第98回 医療機関の「ブランド力」ステップアップ

世の中には、「ブランドものが好き」という人が多くいます。「多少値段が高くてもブランド品なら安心だから」というようなこともよく聞きます。それでは、医療機関にとって「ブランド」とは何でしょうか? 知名度、親切で丁寧な接遇、病床規模の大きさ、大学病院などでしょうか。確かにこれらの要素一つ一つは、ブランドを構成するピースです。しかし、これらだけでは「(高い)ブランド力」とはいえません。

医療機関の「ブランド力」ステップアップ

ブランドとは

そもそもブランドとは何でしょうか。アメリカ・マーケティング協会(AMA)の定義によると、ブランドとは「個別の売り手もしくは売り手集団の商品やサービスを識別させ、競合他社の商品やサービスから差別化するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもの」とあります。要約すると「ほかと識別し差別化するもの」と言い換えることができます。

ブランド力を付けるために、最初に確認するべきことは「自分たちが何をしたいのか」ということです。少し意外に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、これが最も重要です。この土台の上に、自分たちが提供できるサービス内容や患者から求められるサービス内容が重なるのです。提供できるサービスや求められるサービスが対応可能だとしても、自分たちのやりたいことでなかったら、長続きしません。ブランド力には「継続性」も重要なファクターです。

ではブランド力を強化するにはどうすればよいのでしょうか。残念ながら、特効薬的な施策はありません。マーケティング的な考え方を取り入れながら、ステップアップしていくことがブランド力の強化につながります。

ブランド力強化の3ステップ

ステップ1:知ってもらう(認知力強化)

患者や地域住民などから自院のことを知ってもらうことからスタートします。多くの人に知ってもらうために、マスコミを利用するのもよいでしょう。病院祭りや公開医学講座などを企画して、地域の住民に足を運んでもらうことも重要です。この実際に「病院に来てもらう」ということは、即効性もあります。連携登録医や救急隊の方々の病院見学を実施すると、救急車の搬送台数や患者紹介数が増えることはよく知られています。自院知ってもらうためにさまざまなアイデア、施策を講じましょう。

ステップ2:信頼、信用を得る

自院を知ってもらえたら、次は信頼してもらう、信用してもらう段階に移ります。患者は病気を治したくて医療機関に来院します。その期待に応えることで信頼関係が構築され、信用されていきます。信頼されるには患者の期待に応えるだけでなく、その「期待値」を上回ることが重要です。期待値が大きく上回れば感動が生まれます。

人は事前の期待値が低いと、普通のサービスでも大きな満足を得ることができます。例えば、大して期待していなかったレストランで、おいしいものを食べられたときなどがその一例です。しかし、同じようなものを高級レストランで食べたときの感じ方は明らかに違うはずです。「高級レストラン=すごくおいしいはず」という事前の期待値が高いので、期待値を上回ることが難しくなるのです。さらにこの期待値は応えれば応えるほど高くなっていきます。その上がり続ける期待値に、応え続けるということがステップ2です。このためには、広報や広告活動、施設のデザイン、設備投資、スタッフの対応などの総合力で対応しなくてはなりません。特にスタッフ(人)は、人に与える印象において大きな要因となりますので、細心の注意が必要です。これは清掃員に至るまでということです。実際に筆者のクライアントの中で、病院の駐車場の整理員の評価が抜群に良い医療機関がありました。患者の投書箱にもよくお褒めの投書が入っています。駐車場の整理員まで、素晴らしく良い病院であると感じていらっしゃることがひしひしと伝わる文面でした。

ステップ3:ファン化

ステップ3としましたが、このステップで特に何か実施するということはありません。ステップ2を着実に実施し続けていたら、自然とステップ3に到達するということです。すなわち、患者が自然に自院のファンになってくれるということです。多くの病院でも自院の熱狂的な(?)ファンの患者さんがいらっしゃいませんか? このファンの方々を増やしていくということです。アイドルのファン心理にもあるように、好きなアイドルであれば何をしても「キャー」となるのです。決してファン心理に寄りかかることが目的ではないのですが、ファンが多い病院は医療訴訟を起こされるケースが少ないような気がします。ファンの方が多くなると、広報や広告にお金をかけなくても良い口コミが広がり、収益が増加し、設備投資にも集中でき、その結果さらに患者が増えるなど良い循環が生まれます。またこれも筆者のクライアントの事例ですが、(ファンである)患者さんがお亡くなりになったときに、遺言によってMRIが寄贈された病院もありました。

医療機関のブランドとは、グッチやエルメスなどのような高級ブランドイメージではなく、「自分たちのやりたいことを、患者の期待に応え続けていく」ことです。決して短時間でできることではありませんし、数人の力でできることでもありません。しかし、いったんブランドが構築されてしまえば、患者の利益につながる収益性の高い仕組みが出来上がります。

皆さんは、どう思いますか?

次回は3月11日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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