第96回 ある日突然、外国人患者さんがやってきた

来年は東京オリンピックです。ますます、外国人患者が多くやってきます。トラブルなく、気持ちよく受診していただくために、できることから準備を始めませんか。

ある日突然、外国人患者さんがやってきた

A子さんは、都内の病院の医事課職員です。入職3年目に入り、後輩からも頼りにされるような職員です。そんなA子さんですが……。

いつもと同じような月曜日になるはずだった。休み明けに加えてここのところ寒い日が続くので、今日は体調を崩してやってくる患者も多いだろう。患者の受付業務を滞りなくスムーズにこなさなければ、と頭の中でぼんやりと考えながら診察受付時間を迎えた。案の定、いつもの月曜日よりも患者数が多かったが、A子さんをはじめとする職員がてきぱきと受付対応に当たり、受付開始から10分ほど過ぎた頃だった。明らかに日本語ではない言葉で話しながら、具合が悪そうな女性の腕を抱えて数人の外国人と思われる集団がA子さんに近付いてきた。相手は必死に女性の具合が悪いということを話していると思われるが、A子さんには何を話しているのかさっぱり分からず、頭が真っ白になってその場に立ちすくんでしまった。

以上は架空の話ですが、皆さんの病院にもある日突然外国人の患者さんがいらしたら、誰が、どのように対応するのか準備はできていますか? 日本政府観光局(JNTO)によると、2018年に日本を訪れた外国人の数は、3,119万2,000人で、前年比8.7%増でした。この数値は、日本政府観光局が統計を取り始めた1964年以降最高の数値です。訪日外国人の数が多くなれば、当然滞在中に具合が悪くなる外国人も多くなります。事実、国内の医療機関に外国人患者が来院する機会も年々増加しています。しかし、外国人を受け入れる医療機関の体制は、厚生労働省の調査によると以下のとおりで、まだまだ準備が整っているとはいえません。

  • (注1)平成25年度厚生労働科学特別研究事業「国際医療交流(外国人患者の受入れ)への対応に関する研究」p.15 2014年3月
    問3 外国人患者受入れの病院体制について
    http://www.twmu.ac.jp/Basic/int-trop/_userdata/sympo_h25.pdf

図 外国人患者受入れの病院体制について(注1)
画面拡大画像(JPG)[95KB]

外国人患者受入れ対応については、JCI(Joint Commission International:注2)の取得やJMIP(外国人患者受入れ医療機関認証制度:注3)の取得などが挙げられますが、いずれもまだ情報の共有化や知名度が低く、特に旅行者にはほとんど情報が伝わっていません。具合が悪くなった外国人旅行者が最初に相談するであろうホテルなどの宿泊先でも、JCIやJMIPなどの制度はあまり知られていないと思われます。

  • (注2)JCIとは、米国の医療分野における「医療の質と患者の安全に関する継続的な改善」に関する第三者評価認証機関であるThe Joint Commissionの国際部門として、1994年に設立された非営利組織Joint Commission Internationalの略称。国際的な認証機関が一定の医療の質を保証してくれると外国人は考えるので、メディカルツーリズムなど医療目的の外国人を獲得しようと考えている医療機関は積極的に取得している。
  • (注3)JMIPとは、外国人患者の円滑な受け入れを推進する国の事業の一環として、厚生労働省が平成23年度に実施した「外国人患者受入れ医療機関認証制度整備のための支援事業」を基盤に策定された。一般財団法人日本医療教育財団が本認証制度の運用機関。

外国人患者の受け入れ準備

ご紹介したJCIやJMIPの認証活動を通じて、外国人患者の受け入れ準備をすることも結構ですが、費用のこともありますので、まずは自分たちでできる準備を中心にここでは考えていきます。来院される外国人ですが、多くは中国と韓国の方々なので、中国語、韓国語、そして英語を中心に準備を進めます。外国人患者が来院した際の最大の壁は「言葉」です。お互いに意思疎通が取れなければ、トラブルにもつながりかねません。厚生労働省の調査によると、実際コミュニケーション不足による外国人患者のトラブルとして、約20%の外国人患者に未収金が発生していると報告されています。

通訳への対応

従って、通訳の問題が最大の課題になります。対応方法は幾つかあります。外国語を話せるスタッフを雇用するのが手っ取り早い方法かと思いますが、単に外国語を話せるだけでは務まりません。医療には専門用語が非常に多いので、医療通訳の対応ができるかどうかということがポイントです。「しくしく痛い」や「きりきり痛い」などの表現も重要です。また、新たに職員を雇用するとなると人件費のこともありますので、まずは現在の職員の中で、外国語を話せるスタッフのリストアップをします。調べてみると、意外といらっしゃることがあります。外国人がいつ来院するか分かりませんので、中国語だったら誰、韓国語だったら誰、と対応者をあらかじめ決めておき、院内でその情報を共有しておきます。本人たちにはすぐに連絡がつきやすいように、医療用PHSなどを持たせておいてもよいでしょう。また、最近のスマートフォンのアプリなどには通訳アプリもありますので、そのようなツールを活用することもよいと思います。さらに受付窓口や診察の場に、指差しで最低限のことを伝えられる表を作っておくと便利です。各場面、場面で伝えたいことはある程度決まっていますので、この指差し表が効果を上げます。

ある医療機関の実際の取り組み

最後に、ある医療機関の実際の取り組みをご紹介します。この医療機関は日ごろから外国人患者が非常に多く、外国人患者の対応ノウハウが相当ある病院です。JCIもJIMPも取得している医療機関でもあります。平日昼間は受付窓口に英語、中国語、韓国語対応可能なスタッフが配置されています。夜間・休日・祭日は24時間体制で電話通訳によるサポートを受けています。対応できる言語は英語、中国語、韓国語、スペイン語、ポルトガル語。さらに医療コーディネーターも配置されていて、個別対応や希少言語の遠隔通訳にも対応しています。さらに医療通訳や医療コーディネーターの研修も実施しています。宗教や文化の違いにも配慮が必要ですので、イスラム教徒のための祈祷室も院内にあります。外国の文化のことを勉強する研修なども実施しています。

来年は東京オリンピックです。ますます、外国人患者が多くやってきます。トラブルなく、気持ちよく受診していただくために、できることから準備を始めませんか。

皆さんは、どう思いますか?

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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