第95回 病院の戦略分析・戦略計画について

このコラムでは、何回か医療機関を取り巻く外部環境について述べましたが、その外部環境に対してどう対処するのかについては述べていませんでした。そこで、今回は外部/内部環境の分析が終了したと仮定して、戦略分析、戦略計画について記述したいと思います。この戦略分析、戦略計画は、経営計画にもつながることになるので非常に重要なのですが、意外と医療機関は戦略分析、戦略計画、経営計画も精緻に実施していないことが多いようです。

病院の戦略分析・戦略計画について

戦略分析策定のプロセス(環境分析が終了していることが前提)

1.目標の設定

目標は病院の理念やビジョンに沿ったものとなりますが、目先の収入拡大策などに引っ張られがちです。目標は理念やビジョンに照らして設定するべきです。さらに目標値ですが、数値として表現可能な定量目標と数値では表現しにくい定性目標がありますが、どちらでも構いません。定量と定性の両方の目標を設定しても支障はありません。

2.基本戦略の構築

この基本戦略を構築する前の準備作業として、SWOT分析やPPM分析などの分析ツールで整理しておくことが必要です。ツール分析が終了後、個別戦略計画の立案に入りますが、具体的には、市場戦略、サービス戦略、価格戦略、チャネル戦略、購買戦略、拠点戦略、情報戦略、組織戦略、財務戦略などの個別戦略計画を立案します。これらの個別計画については後述します。

SWOT分析

自院の強みや弱み、環境内での機会と脅威を知ることに有効なビジネスツール。

内部環境

強み

  • 立地がよい
  • 地域とつながりが強く、楽しいイベントが多い
  • ベテランのスタッフが多く、雰囲気が良い

弱み

  • スタッフの高齢化
  • 利用者の人数に対して、スタッフが不足している
  • スタッフの教育や研修が行き届かず、サービスの質が下がってしまっている
外部環境

機会

  • 在宅介護ニーズの高まり
  • 高齢化社会による要介護者の増加
  • 少子高齢化や核家族などによる介護施設の需要が増加している

脅威

  • 人口減少
  • 慢性的な人手不足
  • 同業者が増加しており、競争が激しくなっている

PPM分析

自院のポジショニングや自院の医療サービスごとのポジショニングをマトリックス上に表現するビジネスツール。

個別戦略計画について

SWOT分析により強み、弱み、機会、脅威が認識できたら、どうすれば計画が成功するのかを考えます。自院の強みであり、かつ機会項目であれば、この部分の計画は最も成功する確率が高いと考えます。

次に、機会項目ではあるものの弱み項目が多いような場合は、弱みを克服する戦略が必要となります。例えば、糖尿病性白内障の患者が地域に多く、眼科を標榜(ひょうぼう)している医療機関が少ない(これらは機会項目です)。しかし、自院の眼科医師は1名しかいない(これは弱みです)。このような場合は眼科医師の増員を計画します。

脅威項目ではあるが、自院の強みもある場合は自院の強みをより強固にすることで脅威を減少させます。

最後に脅威項目であり、自院の弱みでもある部分については、改善には相当の労力が必要になることを踏まえて今後の方向性を考える必要があります。必ずしも全分野で勝者になる必要はありません。「選択と集中」や「医療連携」といった視点で今後の計画を立案します。

3.計画への落とし込み

戦略は、3カ年計画、単年度計画など個別戦略計画ごとに期間設定してシナリオ化していきます。場合によっては、このシナリオを個人のアクションプランと連動させることにより実現性が増します。

4.収支シミュレーション

目標数値の設定は、立案した計画が全て計画どおりにいった場合のMAX値と、立案した計画が全て計画どおりにいかなかったMIN値とその中間のMED値の三つの数値を作成します。

5.マイルストーン設定

マイルストーンとは「一里塚」という意味です。計画を進めるうえで、計画どおりに進んでいるのかを確認する「チェックポイント」「道しるべ」ということです。このマイルストーンは時間軸のマイルストーンと目標値のマイルストーンの両方を設定しておきます。

個別戦略(計画)ごとの注意

1.市場戦略

特定市場において支配的優位に立つことです。シェア、知名度、患者分布範囲などが指標となります。

2.サービス戦略

患者サービスと医療サービスの両方の分野で高い満足度を得られるようにします。

3.価格戦略

保険診療の部分ではなく、自費診療などの部分の計画立案のときに考えることが必要です。近年は医療ツーリズムによって海外からの患者が来院しますので、このような患者の料金体系をどうするのかなどを考えます。

4.チャネル戦略

チャネルとは患者を集める媒体や経路のことです。例えば富裕層をターゲットに美容外科の領域を拡大したいという計画では、どのように富裕層を集めるのかといったことを計画しなければなりません。

5.購買戦略

個別計画の多くは増収計画ですが、この購買戦略は費用対策計画です。増収計画と費用対策の両方が成功して初めて利益が生まれます。

6.拠点戦略

サテライトクリニックや他医療機関のM&Aなどのことです。立地場所や周辺の競合状況に注意し、目的を持って拠点展開することが重要です。

7.情報戦略

情報の入手と情報の展開の両方向で計画を立案します。情報の入手については、人から聞くだけではなく自分で実際に見て確認することが重要です。情報の展開については広告規制があるので注意が必要です。

8.組織戦略

計画の推進に当たり、特別に組織を立ち上げるのか、兼任体制にするのか。計画の責任者は誰かなどをあらかじめ決めておく必要があります。全国展開しているチェーン病院では、独立した新病院の立ち上げ専門部隊がいます。この部隊が全国を飛び回り、次から次へと新しい病院を立ち上げていきます。

9.財務戦略

特に新規事業の立ち上げなどには、資金が必要になることもありますので、収支シミュレーションも含め借り入れ計画、返済計画なども計画内に考慮しておく必要があります。

ここまで読んでいただき、「大変そうだな」といった声が聞こえてきそうですが、成功する確率を少しでも上げたいのなら、ぜひ手を抜かずに実施してみてください。成功に近道はありません。

皆さんは、どう思いますか?

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株式会社FMCA
http://www004.upp.so-net.ne.jp/medical/

次回は12月11日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
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