第7回 企業にとっての「収益力」とは何か~攻めと守りの視点から読み解く~

2025年版『中小企業白書』では、「収益力の強化」が中小企業の持続的成長にとって不可欠であることがあらためて強調されました。売上や利益といった表面的な数字だけでなく、「どれだけ継続的に稼ぎ」「不確実性に耐える財務体質を持てるか」が問われている時代です。
本コラムでは、「収益力」を“攻めの力=稼ぐ力”と“守りの力=財務体質”の二つに分けて考え、その構成要素を整理します。

企業にとっての「収益力」とは何か~攻めと守りの視点から読み解く~

収益力=稼ぐ力+守る力

収益力とは単に売上・利益を出す能力ではなく、「稼いだ利益を継続的に生み出し、財務的に企業を支える力」のことです。
この収益力は、次の二つの力に分けて捉えると実践的です。

稼ぐ力(攻め)
市場で価値を創出し、売上や利益を伸ばす力
守る力(守り)
財務面での健全性を保ち、不況時にも耐える体質を持つ力

以下、それぞれの構成要素について解説していきます。

稼ぐ力(攻め):利益を生む仕組みを作る

1. 売上構造

売上は「単価×数量」で構成されますが、中小企業においては取引先構成やチャネル依存度なども含めた“構造的な安定性”が重要とされています。

  • 売上が1社依存になっていないか?
  • 市場縮小リスクのある製品に偏っていないか?
  • 他社参入による売上縮小のリスクが無いか?

売上高だけを見るのではなく、どのような構造で稼いでいるのかに目を向けることが、収益の持続性を高める第一歩です。

2. 粗利管理

売上が高くても、利益率の低い取引や事業では持続的な成長が難しいケースもあります。商品別・取引先別の粗利分析を行い、採算性の高い領域へ経営資源を集中することが求められます。

  • 販売管理費に見合う粗利が出ているか?
  • 値下げや特別対応で粗利が圧迫されていないか? 相応の競争力が確保されているか?
  • 材料費、輸送費の原価率上昇を価格転嫁できているか?

コスト削減だけではなく、利益を生む体質作りが鍵となります。

3. 生産性向上

限られた人員・時間・資源でどれだけの付加価値を生み出せるか。これが「生産性向上」の本質です。

  • 業務の標準化や属人化排除
  • デジタルツールによる業務効率化
  • 定期的な振り返り、見直しの実施

人件費が上昇する中で、人的資源の価値最大化は避けては通れない課題です。

4. 事業選択

限られた経営資源をどこに投下するかは、「選択と集中」の判断にかかっています。

  • 成長余地のある事業に注力できているか?
  • 赤字部門や収益性の低い取引を温存していないか?

収益力の高い事業に集中することが、「稼ぐ力」をさらに引き上げます。

5. 再投資

再投資とは、会社が稼いだ利益(あるいは内部留保)を使って、将来のために新たに投資することです。

代表的な再投資の例
  • 設備の更新・増設
  • 新商品・新サービスの開発
  • 人材育成・採用
  • ITシステム導入
  • マーケティング活動

企業が成長し続けるには、稼ぐ力を強化し続ける必要があります。そのためには、将来の利益を生む「タネ」に今の利益を使うこと=再投資の重要性が説かれています。

守る力(守り):安定と成長を支える土台

1. 固定費最適化

売上が下がっても支払い続けなければならないのが固定費です。人件費、家賃、間接部門の管理コストなど、変動させにくい支出の見直しは、守る力の基本です。

  • 固定費に対する売上比率は適正か?
  • 非効率な間接業務がコスト圧迫していないか?

削減一辺倒ではなく、「成果に直結しない支出は大胆に見直す」視点が必要です。

2. キャッシュフロー

黒字倒産という言葉が示すように、利益と現金は別物です。入金と支払いのタイミングを可視化し、資金繰りを日常的に管理することが不可欠です。

  • 売上債権の回収は適正か?
  • 在庫や仕入の回転は健全か?
  • 月末の支払い集中が資金を圧迫していないか?

キャッシュフローの改善は、資金の「流れ」と「スピード」を見直すことから始まります。

3. 財務健全性

借入依存度や自己資本比率といった財務指標は、取引先や金融機関の信用にも直結します。適度な自己資本の確保と過度な借入回避が「守る力」の基礎です。

  • 自己資本比率はどの程度か?
  • 利払い能力(インタレスト・カバレッジ・レシオ)は適正か?

企業の体力は「帳簿の外」にもありますが、見える数字で健全性を伝えることは成長資金を調達するうえでも重要です。また、2024年版『中小企業白書』によると、取引先の信用力評価において、金融機関が重視する項目として、“財務内容”が1位となっていました。

4. 内部留保

内部留保とは、企業が利益として稼いだお金のうち、株主への配当や税金、借入金返済などを除いた「会社の中に残しておくお金(利益の蓄積)」のことです。

  • 景気が悪化したときも事業を継続できる
  • 銀行に頼らず、新しい設備や人材に投資できる
  • 資金繰りが苦しくても、すぐに倒産しない

まとめ:持続可能な成長のために“構造”の確認を

単年度で大きな黒字を出すことは、工夫次第で可能かもしれません。しかし、収益力を高めるとはそうした一時的な成功ではなく、「何度でも利益を生み出し、蓄積・再投資していける構造」を作ることです。

それには、

  • 攻めの力(稼ぐ仕組みの構築)
  • 守りの力(財務の健全性と強化)

の両輪が必要です。

定期的に、自社の収益構造を可視化し、どこに課題と可能性があるのかを考えてみるのはいかがでしょうか。

担当者のつぶやき

「収益力」の向上。これは“言うは易(やす)く行うは難し”だと思います。私は経営者ではなく、また事業の責任者を経験したこともありませんので、実際にどれほど難しいことなのか、知識として見聞きした程度でしか理解できていません。

さて、私の少ない経験から想像することではありますが、攻めの力を担うメンバーと守りの力を担うメンバーはしばしば対立することが多いのではないでしょうか? サラリーマンも難しいものです。

この記事の著者

株式会社大塚商会

市場調査チーム

大塚商会 マーケティング担当の市場調査チームです。各業界の動向を調査のみならず、最新のITサービス情報の調査などを担当しています。

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