第156回 それ「コロナ」のせいにしていませんか その6

以前の病院では、院内で診療が終了したら、同じ院内で薬をもらって帰っていました。厚生労働省は「医薬分業」という方針を打ち出し、薬は病院ではなく、院外薬局で処方するように政策的に誘導してきました。その結果、多くの病院の近くに調剤薬局が設立することになりました。

それ「コロナ」のせいにしていませんか その6

以前の病院では、院内で診療が終了したら、同じ院内で薬をもらって帰っていました。厚生労働省は「医薬分業」という方針を打ち出し、薬は病院ではなく、院外薬局で処方するように政策的に誘導してきました。その結果、多くの病院の近くに調剤薬局が設立することになりました。

参考:「医薬分業とは」(日本薬剤師会)

日本薬剤師会によると「医薬分業」とは、「薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師、薬剤師という専門家が分担して行うこと」を意味しているそうです。

医薬分業を推進したきっかけは「薬価差益」

厚生労働省は医薬分業を推進したきっかけの一つが、「薬価差益」がありました。薬の値段は公的な価格の薬価で決まっています。病院がこの薬価よりも安く仕入れて処方することにより、病院は差益が収益となります。より多くの差益を得るためには、より安く仕入れることが重要ですので、医薬品の卸会社への強烈な値引き交渉などが行われていたと聞いています。厚生労働省は、医療機関が医薬品を右から左に渡すだけで、利益を得ることに疑問を持ったわけです。このようなシステムを是正するためにも医薬分業が推進されました。

医薬分業が始まると、病院の外の薬局に行く必要が生まれた患者からは、「フェンスなどで調剤薬局と病院とが隔てられていることで、車いすや高齢者、子供などにとって非常に不便である」という意見も出始めました。その結果、総務省から厚生労働省に改善要請が出され、2015年の政府の規制改革会議が規制の見直しを答申し、最終的には規制緩和されました。規制緩和された結果、病院の敷地内に調剤薬局を設立することが可能になりました(これまでは、保険薬局および保険薬剤師療養担当規則により医療機関の敷地内に薬局を開設することはできませんでした)。

参考:「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則」(厚生労働省)

敷地内薬局は、病院の敷地内に調剤薬局を建てますが、病院は建設費用を一切出しません。費用を出さないどころか、家賃収入が得られることになります。家賃収入がきっかけになったわけでは決してありませんが、東京大学病院、千葉大学病院などの病院は敷地内薬局を開設しています。

急性期医療機関に敷地内薬局は望ましくない?

しかし、2022年度の診療報酬改定において、「急性期充実体制加算」という高度な急性期医療を行う医療機関が算定する点数が新設されて状況は一変しました。この新点数の算定条件に「敷地内薬局は算定できない」という文言が入ったのです。これは厚生労働省の「急性期医療機関に敷地内薬局は望ましくないと考えている」という明らかなメッセージです。この新設点数の出現によって、敷地内薬局を検討していた医療機関は、検討を中止したり、既に敷地内薬局を開設していた医療機関はその対応を検討したりしました。

前述の院外処方率を見ても、院外処方は100%ではありません。以前のような院内処方を続けている医療機関もあります。さらにいったん院外処方にした医療機関も院内処方に戻した医療機関もあります。調剤薬局の形態も敷地内薬局、敷地外薬局(いわゆる門前薬局)もあります。どのような処方形態を選択するかは、医療機関の経営方針により決定されるものであり、決して、診療報酬点数などの利益誘導などが決定的な要因となってはならないと考えます。

皆さんはどう思いますか?

次回は1月8日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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