第7回 日本版EHR実証実験について

現在、総務省予算で、日本版EHR(Electronic Health Record)事業の社会的実験が行われているのをご存知でしょうか?厚生労働省が「どこでもMy病院」構想を打ち出していますが、患者個人の(医療)情報は、受診した医療機関に有り、初めて受診するとき、患者は既往歴やアレルギー歴など一から説明しなくてはなりません。

また、医療機関(又は患者)を紹介される(する)とき、紹介された医療機関では、初めから検査をやり直すことも多いです。このような検査を『重複検査』と呼び、時間もかかりますが、費用もかかるということで医療費の削減の標的にもなっています。

連日ニュースになることが多い「社会保障・税の一体改革」(消費税ばかり取り上げられていますが)でも“重複受診、重複検査、過剰投薬の削減”と明記されています。

どこの医療機関に受診しても、患者の医療情報が共有化され、必要に応じて閲覧できるような仕組みがあれば、医療の質や安全性も向上し、さらに重複検査も削減でき医療費も削減できます。この医療・健康情報の共有をICTで実現するために行われているのが、EHR事業の実証実験です。

共有される情報は、日常の健康情報、診療情報、調剤情報、介護情報、健診情報の五つの分野です。この情報の登録者は、個人、医師/看護師、薬剤師、介護施設/在宅、保健師です。これらの情報を医療機関、調剤薬局、介護施設、救急隊などが閲覧し、効率性の高い医療、健康管理を実現しようと考えています。

患者さんの情報を地域で共有することによって、どんなことが起きるでしょう。例えば、急性期病院から一般病院へ転院することになったとします。今回の実験では、医師が転院の許可を出した日から実際に転院するまでの日数が数日短縮しました。

特に週末に医師が転院の許可を出した患者が顕著に短縮したというデータが得られました。これは、転院に際して必要なデータや書類などを収集する時間が大幅に短縮できたことによるものでした。 

また急性期病院や一般病院から介護施設へ患者さんが転院される場合は、医療側と介護側で必要な情報が異なることも分かりました。このように転院までの日数が短縮したことにより、急性期病院のベッドが空き、救急患者の受け入れが容易になったと考えられます。

前述した重複検査については、約11%の検査が削減可能な重複検査と判断され、医療費に換算し試算したところ、なんと2.200億円になりました。もちろん同じ検査でも、最新のデータが必要なため、あえて実施する検査も多くあります。

しかし一度検査を実施すれば、2回目の検査は必要なかったり、数か月は実施しなくても良い検査もあり、その部分の重複検査はEHRを導入することにより、削減可能であることが実証されたことになります。さらに投薬に関しても調剤薬局がEHRで情報を閲覧確認することで、重複投薬を避けられたという意見もありました。

では何も問題がないかと言えばそうではありません。情報量が多すぎて必要な情報になかなかたどり着けないといった課題や、セキュリティや導入費用の問題などまだまだ解決しなければいけないことはあります。

今年も引き続き2年目の実証実験を行いますので、年明けくらいにはその成果が発表されると思います。その際はこのコラムでも再び取り上げたいと考えています。

このEHR事業が今後成功するかどうかは、このシステムが使いやすいとか費用の問題ではありません。EHR事業はあくまでもツール(道具)に過ぎません。このツールを医療や介護の現場の方々、行政や患者さんや住民の皆さんが理解し普及させることができるかがポイントだと思います。

皆さんは、どう思いますか?

次回は7月11日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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