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第155回 それ「コロナ」のせいにしていませんか その5
病院の収益を上げるためには、患者から選ばれる病院にならなければいけません。厚生労働省が実施している「患者調査」によると、入院患者の不満点ナンバー1は「食事」です。出産のために産婦人科を選ぶとき、食事内容で病院を選ぶ方も増えてきているようです。
それ「コロナ」のせいにしていませんか その5
病院の収益を上げるためには、患者から選ばれる病院にならなければいけません。厚生労働省が実施している「患者調査」によると、外来患者の不満点ナンバー1は「待ち時間」です。入院患者の不満点ナンバー1は「食事」です。出産のために産婦人科を選ぶとき、食事内容で産婦人科の病院を選ぶ方も増えてきて、そのニーズに応えるように産婦人科の食事を提供する委託会社では、元○○ホテルのシェフによる食事の提供まであります。
表1:入院患者の満足/不満足
出典:「平成17年 受療行動調査の概要(確定)」(厚生労働省)(赤枠は筆者加筆)
一方で患者にとっての食事は、医学的な観点からみると、食事も立派な「医療」といえます。本年(2024年)度の診療報酬改定では、食事、栄養に関しての診療点数の新設や評価見直しなどが行われました。これは「食事は単なる栄養の摂取」ではなく、治療や予防の面からも重要である証拠です。
表2:2024年度診療報酬改定 食事、栄養関連点数抜粋
作成:株式会社FMCA
さらに入院患者の食事の負担額である食事療養費標準負担額も6月から30年ぶりに改正されました(患者の自己負担額は、一般で460円/1食から490円/1食となり1食あたり30円の値上がり)。金額が見直された背景は、昨今の物価上昇による食材の高騰に起因するものです。
食事の提供方法は外部への委託方式と自前方式の2種類
前述のように病院による食事の提供は、外部への委託方式と自前方式の二つがあります。さらに外部への委託については、病院内の厨房(ちゅうぼう)を外部委託業者に貸与して食事を外部委託会社の社員が調理して提供する方法と、外部委託会社の工場である程度まで調理し、院内では温めと盛り付けを行うチルド方式があります。
患者自己負担額が490円、プラス保険給付額が180円ですので、1食あたり670円となります。この670円で、食材、人件費、水道光熱費などを賄わなければなりません。しかも、入院患者の食事への期待に応えてです。かなりハードな壁ですが、「患者に選ばれる病院になるための食事」を提供することが入院患者を増やすことにつながります。
そのためには、細かな工夫の積み重ねが必要です。まず、自前方式か外部委託方式かの選択をします。外部委託方式であれば、煩わしい細かなことから解放されます。調理師などの人件費や食材などの材料費は削減可能ですが、その分委託費が増えますので、選択には十分な注意が必要です。
自前方式であれば、食材の調達ルート開拓(筆者のクライアント先には、院内でリハビリの一環として農業を行い、そこで収穫した野菜などを食材に利用している病院があります)、食材を余らせることがないように効率的な利用、光熱費の節約のために短時間調理や調理機の選択、このようなことを可能にするためには献立立案にも工夫が必要です。
献立の立案は、このほかにも季節などの要因によって、食材の値段が高くなったり、安くなったりしますので、安い食材で調理できる献立を立案することも重要です。さらに昼間の電気料金に比べて夜間の電気料金の方が安いため、その時間帯での下処理や調理(もちろん限定されますが)、水道代節約のための節水機を取り付けたりもします。ちなみにこの節水機能アイテムは、トイレにも取り付け可能です。私鉄の駅のトイレなどにも取り付けられていることが多いようです。
食事は入院患者の一番の楽しみであるということ
食べることは人間にとって基本的なことであり、医療においては治療や予防の一環でもあります。そして何より入院患者の一番の楽しみでもあります。1食670円という制限がある以上、最大の経営努力を行うことは当然ですが、選定療養費の活用など患者の選択幅をもう少し広げるなど国による検討も必要なのではないでしょうか。
皆さんはどう思いますか?
次回は12月11日(水)更新予定です。
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