第53回 医療を取り巻く外部環境

新年度を迎え、新入職員や新入社員など新しく医療人となられた方々が多く誕生されていると思います。そこで、我が国の医療を取り巻く外部環境の基本を整理して解説したいと思います。

日本の医療の特徴

1.国民皆保険制度

我が国では、全国民がいずれかの医療保険制度に強制加入することを原則とする国民皆保険を実現しています。国民皆保険制度は、第二次世界大戦後、我が国が社会や経済復興の時を経て、一国の経済的自立と国民生活の安定を目指しているなかで策定された「社会保障の五カ年計画」をもとに制定準備が進められました。その後1958年に新国民健康保険法へと反映。国民健康保険法は1953年に既に制定されており、新法では国民健康保険に対する国の財政責任を明確にすることを掲げ、従前の「国庫補助」を「国庫負担」としたり、療養給付費に対する調整交付金を創設したりして、保険者である市町村の財政支援をしながら皆保険の早期実施を促しました。

医療保障制度には大きく、ドイツ・フランス・オランダなどに見られる社会保険方式と英国のNHS(National Health Service/国民保健サービス)に見られるような税方式とがあります。社会保険方式とは、個人の拠出により将来の生活困難リスク(所得喪失、医療・介護ニーズの発生)に対する事前の備えを相互扶助的に行う仕組みです。一方、税方式では、税財源をもとに居住などの要件のみで給付が行われます。我が国の医療保険制度は、前述のビスマルク創設のドイツの疾病保険法をモデルとした疾病保険の創設を嚆矢(こうし)とし、「国力としての労働能率の増進や労資の乖離の防止と対立の緩和」を目的としました。

健康保険法の立案経緯により、社会保険方式を基本として運営されてきた現状の我が国の医療保険は、職域保険と地域保険とに大別でき、職域保険は被用者保険と自営業者保険に、うち被用者保険はさらに職域ごとの保険へと細分化され、それぞれに組合を設立しています。
被用者保険は、被雇用者とその扶養者を対象とするもので、事業主単位の保険組合(大企業の場合)あるいは複数の事業主が共同で設置する保険組合による組合管掌健康保険と、中小企業の従業員などが加入する協会けんぽとがあります。保険料については、所得(標準報酬)水準に応じて徴収されています。市町村等が運営する市町村国民健康保険は、被用者保険によってカバーされないすべての国民(生活保護者を除く)をカバーすることによって、皆保険体制を支える「扇の要」の役割を担っています。

国民皆保険制度は、必要なときに必要な医療を受けることができて、誰もが平等に医療を受けられるという大きな利点があります。提供されている医療サービスは地域で差は出ると思いますが保険証があれば日本ならどこでも、病院で受診することが可能であるということです。また、医療にかかった費用などは一部負担が求められますが、月に高額な負担を和らげるための「高額療養費制度」などの救済措置等もあります。これにより、生活などの影響に負担がかからないように比較的安く医療を受けることができるということがメリットです。
一方でデメリットは、「過剰な投薬や診療行為につながりやすく、医療費のむだを生み出しやすい」「超高齢化社会を迎える中で、保険収入が増えない」「保険に加入している人は、健康・不健康にかかわらず毎月保険料を支払わないとならない」などが挙げられます。さらに高齢化が進む現在では保険の収入が増えず高齢者の医療費が増えているため、赤字の国民保険だけでなく従来は黒字だった企業の健康保険にも影響が出ていることも挙げられます。

2.フリーアクセス

第二次世界大戦後、我が国では、国民の社会保障の充実という観点から「誰でも・いつでも・どこでも一定水準の医療サービスを受けられる仕組み」を目指し、医療の保険制度や供給体制を整備してきました。その結果、国民には医療へのフリーアクセスの権利が確保されたわけです。半面、患者の大規模病院志向による高度医療機関への一極集中から、いわゆる「3時間待ちの3分診療」を引き起こしたり、同一の病気または症状でありながら複数の医療機関を受診するといった「ドクターショッピング」などの非効率性も同時に生み出したりしています。自らの身体状況に不安を抱える患者にとって、英国などに見られる「ウェイティングリスト」問題を起こすことのないこの制度は、安心を与え信頼を得るものであるかもしれませんが、被保険者の拠出金や国庫補助等により賄われる限られた財源のもとで、一定水準の医療サービスを普遍的かつ効率的に提供するという観点からは、何らかの是正策を講じる必要があります。これらの解決策のひとつとして、診療報酬改定等や医療崩壊性等の医療政策では、医療機関の機能分化と連携体制のあり方など新たな医療提供体制に向けた政策が打ち出されています。
フリーアクセスは日本独特の仕組みです。それをやっていると、どういうことが起きるか。軽いけがでも風邪でも気軽に大病院へ行ってしまう人が多くなります。そうすると、大病院では1日の外来患者数が5,000人などというすごいところが出てきてしまうのです。本来病院は専門的な医療を施し、入院機能を果たすべきところですが、外来と入院とが混在してしまい、収拾がつかないことになってしまうことになります。

3.現物給付

我が国の医療供給は、各都道府県にある地方社会保険事務局に指定登録をしている保険医療機関、または保険医による診療・治療行為や入院、在宅医療、看護などを対象とし、原則として現物給付方式を採用しています。現物給付とは、被保険者が保険診療に要した医療費を契約先の保険者が医療機関に対して支払う仕組みであり、患者は医療費の一部を負担するだけで医療を受けられるようになっています。実際に医療を受ける際には、一般の診療や治療以外に高度先端医療として認められる治療技術が用いられることがありますが、この場合は選定療養費として医療保険が適用となります。ただし、入院部屋の個室料(差額ベッド代)は自己負担となり、また高度先端医療などとして認められていない技術や薬剤を用いた場合には、混合診療禁止の原則により通常保険診療として認められる部分に関しても自費診療となります。これらの患者負担は、国民医療費の高騰や少子化による財源である税収の減少もあり、さまざまな場面で負担増になる政策が採用されています。

※診療報酬制度
診療報酬制度においては、あらかじめ「保険医」の登録を行った医師が、「保険医療機関」の指定を受けた医療機関において保険適用の診療行為をした場合、提供された診療行為ごとに定められた点数を積み上げた合計点数で計算された報酬が支払われます。各行為の診療報酬点数は、健康保険法上の告示である「診療報酬点数表」に基づいて計算されるため、医師または医療機関は、患者に対して提供した医療行為の点数の合計を1点=10円にて換算し、審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金、または国民健康保険団体連合会)に請求書(レセプト)を提出することで請求することになります。審査支払機関は、レセプトに記載された診療内容について、療養担当規則等の定めによって正しく行われているかを審査し、診療報酬額を決定します。審査認定を受けた診療報酬は、診療した月の翌々月に医療機関の振込口座に振り込まれることになります。患者さんに対して医療というサービスを提供しても、収入は2カ月後になるということです。また、診療点数とは、医療サービスの定価です。通常の業界は自分たちの製品やサービスに対して自分たちで定価をつけますが、医療では自分たちで自分たちのサービスに定価をつけることができないということです。しかも診療報酬は、通常2年に一度の頻度で改定が行われますので、その定価も2年に一度変わってしまうということです。

一般的に収入の95%以上を診療報酬が占める医療機関にとっては直接収益を左右するだけに、経営における診療報酬改定の影響は大きいです。

医療機関を取り巻く経営環境は厳しいことがお分かりだと思います。このような環境の中で医療機関は経営のかじ取りをしていかなくてはならないのです。

皆さんは、どう思いますか?

次回は5月18日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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