第153回 それ「コロナ」のせいにしていませんか その3

前回は、主に変動費である材料費に着目しました。今回はいよいよ人件費についてです。「いよいよ」と記述しましたが、費用を削減したいとはいっても自分たちの給与は誰でも下げたくないですものです。「給与を下げるイコール退職者が増える」ということになりかねない非常にデリケートな課題となります。

それ「コロナ」のせいにしていませんか その3

前回は、主に変動費である材料費に着目しました。今回はいよいよ人件費についてです。「いよいよ」と記述しましたが、費用を削減したいとはいっても自分たちの給与は誰でも下げたくないですものです。従って、給与の見直しは経費削減策の中でも最も後に行われる削減策であり、さらに思い切った削減策を実施すると離職者も多くなってしまいますので、非常にデリケートな課題となります。

これは医療機関も同じです。医療機関は医師や薬剤師、看護師など、国家有資格者の集合体といっても良いです。国家資格有資格者は、国家資格がある故に転職に有利です。また医療機関では、医師や看護師などの人数の規定が法律で決められているため、その決められた職種に決められた人数がいないといけません。このような理由から離職率も高く、「給与を下げるイコール退職者が増える」ということになりかねないのです。

入院基本料別に見た費用科目の比率

入院基本料別の損益状況

出典:「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和5年実施)」(厚生労働省・PDF)を基に筆者が作成

上記表は、令和5年度医療経済実態調査報告書を基に筆者が作成した収益に対する各費用科目の比率を入院基本料別に並べた表です。給与費率の箇所を太字にしていますが、急性期一般入院料1が、他の入院基本料の医療機関より低いのが分かると思います。この収益比率が高くなる要因は、収益が高いことと、該当する経費科目が高いことです。

急性期一般入院基本料1が他の入院基本料より給与費率が低い理由は、手術などの診療実績が高いことです。これは、診療材料費が他の入院基本料の医療機関より高いことからも裏付けされます。しかし、よく数字を確認すると、各収益比率の合計が「100」を超えていることに気付くと思います。「100」を超えるということは、収益を費用が上回っていることを意味し、「赤字」であるということです。

黒字化するためには、給与費率を50%以下にすることが目標になります。その方法は、収益を増やすことと、給与を減らすことの二つしか方法はありません。多くの場合この二つを同時に行うことになります。しかし、2024年度の診療報酬改定では、医療機関に勤務する多くの職員に対し、処遇改善の名目で診療点数も新設されました。このような状況の中でもやはり、給与費率を抑えなければいけないと思います。けっして給与を下げろと言っているのでありません。給与費率を下げようと言っているのです。

「補助金」による甘えはないか

当コラムでも具体的な収益アップなどについて、発信してきました。本コラムのテーマが「コロナのせいにしていませんか」ということですので、この視点で考えると、「補助金」による甘えはないかどうか振り返ってくださいということです。コロナで多くの患者が受診控えし、コロナが落ち着いてからも特に外来患者が戻ってきていない今でも医療機関の倒産などあまり聞かないのは、この補助金などのおかげです。補助金ではなく、多くの低金利などの貸付金を利用した医療機関も多くあります。貸付金はいつかは返済しなければならないお金です。既に返済が始まった貸付金もあります。

前述の医療経済実態調査の数字は医療機関全体の数字ですが、設立主体別にみると、例えば公立病院などは給与全体が高いため前述した数字以上になっています。これは給与計算の方法が異なるからです。給与が上がり続ける仕組みになっていることが大きな原因と考えます。給与計算の仕組みを考え直す時期に来ているのではないでしょうか。

まずは賞与の見直しがお勧め

まずは賞与の支給、評価の方法から見直すことをお勧めします。賞与は支給される直前の半年間の評価です。評価は「量と質」の両面で行うこと。また評価される半年の前に必ず評価する側の上長と面談し、「量と質」についてお互いに納得のいく形を作り上げておくことが肝要です。このように事前にネゴシエーションをしておけば、面談で約束した「量と質」に至らなかった場合の低評価についても、評価される本人は納得するでしょうし、次はがんばろうと前向きになってくれます。

医療機関はさまざまな専門的な部署がありますから、部署間で評価が厳しい、あるいは甘いといったことがあってはいけませんが、ありがちな話ではあります。このような評価者の統一的な評価については、賞与の評価時期前に評価者研修を行う必要があります。このような取り組みを実施していることを院内に周知することも、評価の受け入れをスムーズにする一つの要素になります。

皆さんはどう思いますか?

次回は10月9日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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