素直に集中できる力」を生み出す。勝負の場面でも集中することで一切の迷いがなくなるため、実力以上の力を発揮できるようになるから、だそうだ。

「素直である」がゆえに集中力を高めることができる。しかし「素直である」がゆえに、集中力が切れた時に感情のコントロールができなくなってしまう。と仮説すると、問題は「試合終了前に集中力を切らせてしまうこと」であり、それに対する課題は「最後まで集中力を切らさないこと(集中力を維持すること)」となる。

統計学上では、30万分の1以下の確率はゼロ、と言っていいのだそうだ。逆に言えば、30万分の1より確率が高ければ可能性は存在するわけで、「勝負は下駄を履くまでわからない」というのは、あながち精神論とかたづけてしまうことはできない。であるならば、最後まで、もっと言えば、ゴールした後まで、全力で駆け抜けるべきであり、途中で集中力が切れてしまった。などという言葉は、このレベルの選手達からは聞きたくないのである。

ビジネスの世界でも、喜怒哀楽がその結果を左右してしまう部分は多々存在する。自分の感情に素直に従うことは大切であるが、それが周りに与える影響を考えると、時にはその感情を抑え込む、抑え込み続ける強さも、組織を運営するリーダーとして必要なのではないだろうか。

弊社、孫子兵法家、長尾一洋が、そのブログの中で語っている一説を紹介したい。

感情的に戦いを始めてはならない(孫子兵法家の孫子ブログ「経営風林火山」 Webサイト)
(参考) http://blog.livedoor.jp/niconsul/archives/6410594.html

真逆のケースとして、もうひとつ注意したいのは、勝っている選手が試合終了前に泣くケース。有名な事例として、西武ライオンズの清原選手が日本シリーズ最終戦9回2アウトで感極まって突然泣き出してしまった。というのがあった。25年前の話。彼は今や若者ではないが・・・(笑)

「絶対に何があってもあきらめない」「勝負は下駄を履くまでわからない」

陳腐化された言葉だが、効果があるからこそ多用され、多用されるからこそ陳腐化する。この言葉の持つ意味を今一度噛みしめて、自らの感情を抑え込む集中力を“試合終了のその後”まで持ち続ける「心の強さ」、これを鍛えることを、願わくば、これからの日本を背負って立つ若者達に、求めて止まない。

次回は3月9日更新予定です。

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この記事の著者

株式会社NIコンサルティング ビジネス企画推進部 部長

古川 豊

慶応義塾大学理工学部卒業後、専門商社のSI部門でシステムエンジニアとして、数々の基幹システム構築/運用に関わる。2000年よりパートナー営業として国内初の国産企業ポータルパッケージ拡販に従事。2005年NIコンサルティング入社。中堅・中小企業の営業改革・IT導入に携わるとともに、パートナー企業とのお互いの強みを活かした数々の「価値協創ビジネスモデル」を構築。今日に至る。石川県白山市出身。
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