ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
第26回 うがい薬の保険外し
今年4月に、二年に一度の診療報酬改定が予定されています。医療関係者は自分たちのサービスや定価が勝手に変わり収入も変わるのですから、経営にも直結する話であり関心が高いのは当然です。
今回の診療報酬改定でいま、議論になっているのが「うがい薬の保険外し」問題です。
ご存じのとおり国民医療費が毎年上がっていますので、厚生労働省は何とか国民医療費を下げたいと考えています。
そこでうがい薬を保険から外すことで少しでも国民医療費を削減しようと考えたわけです。ここで思わぬ反対にあっています。
その経緯は下記のとおりです。
12月24日に閣議決定した2014年度予算案に盛り込まれました。
この中に「うがい薬のみの処方の保険適用除外(国費マイナス61 億円)等の効率化・適正化を実施」という文章があり、この一文が波紋を呼んでしまいました。これは、2014年度診療報酬改定率の決定に先立ち、12月20日に財務と厚生労働の両相が合意した内容です。財務省公表の予算案資料に掲載されていたものの、厚生労働省発表の資料には記載されないという“珍事”が生じてしまったのです。
厚労省は当初、「(うがい薬の部分は)間違いだったので削除した」と説明しました。
ところが、24日夜になって、厚労省保険局医療課は緊急に記者会見を開き、不手際だったと釈明、翌25日の中医協総会の資料には、「うがい薬のみの処方の保険適用除外などの措置を講じる」と記載しました。ただし、「61億円」との金額は記載されていません。
当然ながら、中医協総会では、「うがい薬の保険外し」に異論が集中。口火を切ったのが、日本医師会副会長の中川俊男氏です。「始めて見る文言」と指摘し、この保険外しが入った経緯を質し、さらにはその妥当性を疑問視し、「日医は国民皆保険の堅持を掲げている。その条件の一つが、公的医療保険の給付範囲の維持。今回の提案は給付範囲の縮小であり、国民皆保険を崩壊させる突破口、ありの一穴になる」と強く反対しました。
「うがい薬の保険外し」は、2012年11月の行政刷新会議の「新仕分け」、2013年11月の行政改革推進会議の「秋のレビュー」で、「市販薬類似薬については、保険給付の対象外とすべきではないか」と指摘されたのが発端です。
その一例に、うがい薬が挙がっていました。中川氏は、この点を踏まえ、「医療用医薬品の安易なスイッチOTC化は進めるべきではない」とも述べ、今回の保険外しの動きが他の薬に波及する事態をけん制しました。
「うがい薬の保険外し」で保険財政が潤う立場の保険者からも異論が出ましたが、趣旨は異なります。
健康保険組合連合会専務理事の白川修二氏は、「確かに今回の提案は唐突で、中川氏の指摘のとおり、脈絡がないと感じている」と述べ、この点では中川氏と一致しています。
しかし、「うがい薬は例示だが、行政改革推進会議では、うがい薬そのものを保険対象から外してはどうかという指摘だろう。
ただ、(うがい薬のみの処方の保険適用除外とする)今回の提案は、単にうがい薬のみを処方するのが、どんなケースなのか我々自体も想定できない」と指摘し、保険適用外とする幾つかのパターンを提示して、議論すべきだと主張しました。
日本医師会社会保険診療報酬検討委員会委員長の安達秀樹氏は、「本来なら、行政刷新会議で提案した人にここに来て、説明してもらいたい。今回の提案は、全く医療の現場を理解していない。医師は医学的判断を基に、うがい薬を処方しているのに、その辺りを飛ばしている。こんな会議に医療に踏み込む資格はない」と、行政刷新会議などの“越権行為”を問題視しました。
しかしながら、「うがい薬の保険外し」は閣僚合意事項であり、それを踏まえ、国費が61億円削減できることを折り込んで2014年度予算案が閣議決定しています。これを覆すのは容易ではありません。森田朗中医協会長(学習院大学法学部教授)は、次回以降、継続審議するとし、25日の総会の議論を収拾させました。
「うがい薬のみ」の処方とは何か
中川氏と安達氏が問題視した一つが、医学的関連から見た、「うがい薬の保険外し」の妥当性です。
中川氏は、「単にうがい薬のみを処方するのはどんな場合か」と質問。これに対し、厚労省保険局医療課長の宇都宮啓氏は、「うがい薬のみの治療というのはなかなか考えにくい」と認めました。それでもなお中川氏は、「患者を診察して、(風邪であることなどが分かり)うがい薬だけを処方するのは、診察能力が高い名医ではないか。このような場合に、うがい薬を保険対象から除外するのは非常におかしな話」と反論。
安達氏も、「歯科では、抜糸後などに、うがい薬のみを出すことが多いことが考えられ、うがい薬を除外するのは、保険診療の否定」と問題視。日本歯科医師会常務理事の堀憲郎氏が続き、「歯科では、例えば抜糸後、切開後、歯周病の処置などの際に、創面あるいは抜糸部分の保護、感染対策、治癒促進などの目的で、医学的観点に基づき、医療の一環から、うがい薬のみを処方することはある。現場の実態を把握して慎重に検討してもらいたい」と訴えました。
うがい薬を保険から外すだけで61億円も医療費が削減できることにまずびっくりしました。
今回の件は厚生労働省側の不手際もありますし、医療提供者側の意見も分からないではありませんが、私には既得権の主張にしか聞こえません。国民医療費がこのまま高騰し続ければ、国民皆保険制度そのものが崩壊することさえ考えられます。そうなれば、うがい薬どころの話では済まないのです。うがい薬は薬局でも購入できます。価格もそれほど高くはありません。患者は、うがい薬が保険から外されてもそれほど困らないと思います。困るのは保険から外され、収入が減る医療関係者でしょう。うがい薬よりも、不当に低く設定されている高度な医療技術などの保険などの見直しのほうがよっぽど大事だと思います。
皆さんは、どう思いますか?
次回は2月12日(水)の更新予定です。
前の記事を読む
次の記事を読む