第99回 新規開業時の注意(歯科医療機関編)

歯科についてよくいわれることは、歯科医院はコンビニの数よりも多いということです。歯科医院の数は飽和状態にあり、後発で新規に開業しても、その経営は非常に難しい状況の中、新規開業時に特に注意する点を考察します。

新規開業時の注意(歯科医療機関編)

今回は歯科について考察していきたいと思います。歯科についてよくいわれることは、「歯科医院はコンビニの数よりも多い」ということです。実際に、2018年5月時点の歯科医院の数が68,791件なのに対し、コンビニは55,463件と約13,000件歯科医院の方が多いのです。しかしながら、歯科医院の新規開業数は年々減少してきています。理由は何といっても前述したように、既に歯科医院の数は飽和状態にあり、後発で新規に開業してもその経営は非常に難しいということに尽きます。しかし毎年新しい歯科医師が誕生し、その歯科医師が勤務医として就職できる施設は限られています。このような現状ですので、最終的には「開業」あるいは「事業承継」という形で独立しなければならないことが多いことも事実です。

開業には経営者視点が重要

新規開業の際に特に注意すべき点を記します。始めのうちは、院長がリーダーシップを発揮することは良いことなのですが、ほかの人の意見を聞かない、何でも独断で決めてしまうといったことは避けた方がよいでしょう。歯科医師は医師に比べて、職人気質の方が多い気がします。この点も特に悪いことではありませんが、職人気質にありがちな、自分が全て正しいと思い込んで突っ走ってしまっては、スタッフは付いてきてくれません。院長は組織のトップなのですから、組織をいかに上手に動かすことを考えなくてはなりません。このような考え方は、対患者についても同様です。歯科医師は歯科のプロですから、どのような治療方法が最適なのかを把握しています。しかし、その考え方を患者に押し付けていては、患者は定着しません。きちんと患者に分かるように説明し、最終的には患者に選択してもらうことが重要です。

またスタッフと話し合っているときなど、相手が話しやすい雰囲気作りをしていますか。相手の話を途中で遮らずに最後まで話を聞いていますか。意識しましょう。

労務管理について

次の問題も関連していますが、労務管理などのスタッフ(人)の管理のことです。特に新規開業時には、就業規則まで気が回らないこともあるのではないでしょうか。有給休暇についてのルール、残業についてのルールなど、スタッフの数が潤沢にいる医院は多くはありませんので、事前にきちんと決めておくことが重要です。働き方改革が推進される時代ですので、このようなことは特に重要視されています。さらに歯科医院のスタッフは女性が多い職場です。労務管理がきちんとなされていないことが原因で、スタッフ間のトラブルにまで発展してしまうということもあり得ます。職員の退職理由で圧倒的に多いのが「人間関係」です。避けられるトラブルは極力避けましょう。

設備投資について

設備関係のことで多くの歯科医師が後悔されてるのは、チェアの台数です。新規開業前は患者が本当に来てくれるのかとか、歯科医師は自分一人だけだしなどの考えから、3台程度のチェアを考えていらっしゃる先生や、実際に3台のチェアでスタートした歯科医院も多いのではないでしょうか。3台でスタートしても構いませんが、後にチェアの台数が増やせるようなスペースは必ず確保しておきましょう。その理由は、3台のチェアしかなければ、3台のチェア分の売り上げしか上げられません。新規の患者が来ても断らなければならなくなります。ただ、これにもリスクがあります。将来チェア台数を増設できるスペースを確保するということは、家賃も比例して高くなります。しかし患者が増えてきて現在のスペースでは対応できなくなってしまったら、移転するしか方法はありません。その費用のことを考えれば、将来を見越して広いスペースをあらかじめ確保しておいた方が、結局はコストは最小に抑えられることになります。

目標数値の計画化

4点目は「数値計画」についてです。歯科医院の院長はすなわち経営者です。経営者は歯科医院の経営を存続させる責任やスタッフの雇用を守る責任があります。月間の収益額目標、新規患者数、患者単価などは最低限目標数値を計画化し、スタッフにも周知しておきましょう。歯科の場合は自費診療も重要な治療内容になりますので、それぞれの目標数値を保険診療と自由診療とに区分しておくこともよいと思います(売上額を増やす方法は別の機会で詳述したいと思います)。数値目標の設定は、高すぎず、低すぎず、頑張れば届きそうな数値設定が理想です。最初はうまくいかないかもしれませんが、徐々に慣れていきます。慣れるまでは、全てがうまくいった場合の最大値目標と全てがうまくいかなかった最小値目標とその中間目標の三つの計画数値を作成しましょう。そして数値目標を設定した後に重要なのが、目標値を達成するために何をどうするかということをみんなで考えるというアクションです。患者の回転数を上げるための工夫や、単価を上げるための工夫など、スタッフと一緒に考えてみましょう。自分たちで考え、自分たちで実行し、目標がクリアできればスタッフの達成感は高くなり、必然的に職員の職場満足度も高くなります。満足度が高くなれば、仕事により熱心に取り組んでくれるという良いスパイラルが生まれます。可能であれば経営状況の可視化を行い、スタッフにも経営について考えてもらうこともよいでしょう。

経営者である院長は、売り上げだけに注目してはいけません。経営で最も重要な数値は、「利益」です。いくら売り上げが高くても費用も同様に高く、利益が低ければたちまち経営は苦しくなります。売り上げが10%増えたら、利益も10%増えると考えていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、それは違いますので注意してください。費用はその性格から大きく二つに分けられます。一つは、患者の増減にかかわらず発生する費用です。これを固定費といいます。代表的な固定費は人件費です。もう一つは変動費です。この費用は患者の増減に比例します。代表的な変動費は材料費です。前述した売り上げが10%増えた場合、固定費は変わりませんが変動費は増えますので、利益が10%増えるわけではないということです。逆に10%売り上げが減少した場合は、変動費は減少しますが固定費は変わりませんので、利益は圧縮されてしまうことになります。

このほかにも、税金のこと、キャッシュフローのことなど会計の知識は必須です。さらに人事管理、マーケティング手法なども重要です。しかし、院長は経営者としてはもちろんですが、歯科医師としてできるだけ診療に専念してもらうことが新規開業時には特に重要ですので、上手に外部の力を活用することも解決方法の一つと考えます。

皆さんは、どう思いますか?

次回は4月8日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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