第28回 2014年度診療報酬改定

来月4月から診療報酬が改定されます。
簡単に言うと医療の値段が変わるということです。医療機関側からすると、収入額が変わるということであり、患者側からすると支払額が変わるということです。

診療報酬は2年に一度改定されますが、今回の改定はどのような内容なのでしょうか?

変更の柱(基本方針)は、四つです。
最初に入院医療について。二番目に外来医療について。三番目に在宅医療について。そして最後に医療と介護の連携についてとなっています。
最初の入院医療については、さらに細分化されていて、急性期入院、長期療養患者の受け皿、急性期後の回復期病床、医療資源の少ない地域への配慮、有床診療所の五つの小項目が掲げられています。
これらを縦軸の項目とすると横軸の項目としては、四つの視点があります。すなわち、充実が求められる分野を適切に評価する視点。安心、安全で質の高い医療を実現する視点。医療従事者の負担を軽減する視点。効率化余地のある分野を適正化する視点です。
また、今回の改定の同じタイミングで消費税が8%に上がりますので、その引き上げに伴う対応も網羅されています。

全体の改定率はプラス0.1%と僅(わず)かしかアップしませんでした。金額に換算すると約400億円となります。
薬価(薬の値段)と材料価格を下げて、価格を下げて作った財源を医科、歯科、調剤に振り分けその合計が0.1%増という形です。
しかしちょっと待ってください。
今回の改定と同じタイミングで消費税が5%から8%に上がります。アップした消費税ですが、医療機関は患者に転嫁できません(そもそも患者から消費税を徴収していません)。にも関わらず、医療機関は、薬や材料の支払、各種委託業者への支払には消費税を支払わなければなりません。支出だけ多くなってしまう訳です。そこで、厚生労働省は3%の支出増に見合うだけの収入を医療機関が得られるように診療報酬に乗せる方法を取りました。下駄を履かせてくれたようなものです。その上乗せ分は、プラス1.36%(約5,600億円)です。
全体で0.1%増ですが、下駄を履かせてもらった部分が1.36%だとすると、もし今回消費税のアップがなければマイナス1.26%だったということですね。今後10%に消費税が、もし上がるとすると、今回と同様の措置を厚生労働省はとってくれるのでしょうか?何の保証もありません。

基本方針の一つめの柱である入院医療ですが、疾病の状態により急性期、回復期、長期療養と分けられています。
急性期の疾病は非常に手厚い看護が必要になることが多いので、入院患者1人に対して、最も看護師の数が多いことが条件の一つになっています。
日本はこの急性期病床が約36万床と最も多いのです。国は高齢者が多くなる現状を踏まえ、高齢者の入院先病床である回復期病床や長期療養病床にシフトさせたいと考えています。
そこで今回の改定で、急性期病床に留まるためのハードルを非常に厳しくしました。
例えば急性期病床に入院している患者は、当然急性期の疾患であるべきですので、急性期病床に入院するに相応しい患者かどうか(患者の重症度や看護必要度)を評価し一定の割合以上に急性期の患者が入院していることや、退院後在宅へ帰れる在宅復帰率を一定の割合以上いることなどです。
今回の基準の厳格化で、現在の急性期病床の4割程度は急性期から脱落するのではないかと試算する方もおられます。

皆さんは、自分や家族が病気になった時、特に重篤な疾患の疑いの時にどんな病院に行きますか?日本人は国民皆保険制度の恩恵もあり、大病院志向であると言われています。
大病院に外来患者が集中するので「3時間待ちの3分診療」などとも言われます。この大病院への外来患者集中の流れを変えようとする改定内容が出てきました。
大病院の外来は紹介患者を中心とし、専門外来であるべきということです。軽度の疾病も含めて日頃は主治医(かかりつけ医)に診察を受け、必要に応じて大病院に紹介してもらう。このような流れに逆らって大病院に直接受診すると、非常に高額の自己負担が請求されることになりそうです。
国は主治医の機能として全人的かつ継続的な診療を求めています。複数の疾患があり複数の医療機関を受診しているとしても、主治医はその全ての処方内容を把握しているとか、健康相談に応じるとか24時間対応の在宅医療などを求めています。主治医を探す難しさは承知していますが、主治医を決めておかないといざという時に、余計な出費がありそうです。

今の日本の総人口は減少していますが、65歳以上の高齢者は増加しています。
2025年には高齢者の数が約3,500万人に達し、カナダの総人口(約3,400万人)を超してしまいます。高齢者が増加するということは、その数に比例して死亡者数が増えるということです。現在、日本では死亡場所のほとんどが病院です。
死亡者数が増加しますが、病院数や入院である病床数はむしろ減少しています。ということは、病院で死ねない人が出てくるということです。今のままだと2040年には約49万人分の看取りの場所が不足すると厚生労働省は試算しています。

そこで病院以外で医療を実施すること。病院以外の場所で看取りができないかと考えたのが在宅です。
国はこの在宅医療の推進に非常に力を入れています。入院医療の箇所でも指摘しましたが、在宅復帰率を設定したりするのもその現れです。
今回の診療報酬改定では、在宅医療と言っても、ずっと在宅で医療を受けるのは患者家族も負担だろうし、患者本人も不安だろう。ということで、在宅患者が緊急時に入院できる在宅療養後方病院という新しい病院形態を示しました。この他に在宅医療の歯科、薬剤師業務、訪問看護など幅広く診療報酬で手厚く評価しています。

医療と介護の連携では、リハビリテーションに大きな改定がありました。
実はリハビリテーションは医療保険にも介護保険にも入っている内容なのです。早期にリハビリを開始し、早く社会復帰して頂く。「歩いて入院、寝たきり退院」を防止するためのリハビリや、高齢者の増加に伴い増える認知症患者へのリハビリなどの診療報酬が新設されたり、診療報酬がアップしたりしました。逆にリハビリの分野で廃用症候群においてのリハビリは評価が厳しくなりました。

他に医師の技術料である手術料は、難しい手術は値上げ、簡単な手術は点数が下がりました。
また一部で問題視されていた胃瘻ですが、胃瘻増設術は約40%減の点数となりました。この理由は日本の胃瘻増設率は、OECD諸外国と比べて非常に高いこと。OECD諸外国は胃瘻増設の条件として、胃瘻は一時的であり将来抜去できる見込みがある患者にしか増設しないようです。日本は、OECD諸外国と様相が異なることが理由として挙げられます。

医療機関の経営者側は、今回の改定内容を熟慮して今後の医療機関の方向性を決めなければなりません。
患者の立場としては、賢い患者でありたいと思います。

皆さんは、どう思いますか?

次回は4月9日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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