第39回 誰か助けて

独り言
「今月は、地域包括ケア病棟のリハビリ要件がクリアできない」リハビリ科長
「紹介入院患者が増えなくて、院長に怒られた」連携室入院担当
「看護必要度の高い患者が来ない」ICU担当師長

…院内で聞こえてくる独り言です。皆さんも聞いたことがあるかもしれませんね。もしかしたら、つぶやいている方ですか?

医療機関の経営ですが、単に多くの患者を治療していれば経営できるものではありません。医療に高い質が求められていますので、より高い収入をえるために一定以上の人員や決められた施設整備などが診療報酬を請求する条件になっています。一定以上の人数が必要であれば、看護学校などの訪問や募集広告などを駆使し採用努力し必要人数を集めれば良いわけです。決められた設備などの基準があるならば、その基準に合わせて改築するなどすることになります。 

しかし最近の診療報酬では、さらにこんな機能を持った病院(病棟など)には、こんな状態の患者が一定以上の数いることが望ましいとか、退院や転院する患者の一定数以上は在宅に復帰できる状態であることなどアウトプット(結果)を診療報酬の請求の条件に加えてきています。
人を増やせば、あるいは改築すれば多くの収入が得られる時代は終わり、具体的なイメージのある患者を集め、高い治療成績を収めなければ、より高い収入を得にくい状況にあるのです。(簡単に言うと重症度の高い患者を短期間で治療するということが求められています)このような状況になると各部門の責任者は、やってきた患者に対しては自分の持っている医療技術を駆使して治療に当たることはできるのですが、自分の力の及ばない箇所が出てくるのです。

冒頭の独り言のリハビリ科長においては、勤務先の病院が地域包括ケア病棟を申請していましたので、リハビリが必要な入院患者に直近3カ月で一日平均2単位(1単位20分ですので、40分ということ)以上のリハビリを行うことが必須条件の一つになっています。具体的な算出計算式は、(直近3カ月のリハビリ総単位数)÷(直近3カ月のリハビリ実施患者の入院延べ日数)となります。入院延べ日数には、平日、休日の区分はありませんので、土日が休みのこの病院では、平日のリハビリが非常に密にならざるを得ません。しかし悪いことに、セラピストの退職や体調不良などが重なり、患者はいるのにリハビリを実施するセラピストの数が足りない状況になり、その結果地域包括ケア病棟の基準がクリアできなくなりそうだという独り言になったわけです。この病院では急遽、シフトを工夫して土日もリハビリを行う体制を取り、人材募集広告、人材紹介などで3名のセラピストの採用に成功し、何とか基準の数字はクリアできました。

また、回復期リハビリテーション病棟を持つある病院では、この病棟へ入院患者を紹介してくれる急性期の病院へ営業する特殊部隊を持っていました。このような特殊な任務を持つ部署を造ること自体は悪いことではないのですが、営業をしたことが無い人の集まりだったので、何をどうして良いのか分かりませんでした。そこで、参考にしたのが、MRさんたちです。医局の医師たちに自社製品の情報提供(売り込み)を行い、医師と仲良く話しているのを見て、自分たちも真似をしてみたわけです。そんな営業活動を3カ月も過ぎたころ、院長がまったく結果が出てないことを指摘し、雷が落ちたわけです。

私のアドバイスとしては、「あなた方が患者を紹介してくれる病院の医師と、いくら仲良くなっても紹介患者は増えない。」「患者というのは、紹介する医師にとって、非常に大事な存在。その大事な患者を機能も知らない病院に、ましてや、顔も知らない会ったことも話したこともない医師に患者をお願いするわけがない。」「あなた方の仕事は、紹介してくれる医師と紹介される自院の医師を引き合わせる機会を多く作る仕掛け屋に徹すること」と言いました。具体的には症例検討会、施設見学会、意見交換会、賀詞交歓会、ゴルフ大会など硬軟取り混ぜて医師と医師を合わせる機会を多く作る。その仕掛け、企画作成という黒子に徹することです。徐々にではありますが、成果が出始めていると先日連絡がありました。

最後にICU師長の独り言ですが、この師長は新任師長でした。非常に責任感が強い有能な師長さんです。この新任師長は、ICUは最後の砦なのだから、24時間いつでも受け入れられる態勢を整えておかなければいけないと考えました。たしかにその通りだと思いますが、空床を確保しなければという強すぎる使命から、師長自らがICUへの患者制限を行ってしまい、しだいに院内ではICUは患者を受け入れてくれない。いちいち説明するのも面倒だという空気が広がってしまいました。その影響はすぐに表れました。この病院では弊社が原価計算を実施していますので、部門別の収支結果が時系列に確認できます。グラフは急下降です。院長がすぐに動き、師長との話し合い、院内の会議で説明と協力要請を行い、次月からグラフも急上昇し、一安心です。入院患者のなかでもICU患者は単価が非常に高額なのでこのような状況が長引いていたらと思うとぞっとします。

診療報酬なども複雑になって、各部署のパワーだけで解決できることが実は少なってきています。そんな時、院内でも院外でも協力してくれる人たちを日ごろから作っておくことや、「助けて」と自ら発信できる雰囲気づくりをすることが大切です。

皆さんは、どう思いますか?

次回は3月11日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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