第112回 「在宅医療」の取り組みについての考え方

今後のわが国の状況を鑑みると在宅医療は必要だと思います。しかし、課題も多くあります。さまざまな課題はあるにせよ信念を持って、在宅医療に取り組んでいる医師がいます。

「在宅医療」の取り組みについての考え方

「在宅医療」は、厚生労働省(国)によって、近年急速にさまざまな仕組みや地域包括ケアシステム(注)などに代表される制度が整備されてきました。

  • (注)参考ページ

「地域包括ケアシステム」(厚生労働省)

その背景としては高齢化があります。高齢者数の増加に伴い、年金をはじめ医療費などの社会保障費が増加し、併せて少子化により税収が減少するなどの経済的な理由があります。その対応策の一つとして、医療費を抑制するために病床数や病院数をなるべく増やさず、むしろ減少させる方向に誘導しているようにも見えます。実際に医療機関の数や病床数は年々減少しています。しかし、高齢者数の増加に伴い死亡者数も増えるのは自然の摂理です。しかし、その受け皿である医療機関が減少することは大きな社会的問題です。そこで、地域包括ケアシステムにも記載されているように「在宅」が医療などを受ける場所として医療機関に代わって必要になります。

このような流れを受けて、さらに診療報酬も優遇されるなど在宅医療への参入を検討している医療機関も多くなってきています。しかし、実際に在宅医療を実践することに課題や注意点もあります。

在宅医療の具体的な内容は、「訪問診療」と「24時間体制の構築」です。まだ数が少ない在宅専門の医療機関以外は通常の診療がありますので、いつ患家へ訪問診療に行くのかということを事前に計画しなければなりません。さらに患者の対応を24時間体制で準備しなければなりません。どちらの課題もマンパワーが重要な要因となりますので、特に規模の小さな医療機関になればなるほど大きな問題となります。

規模別の対応策

1.診療所

  • 24時間体制を構築できるかが最大のポイントです。自院以外の協力医療機関と連携して24時間体制を構築するのが現実的な解決方法です。
  • 在宅療養支援診療所(在宅専門の診療所)に変更(診療報酬点数上は優遇される)
  • 通常の診療を行いながら、在宅医療を実施する場合は、昼休み時、土日などの診療時間以外で訪問診療を実施することになります。スタッフの確保、手当なども考えておかなければなりません。

2.200床未満の病院

  • 在宅療養支援病院については、(半径4km以内に診療所があると)施設基準を満たすことができません。すなわち、診療報酬点数上優遇された点数を算定できないということです。
  • 在宅医療に関わる医師、スタッフ、さらに訪問診療の時間を捻出することが困難です。

3.200床以上の病院

  • 在宅療養支援病院を取得して、診療報酬点数上の優遇された点数を算定することができます。この場合、自院の将来の方向を決定づける経営判断となりますので、十分な検討が必要です。
  • 24時間体制を自院だけで構築可能です。

4.その他

  • 病床の規模に関わらず、在宅療養支援診療所をサテライトクリニックとして新設する方法があります。その場合はエリアマーケティングの結果から是非の判断ができます。

在宅医療の課題と解決法

今後のわが国の状況を鑑みると在宅医療は必要だと思います。しかし、課題もまだ多く残っています。

一つ目の課題は、日本人は大病院志向であることです。病床数の多い病院や大学病院を好む傾向が強い国民ですので、在宅医療を受ける側の患者心理が変化しないかぎり在宅医療が大きく前進することは難しいです。二点目の課題はフリーアクセスです。意外かもしれませんが、わが国の医療の特徴の一つでもあるフリーアクセスが、前述の大病院志向にもつながるのです。三点目の課題は在宅医側の課題で、総合診療医の数やその能力です。在宅医療は診療科を問わず診療ができないとなりません。日本の医師はその総合診療医としての専門的な教育を大学ではほとんど受けていません。日本医師会が総合医教育を行っていますが、まだその数は非常に少ないのです。四点目の課題は、在宅医療に取り組む医師への負担が大きいことです。24時間体制の構築にしても、ある時間帯を医師以外の例えば看護師が代われるかといったらそれはできません。医師でないと処方箋一枚出せないのです。第五の課題は、現在の在宅医が高齢化している問題があります。

さまざまな課題はあるにせよ信念を持って現在、在宅医療に取り組んでいる医師がいます。しかし、なかなか後に続く医師が少ないことも事実です。

これらの課題の解決方法は、在宅医療を実施することで収益が伴うようにすること。医師に負担が集中することが多いですので、タスクシェア、タスクシフトなどを取り入れ、負担の軽減をすること。そして重要なことは安易な参入によって、在宅医療の質が低下しないようにすること。評価制度などの導入などもよいかもしれません。最後に在宅医療の教育を早い段階で行うことと、医師以外の職種の医療従事者への教育も同時に行うことだと考えます。

皆さんは、どう思いますか?

次回は5月12日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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