第25回 がん登録法

秘密保護法案のゴタゴタの最中に、がん登録も法制化されました。

■がん登録とは
がん登録はがんの罹患や生存の状況等を把握する仕組みであり、我が国のがんの現状を把握し、がん対策の基礎となるデータを得るとともに、がん患者に対して適切ながん医療を提供し、また、がん予防を行うために不可欠と言われています。
簡単に言うと、がんに罹患したら全国統一のデータベースに登録して、がんの治療内容、治療経過すべてをその患者が亡くなるまで記録します。
そのデータベースから、各がんの最適な治療プロトコルを作成し、地域のがん治療の偏在を是正したり、効率のよい治療方針を作成したりすることを目的としています。
現在、「地域がん登録」は、健康増進法に基づく努力義務により、すべての都道府県で実施され、厚生労働省が指定するがん診療連携拠点病院を中心に、施設別のデータを解析するため、「院内がん登録」も実施されています。
しかし、最後まで対象患者をモニタリングすることが非常に難しく、地域によってもバラツキがあるなどの問題点も指摘されています。
このがん患者の情報提供を義務づける「がん登録推進法」が衆院本会議で可決しました。
今までの地域がん登録に対して、今回のがん登録を「全国がん登録」と呼びます。全国規模でがん登録の実施を法制化することで、登録したがん患者が転院や転居などによってもモニタリングが続けられると期待されています。
がん患者の情報を国がデータベースに記録して一元管理し、治療や予防に活用するということです。
今後は医療機関(病院はすべて。診療所は手上げ)に、患者のがんの種類や、進行度、治療の内容などの情報提供が義務づけられます。

■「がん情報」として全国がん登録データベースに登録する内容
1、がんに罹患した者の姓名、性別、生年月日
2、届出を行った医療機関名
3、がんと診断された日
4、がんの発見経緯
5、がんの種類および進行度(転移性のがんに係る原発性のがんの種類および進行度が明らかではない場合にあっては、その旨)
6、2の医療機関が治療を行っていれば、その治療内容
7、3の日における居住地
8、生存確認情報 等〔現状の地域がん登録の登録項目と同様の項目を想定〕

日本人は2人に一人は、がんになり、3人に一人はがんで死ぬと言われています。
近年、様々な報道等で、がんの死亡数、死亡率は急激に増加しているということを耳にしますが、もし、人口分布が同じであった場合の死亡率は実は減少しています。(年齢調整死亡率と言います)
つまり、死亡の増加の要因は高齢化によるものであるということです。日本人が罹患する主要がんである胃がん、肝がん、大腸がん、肺がんもやはり減少しており、特に2000年以降は減少傾向にあります。
逆に増加傾向にあるがんは、乳がんと前立腺がんです。中でも前立腺がんは間寛平さんの事例で有名になった前立腺がんの腫瘍特異マーカーであるPSAが有名になり、前立腺がんが発見されるケースが急増したためです。
前立腺がんは進行が特に遅いがんであることは良く知られています。
高齢者の死因調査などで、前立腺がんが発見されることは珍しくありません。例え肺炎で亡くなっていてもご本人は前立腺がんであったことさえ知らないということです。
ある方は「がんの早期発見は重要だが、見つけ過ぎはどうなんだろう?」とおっしゃっていました。

今回のがん登録の法制化は一度、がんが見つかれば、登録しデータベース化して、その患者の経緯をずっと亡くなるまで追いかけることになります。
世の中 がんだらけになりはしないでしょうか?前述した前立腺がんのようながんもあります。
がんにもいろいろあるということを我々もきちんと知っておく必要があると思います。
この点を踏まえてがん対策推進基本計画では、75歳という年齢で区分して、75歳以下のがんの死亡率を20%削減させることを目標としています。
また、現実的な問題としては、誰ががん登録するのかという根本的な問題もあります。今まで地域がん登録を行っていた人員は国立がんセンター病院へ研修に行き、登録作業を行っています。
その数は非常に少ないです。登録方法も統一しないと意味がありませんので、登録者の育成、養成が急務です。

さらに個人情報保護法とのことを心配する声も既に挙がっています。
がんという究極の個人情報を国がデータ管理するのですから、本人にとってはセキュリティのことを含めてさまざまな心配が出てきます。
もし、がん家系(一部遺伝性のがんもある)であることが分かれば、生命保険の加入を断られる。
結婚に障害が起きるなどのことも十分に考えられます。
それでなくても心情的にできれば自分や家族が、がんであることを他の人には知ってほしくはないと考える人も多いのではないでしょうか。
実はこのようながん登録は諸外国では進んでいます。
米国では国民一人一人にソーシャルIDが付与されていますので、そのIDで管理されていますし、北欧や韓国、中国でも我が国より進んでいます。
唯一例外な国がドイツです。
ドイツは個人情報を国が管理した結果、その情報を利用しユダヤ人の虐殺に繋がった歴史的な背景から、国による個人情報の管理には非常に強い抵抗があります。
このためヨーロッパの国々の中でドイツではがん登録はほとんど進んでいません。

がん登録の目的の一つが、がんの治療方法の研究や活用です。
どのようながんに、どんな薬をどれだけ投与したら、効果があったとかなかったとかということです。
しかし結局人間いつかは死ぬわけです。今でも3人に一人ががんで死んでいます。
がんに罹患したときに治癒の可能性があるのであれば、効果的な治療をもちろん受けたいと思いますが、がんで死ぬことを考えたとき痛みや苦しみといった身体的な苦痛は?そして何を考え、どのように行動し、何ができなくて何をしたかったか?後悔はしなかったか?後悔したとすればどんな後悔なのか。といったことも知りたいと思います。
こんな情報もがん登録で情報収集してほしいと思うのは私だけでしょうか?

皆さんは、どう思いますか?

次回は2014年1月15日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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