第6回 医師の非専門分野の診断について

先日、福岡地裁で消化器専門医が対応した脳梗塞の見逃しについて、病院側への損害賠償を認める判決がでました。詳細内容までは、把握していませんが、医療関係者、特に医師には、かなりショッキングな判決でした。

そもそもは、消化器専門の医師が診察した患者が、脳梗塞の前兆の発作を起こしており、その前兆を見逃した結果、脳梗塞による半身まひなどの後遺症を負ったとして損害賠償を求めた裁判で、裁判長は「発作は、一般的な医学文献に載っており、非専門医でも診断すべきだった」と判断しました。

この患者は女性でしたが、飲食店で支払いの際、硬貨を何度も落としたため、店主が脳梗塞を疑って119番を通報し救急搬送されたそうです。後遺症を負われた患者さんには、お気の毒にとしか言いようがありません。

医師は医学部で6年間。その後、卒後研修で前期後期あわせて4年間の合計10年間を経て臨床医のスタートラインに立ちます。その後は、それぞれが選択した診療科(専門分野)に沿ってキャリアを積んでいくことになります。

たしかに、最初の10年間であらゆる分野の医療について幅広く学びます。しかし多くの学習の機会は座学です。書籍による学習と実践による学習では身につくものは大きく異なります。

現在、総合医や家庭医といった、あらゆる分野に精通したプライマリケアを担当する医師を養成しようと日本医師会を中心に計画していますが、まだまだ時間がかかります。

今回の判決によって、救急医療の縮小が起きたらどうするのでしょうか?「専門の先生がいないから診られません」といった患者のたらい回しが起きる可能性を否定できません。もちろん、だから非専門医が別分野の疾患を見逃して良いということを言っているのではありません。

今の日本の医療現場のなかで、様々な分野の疾病を診断できるのは、救命救急の現場の医師です。その教育にも時間がかかります。さらに圧倒的にその数も少ないことは明らかです。救急車は30秒から40秒に一回出動しています。次から次へ救急患者が搬送されてきて、医療機関は24時間受け入れ可能な体制を(できる限り)整えています。

医療の現場、特に救急医療の現場は、ギリギリのところを医療者の気持ちだけで支えているといった声もよく聞きますし、実際にその現場をよく目にします。日中は外来に入院患者を診て、夜は救急対応のために当直。など珍しくない勤務体系です。

そこで、通常の診療と救急医療をもう少しはっきり分けたらどうでしょうか?具体的に提言するならば、救急専門対応施設を創設し、通常の医療機関の救急医療の負荷を軽減します。

さらに数の少ない救急医をこの施設数か所に集めて効率性を高めます。さまざまな困難なハードルがあるのは、十分承知しています。現在の診療報酬では救急医療だけでは採算は合いません。

また、通常の医療機関も、入院患者の供給源としての救急医療受け入れという位置づけから、簡単には救急医療から手を引くことも考えにくいです。しかし、現在国が推進している医療や介護の連携といった政策を推し進めていったその先には、救急医療も連携といった手法を利用すると現場では受け入れやすいと思われます。

そして何よりも救急患者の救命率向上や今回のような不幸な事案を繰り返さないこと。医療関係者の労働環境の改善など検討するに値するメリットはあると考えます。

それにしても、硬貨を何度も落とすのを見て脳梗塞の疑いと考えた飲食店の方は、すごいですね。身内に同じような症状の方でもいらっしゃったのでしょうか。

今回の後遺症を負われた方には申し訳ないのですが、日本の救急医療の在り方を根本から考え直す機会になれば良いと思います。

皆さんは、どう思いますか?

次回は6月13日(水)の更新予定です。

関連するページ・著者紹介

この記事のテーマと関連するページ

中小規模病院向け医療ソリューション 電子カルテシステムER

電子カルテシステムERは、カルテ入力やオーダリングの機能をはじめ、部門業務を支援する豊富な機能を搭載。医療施設の運用に合わせ部門システムや介護福祉システムとの連携も柔軟に対応でき、業務の効率化と情報共有を支援します。

ワイズマン介護・医療シリーズ 医療・介護連携サービス MeLL+(メルタス)

医療・介護連携サービス「MeLL+」は、地域包括ケアや法人内連携など、医療と介護のシームレスな連携を実現する医療・介護連携サービスです。医療関係の情報と介護関係の情報をクラウドのデータベースに蓄積し、それぞれの施設から「必要な情報を必要な時に」どこからでも共有・閲覧することができます。

この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

公式Facebookにて、ビジネスに役立つさまざまな情報を日々お届けしています!

お仕事効率研究所 - SMILE LAB -

業務効率化のヒントになる情報を幅広く発信しております!

  • 旬な情報をお届けするイベント開催のお知らせ(参加無料)
  • ビジネスお役立ち資料のご紹介
  • 法改正などの注目すべきテーマ
  • 新製品や新機能のリリース情報
  • 大塚商会の取り組み など

お問い合わせ・ご依頼はこちら

詳細についてはこちらからお問い合わせください。

お電話でのお問い合わせ

0120-220-449

受付時間
9:00~17:30(土日祝日および当社休業日を除く)
総合受付窓口
インサイドビジネスセンター

ページID:00078136