第54回 病院の職場環境とは何か

病院に限りませんが、さまざまな職場で、いろいろな人が一緒に働いています。近年は特に、男女雇用機会均等法や、障がい者優先調達推進法、EPA(経済連携協定)などにより、男女はもちろん、健常者と障がい者、あるいは日本人と外国人が、同じ職場で働くことも珍しくなくなってきました。しかし、同じ職場でさまざまな人が一緒に仕事をするということは、やはり不具合が生じることも多く、何の対策もしないことは無用な軋轢を生むことにもなりますので、事前によく考え、想定される対策を全て講じておくべきだと思います。

職場とはどのような場所でしょうか? そんなことを深く考える人はあまりいないでしょう。あえて職場を定義づけすると「共通の目的を達成しようとするさまざまな人々が集う場所」ということになるでしょうか。この「さまざまな人々」とは、いったいどんな人々なのでしょうか。男性と女性、健常者と障がい者、年齢、雇用形態、人種、国籍、そして特に医療機関の場合は医師や看護師といったライセンスを持った高い専門性を有している職種の方が集うという特殊な環境が加わります。また、個々人の考え方も感じ方も育ってきた環境も違います。このように、ひとりとして同じ人がいないのが個性でもあるのですが、この個性の集まる場所こそが「職場」なのです。全く異なる個性が集まるのですから、何もしなければ、衝突してしまうのは当然です。そこで、一緒に働きやすい環境、場所、すなわち「みんなの職場」を作り上げるという共同作業が必要になるわけです。

複数の人が一緒に働くときに気をつけなければならないことがあります。ヒューマンエラーの発生防止や情報漏えい防止、そしてハラスメントにも注意しなければいけません。
ヒューマンエラーについては、どのような職場でも注意が必要ですが、特に医療の現場では、患者の生命に危害がおよぶことも想定されてしまうため特に注意が必要です。小さなミスが大きなミスに発展しまうこともあります。医療の現場でのヒューマンエラー例としては、情報伝達ミス、紛失、記入ミス/入力ミス、操作ミスなどがあります。それぞれ、情報伝達ミスの防止には、メモを取ることを習慣づけることや、指示を復唱することなどで防止できます。紛失に関しては、日ごろから身の回りや職場を整理整頓することで、紛失そのものを防止できますし、たとえ紛失しても発見しやすい環境となります。記入ミス/入力ミスは、別の人による二重チェックや記入場所/入力場所の固定化、集中できる環境づくりをすることで防止できます。操作ミスの防止は、マニュアルの活用です。多くの職場で操作マニュアルは作成されていると思いますが、作成されっぱなしではないでしょうか。作成されたマニュアルは活用されて初めてその価値があるのです。必要に応じてマニュアルの内容を見直すことも必要です。

情報漏えいについては、近年のSNSの発展により、誰でも気軽に、また容易に情報発信できます。そしていったん発信された情報は、全世界に配信されてしまい、発信後に収拾することはまず不可能です。したがって、情報漏えいさせない対策が重要です。繰り返しの教育、研修や、SNSに対する誓約書などを職員と締結している病院も近年増加しているようです。

ハラスメント対策も重要です。ハラスメントについては以前、本コラムでも取り上げました。ハラスメントの怖いところは、ハラスメントをしているほうが、ハラスメントをしている意識がないことです。むしろ、ハラスメントの被害者に対して指導している(よいことをしている)と思っていることさえあるという点です。ハラスメントは、急に始まるのではなく、前述のように自覚なく徐々にエスカレートしていくことが多いので、早めに対応策を講じる必要があります。ハラスメントの加害者にならないための対策としては、以下のようなことが挙げられます。(パワハラを想定した場合)

  1. 仕事の指示は、具体的に明確に出す
  2. 部下の経験、理解力、習熟度に合わせた指示を出す
  3. 日ごろから、部下の話を聞く
  4. 相手のプライドに配慮する。決して「ばか」とか「なんでできないんだ」などの発言はしない
  5. 叱責は適切に行う。相手の全面否定や拡大否定は厳禁。叱責するときは、簡潔に行い、叱責と同時に解決策や改善策を問いかける
  6. 自分自身の指導力を向上させる。近年では医療の現場でコーチングの手法が取り入れられている

多くの職場に障がい者の方々が働いています。医療機関でも例外ではありません。障がい者の方々と一緒に働くうえでも注意点があります。

  1. 積極的な職域開発と配置に心掛ける。障がい者と一言で括っても、実は障がいの種類も程度もさまざまです。まずは障がいの種類、程度を把握し、障がい者個人の能力と適性を見極めることが重要です。そのうえで、既存の仕事にとらわれること無く、新たな仕事を任せるくらいのつもりでいましょう
  2. 教育には十分な時間をとること。仕事内容になれるまで、多くの場合、健常者に比べて時間を要します(健常者と比較すること自体避けるべきですが)。慣れるまでの時間を十分にとってください。特にいったん慣れた仕事内容が変化するときは、さらなる注意が必要です
  3. 個々人の能力に応じた適正な処遇を心掛ける。適正、本人の希望も勘案しましょう。賃金だけではなく、労働時間などの条件設定にも細かい配慮が必要です
  4. 障がいの種類や程度によっては、安全に対する配慮が必要。健常者の視点からは気づかないこともあります。また、非常時の安全確保についても配慮が必要です
  5. 職場内での支援体制構築。義務はありませんが、相談員や支援チームなどがあると有意義です
  6. 障がい者、障がいについての意識啓発に努める。障がい者が配置されている職場だけではなく、病院に勤務している職員全員が障がいについての理解と認識を深めるように努めます

さまざまな個性を持った人々が集い、一つの目標のために努力する場所が「職場」です。気持ち良い、働きやすい職場にするためには、上司や部下など関係なく全ての人が創り上げるという意識を持って、お互いが歩み寄ることが必要です。そのためには、相手を理解する、認めることかがファーストステップです。コミュニケーションの基本は話をすることです。しかも話の中身より、話をした時間数の方がコミュニケーションには重要だと言われています。必要最低限のことしかしゃべらないのではなく、長い時間をかけて、コミュニケーションを図り、その土台のうえに理想の職場を創り上げていきましょう。

皆さんは、どう思いますか?

次回は6月15日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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