第6回 “押しつけDX”ではなく、自社の経営に合ったIT活用を考える

2021年以降、中小企業白書でもたびたび特集が組まれ、大きなテーマとして取り上げられてきた「デジタル化」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」ですが、「2025年中小企業白書」では、ほとんど触れられていませんでした。「DX」という言葉も落ち着きを見せています。

「DX」という言葉が最も強く打ち出された時代、言葉の乱用が進み、「AというITツールを導入することがDXだ!」「BというITサービスを活用することがDXだ!」といった、ベンダーやメーカー都合で「DX」という言葉が使われていたと思います。私はこれを「押しつけDX」と呼んでいます。

“押しつけDX”ではなく、自社の経営に合ったIT活用を考える

2021年以降、中小企業白書でもたびたび特集が組まれ、大きなテーマとして取り上げられてきた「デジタル化」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。
しかし、2025年版の中小企業白書では、意外にもDXという言葉の登場頻度は大きく減少し、1節を割いて取り上げられることもほとんどありませんでした。あれだけ話題になっていたDXですが、一つの「流行」が終わりを迎えつつあるのかもしれません。

DXは「言葉」よりも「中身」が大切

私たち大塚商会では、社内の取り組みにおいて実はあまり「DX」という言葉を使いません。その代わりに「大戦略」と呼んでいます。これは「大塚経営戦略」の略でもあり、DXという言葉が登場するよりもずっと前から、ITを経営にどう生かすかを考え、取り組んできた歴史があるからです。
ですので、いまさら「DX」と言われても、「それって、もうやっていることだよね」というのが本音なのです。

中小企業白書が示す「IT活用の4段階」

ちなみに中小企業白書では、IT活用の成熟度を以下の4段階に分けて示しています。

デジタル化の取組段階

  • * 資料:株式会社帝国データバンク「令和6年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」「中小企業が直面する外部環境の変化に関する調査」

出典:「中小企業白書2025 第1部第5節 デジタル化・DX」(中小企業庁・PDF)

  • 段階1:紙や口頭でのやり取りが中心で、デジタル化が進んでいない状態
  • 段階2:一部の業務でデジタルツールが導入され始めた状態
  • 段階3:業務の効率化やデータ活用が進んでいる状態
  • 段階4:デジタル技術を用いて、ビジネスモデルそのものを変革している状態

多くの企業が目指す「DX」とは、この“段階4”にあたるフェーズです。
ただし、現実には全ての業務が同じ段階にあるわけではありません。実際、大塚商会でも他社には類を見ないほどIT化により効率化されている業務もあれば、紙をベースに回っている業務範囲もあります。それが企業のリアルだと思います。

大切なのは「目的」と「戦略」

私たちITベンダーの立場から見ると、重要なのは「何のためにITを導入するのか」という目的と、それに基づいた戦略です。
例えば、経理業務のデジタル化一つを取っても、

  • 目的A:業務効率化を図り、残業を削減する
  • 目的B:データを早く集約し、経営判断をスピーディーにする

この二つでは、重視するポイントやKPI、費用対効果(ROI)の計算が大きく異なります。
また、受注業務のデジタル化においても、

  • 目的A:業務効率化を図り、残業を削減する
  • 目的B:受注・売上データを事業の多角化や製品開発に活用し、事業拡大を目指す
  • 目的C:受注・売上データを販促強化に活用し、売上拡大を目指す

この三つでも、重視するポイントやKPI、費用対効果(ROI)の計算が異なることでしょう。同じITツールを使うとしても、目的によって成果はまったく違ってくるのです。そして、これらの目的は、単純にIT活用の「段階」だけで評価できるものでもありません。

まずは「自社の戦略」を明確にすることから

ITは戦略を実行するための“道具”です。戦略が明確であればあるほど、道具であるITの使い方が具体的となり、効率的なIT化が実現します。そのIT化によってもたらされる変革がDXです。
原点回帰なのかは分かりませんが、中小企業白書2025においても、「経営戦略」や「経営力の強化」といったキーワードが目立つようになっています。

目的を達成するための手段がDXとなる

「売上を150%に伸ばしたい」「原価を20%削減したい」「競合と差別化し、価格転嫁を実現したい」──こうした目標は、企業が描く経営ビジョンの一部です。これらの目標を実現するには、具体的な戦略が必要です。そして、その戦略を支える手段として、ITの力が求められます。
ここでようやく登場するのが「DX」です。つまり、DXとは「ITを導入すること」自体が目的ではなく、戦略を実行に移し、経営目標を達成するためのプロセスであるということです。

DXはITベンダーだけでは実現できない

このように考えるとDXを本当の意味で成功させるには、ITベンダーだけで完結するものではありません。私たちITベンダーは、お客様の経営課題や成長戦略を深く理解し、その実行をITの力でサポートする役割です。
単に「このシステムを入れればDXです」といった一方的な提案──いわゆる「押しつけDX」では、企業が本当に目指す変革には届かないのです。

目指すのは「共創DX」

私たちが目指すのは「お客様と共に考え、共に作り上げるDX」。
お客様のビジョンや課題を共有し、戦略を理解しながら、ITという手段を通じてゴールに向かう。そんな「共創DX」こそ、これからのITベンダーに求められる姿だと考えています。DXの主役は、ITではなくお客様のビジョンと戦略。私たちはその実現に伴走するパートナーでありたいと願っています。

まとめ

2018年ころから、厚生労働省より「働き方改革」が、経済産業省から「DX」という言葉が発信されました。同時期から似たような言葉が多用されるようになり、私自身かなり振り回された記憶があります。

個人的には、働き方改革であろうと、DXであろうと、大戦略であろうとなんでもいいと思います。“企業”と“人”が成長するためのITでありたいと思います。
社内での経験ですが、社内業務において何も権限を持たない社員に向かって「DXに取り組め!」と指示“だけ”を出す方がいました。全員の頭に「?」が浮かんだのはいい思い出です。

この記事の著者

株式会社大塚商会

市場調査チーム

大塚商会 マーケティング担当の市場調査チームです。各業界の動向を調査のみならず、最新のITサービス情報の調査などを担当しています。

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