第118回 コロナ後の医療機関経営

医療機関にとっては、非常に厳しい経営環境がまだまだ続きますが、コロナ禍の後の経営のこともそろそろ考えておくことが必要です。今回は、コロナ後を見据えて、医療機関の事業継続、事業拡大について考えていきます。

コロナ後の医療機関経営

新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)により、世界の様相は一変しました。企業の働き方も学生の学習方法も変わりました。そして業務形態による格差(コロナにより売り上げが伸びた業界と減少した業界とに分かれた)も生じました。

医療機関は、コロナ患者の受け入れや対応のために多くの人員を割き、予想外の費用を費やし、感染を予防しながら最前線でコロナと戦っています。厚生労働省は医療機関に対し、さまざまな補助金や診療報酬特例を通じて経営支援を行ってきました。しかし、これらの支援も2021年10月から徐々に打ち切られる予定です。実際にコロナ患者を受け入れていない医療機関でも、患者の受療行動の心理として、医療機関の外来に行って感染したらどうしようという不安がありますから、受診を控えることになります。患者が減少することは、医療機関はコロナの受け入れや規模の大小、病院、診療に限らず総じて減収となっています。

コロナ後を見据えた事業継続、事業拡大を考える

コロナのことが仮になかったとしても、医療機関の経営は特殊で難しいとされていますので、現在の経営環境や今後予想される環境の変化に対応することは、いっそうの困難さを伴うと容易に想像がつきます。そこでコロナ後を見据えて、医療機関の事業継続、事業拡大について考えていきます。

事業の継続、拡大といっても、医療は非常に公益性の高い分野です。しかし、国公立や公的な医療機関は別ですが、日本の約8割は民間病院です。特に民間病院は常に経営努力は求められますし、その取り組みの歩みを止めることもできません。

医療機関の経営者は、将来の患者のニーズを予測して、施設、医療機器などの設備、医師やスタッフなどの人材を準備することが必要です。いずれの資源にも限りがありますし、資金も必要になりますので、早めの対応、計画的な対応が重要です。少し具体的な内容に触れたいと思います。

種類により税制が異なる医療機関の「法人化」

はじめに「法人化」についてですが、医療機関を運営する法人の種類は幾つかありますが、その法人の種類によって、税率が異なります。いわゆる医療法人の税率は19%~23.2%です。医業経営は一般的に利益率が非常に低いといわれていますので、この税率は非常に高い税率だと感じるかもしれません。しかし、一方で別の法人だと税制面で優遇されている法人もあります。例えば、社会医療法人ですが、本来業務である「医療保険業」に法人税がかかりません。さらに法人税率が19%に軽減されています。また、一定の固定資産について、固定資産税、都市計画税、不動産取得税がかかりません。もちろん法人形態を変更することは大変なことですが、その効果も大きいので一度検討されることをお勧めします。

次にグループ化についてですが、将来夜間を含めて24時間体制が患者のニーズの一つになってきます。さらに国は総合医によるかかりつけ医を推進していく予定です。このような状況の対応は、一診療所では困難です。また、診療所の建物の老朽化などに対応するために建て替え、改修をするのであれば多額の借入金も必要になるかもしれません。これらに対応するためには、グループを組むことで乗り超えることが可能です。M&Aというと大げさに聞こえるかもしれませんし、抵抗を感じるかもしれませんが、上手に仲間を増やし、経営母体自身を大きくし、経営体力を強くすることが重要です。

その一方で、課題もあります。まずは医師などの人材確保です。特に医師や看護師は離職率が他業界に比べ高いため、採用した人材の定着も含めて考えておくことが必要です。人材確保、人材定着は金銭だけではありません。医師にしても看護師にしても自身のキャリアパスに有益な職場であれば、むしろ金銭的な条件の優先順位は低くなります。同じような「志」や医療機関の目指す医療を明確に打ち出し、共感が得られるような仕組み作りも重要です。病院の考え方を日ごろから情報発信して、同じ方向を向ける人材に集まってもらうことを意識しましょう。

事業拡大にチャレンジすることが重要

最後に事業拡大についてです。「現状維持は退歩なり」と近江商人も言っていますが、どのような状況になろうとも事業拡大にチャレンジする姿勢が大切です。その事業拡大を見据えるのであれば、最初に実行しなければならないことを指摘しておきます。最初は現在、自身の医療機関で所有している医療資源の棚卸しです。医師などの人材資源(人数、診療科、専門など)、医療機器などの設備資源(種類、耐用年数など)、建物に至るまで、客観的な視点で棚卸しをします。棚卸しをすることで、強みや弱みが浮き彫りになり、解決しなければならない課題も見つかります。次に外部環境の把握です。基本的な診療圏分析と近隣の競合先医療機関の分析は必須です。以前に実施済みであっても、数年たてば状況も変わっています。数年ごとに定期的に実施することが必要です。そして自院の事業計画の内容によっては、分析する診療圏の大きさも異なります(特徴的な他院が実施していないような診療であれば、遠方からも患者を集めることが可能)。

医療機関にとっては、非常に厳しい経営環境がまだまだ続きますが、コロナ禍の後の経営のこともそろそろ考えておくことが必要です。

皆さんは、どう思いますか?

次回は11月10日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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