第113回 医療機関のSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)戦略について

医療機関において、万人向けの医療サービスを提供する時代は終わりました。ある分野・機能に特化した質の高い医療サービスを準備・提供することが、たとえ規模は小さくても、特定の分野は大学病院をしのぐほどの高い医療の質を持つことが、これからの医療機関の生き残る道です。

医療機関のSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)戦略について

一昔前の病院は、いわゆる「総合病院」といわれる病院があり、風邪から交通事故などの外傷、果ては癌(がん)などの悪性腫瘍の治療まで何から何まで一つの病院で治療・対応ができることが大きな病院の役割でした。患者もあちこちの病院に行かないで、一つの病院で複数の疾病に対応してくれるこのような病院が好まれていましたし、実際に患者も多く集まっていました。しかし、どの診療科も全て高い医療の質を維持することは、現実的には困難なことでしたし、患者に不利益をもたらすことにもなります。現在は医療連携の名のもとに「選択、機能分化と集中」が進み、各病院は自院の得意分野を選択し、その得意分野に資本を集中投下して機能を強化・特化しています。万人向けの医療サービスを提供する時代は終わり、ある分野、機能に特化した質の高い医療サービスを準備・提供することが、たとえ規模は小さくても、特定の分野は大学病院をしのぐほどの高い医療の質を持つことが、これからの医療機関の生き残る道です。

ビジネスにおいては、セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング(以下、STP)戦略というものがあります。これはマーケティング戦略の基本フレームワークの一つで、セグメンテーションは、消費者セグメンテーションや市場細分化、顧客セグメンテーションなどと訳されることが多いです。ターゲティングは、自院に来てもらいたい具体的な患者層のことで、ポジショニングとは、ターゲティングされた患者層に対し、優位な競争力を持つこと。「集患力」のことと定義付けできます。
STPのそれぞれは重要ですが、最も重要なことは、「セグメンテーション」です。STP戦略において、セグメンテーションの結果が前提となり、その後のターゲティング、ポジショニングと進んでいきますので、前提が間違ってしまいますと、その後のプロセスも誤った方向に進んでしまいます。

セグメンテーション

今回はセグメンテーションの「患者(疾病)セグメンテーション」を中心に解説していきます。医療以外の事業ならば、消費者セグメンテーションなどと表記されていることが多いと思います。さらにセグメンテーションの目的は、「ニーズがありそうな人たち」を見つけ出し、その消費者層に狙いを絞ることです。一方で、医療経営において消費者は患者です。患者はさまざまな疾患(診療科)に渡り、受診します。医療機関は医師をはじめ、人的な資源などを準備して診療にあたります。
医療機関にとってセグメンテーションの結果(疾病や分野など)は、その医療機関の今後の経営の方向性を決定することにもつながります。

セグメンテーションには、大きく分けて四つの変数があります。

  • 地理的変数
  • 人口動態変数
  • 心理的変数
  • 行動変数

です。

医療分野においては、この四つの変数を基にセグメンテーションすることは必ずしも正解ではありません。
特に地理的変数は、生命に影響を及ぼすほど重症度が高い疾患であれば、地理的な条件はある程度無視され、重要視されません。残りの変数はセグメンテーションしようとする疾患や分野にとって重要になる場合もあります。
人口動態変数であれば、高齢者数の動向や性別などは泌尿器科系や産婦人科系、小児科系であれば重要な変数となります。
心理的変数は患者の心理になりますので、例えば延命を強く望むのか、穏やかな最期を希望するのか患者の生き方や考え方やライフスタイルなどが影響します。
行動変数はノンユーザー、ライトユーザー、ヘビーユーザーなど利用頻度を軸に考える変数ですが、医療では新規患者、再来患者などと置き換えることが可能です。これらの変数に加えて、医療では「自己資産変数」を加えて考えることが重要です。理由はどの分野や疾患をセグメンテーションしたとしても医師などの人的資源、専門の医療機器や設備などが必要になります。

そのどれもが非常に多額の資金が必要となりますので、新たに一から構築するのではなく、現在の自己資産に積み重ねることが現実的だからです。しかし、現在の資源から単純にセグメントするのではなく、「医療への思い」「目指す理想の医療」などがセグメンテーションのベースにあるべきだと考えます。

STP戦略の考え方

具体的なSTP戦略の考え方を例示します。消化器系の疾患が多い医療機関があったとします。この分野の患者が多いので、消化器系の医師や医療機器などは一通りそろっています。自己資産変数は高いと判断できます。当該医療機関の所在地はいわゆるベッドタウンと呼ばれる地域で生産年齢人口が多い地域ですので、人口動態変数も優位に高いと判断できます。心理的変数から考えると患者の多くが生産年齢と想定でき、インターネットなどでさまざまな医療情報を入手しいろいろな治療方法を希望することが考えられますので、多くの治療方法の選択肢を用意したいところです。

しかし、この病院で対応できる治療方法としては、手術や抗がん剤治療はありますが、放射線治療は実施していません。また近年注目されている免疫療法も対応できません。これらの部分は、セグメンテーションを決定した後、有意なポジショニングを確保していくためには改善しなければいけない課題として浮かび上がります。さらに治療の選択肢だけではなく、ストーマ(人工肛門)対応などのアフターフォロー的な診療体制も望まれます。

最後に行動変数の観点から考察すると、内視鏡センターの充実や消化器系の健診に注力する必要があります。疾病の早期発見だけの目的ではなく、「病院に行ったことがある」という事実を作ることが肝要です。同じ理由で医学教室や健康教室なども有効的な手段です。
またSTP戦略立案では、本コラムでも以前ご紹介した「ペルソナ」を活用することも参考になると思います。

第103回 ペルソナの活用(健診センターでの利用を例として)

皆さんは、どう思いますか?

次回は6月9日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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