第52回 2016年度診療報酬改定の影響 患者の受療行動を中心に

前回のコラムで、診療報酬改定の答申書(厚生労働省)の読み方のポイントをお話ししました。2月10日に答申書が出ましたので、既に読まれた方も多いのではないでしょうか?診療報酬という医療機関にとっての値段が変わるという変化は、医療機関の経営に大きな影響を及ぼします。お陰様で、多くの診療報酬改定の説明会に講師として呼ばれ解説して回っています。改定の内容をすべてこのコラムで紹介することはできませんが、今回の改定内容によって、医療の消費者である患者が、どのようにその消費行動(受療行動と言います)を変化させる可能性があるのか、を中心にお話ししようと思います。

日本人は、諸外国に比べて大病院が好きな国民と言われています。欧米各国では、かかりつけ医(英国ではゲートキーパー)制度があり、患者はまず、そのかかりつけ医に受診します。その後そのかかりつけ医の判断で必要があれば、専門病院や大きな病院を受診することになります。日本では国民皆保険制度の下、患者の受診機会の自由化が保障されており、基本的に患者は、いつでもどこの医療機関にも受診することができます。大病院の方が設備が整っているだろう等の判断から、受診するなら大きな病院に受診しようという患者(消費者)心理の行動が受療行動です。さらにかかりつけ医だろうが、大病院だろうがさほど費用負担の金額も変わらないので余計に大病院への受診動機が強く働きます。

しかし、多くの人が大病院に殺到した結果、「3時間待ちの3分診療」などの言葉にも表されるような現象が起き、効率性が損なわれることになりました。また、一般的に大病院では高度な検査機器などもあるため、患者の受ける診療内容も密になり、当然患者の単価も高額になります。ということは国民医療費も高騰するということに繋がります。そこで、厚生労働省は、診療報酬改定というツールを使って、患者の受療行動を変えようとしています。

紹介状(診療情報提供書)が無い患者の大病院受診について

2016年4月から、紹介状を持っていない患者が直接、大病院に受診しようとすると、初診であれば5千円、その後再診の度に2千5百円患者は支払わなければならなくなります。現在でも大病院の外来受診を抑制させる制度の一つとして選定療養費というものがあり、同じように紹介状を持っていない初診患者に対して、病院が決めた金額を徴収できる制度があります。この選定療養費は病院が金額を自由に決められます。今回の5千円と2千5百円の徴収は、この選定療養費とは別に徴収しなさいというものです。金額の徴収は医療機関の責務と記載されていますので、医療機関は徴収しなければいけないお金であるということです。まだ4月からのこの変更内容が広く一般には知られていませんが、この内容を知った後の患者の受療行動は変わる可能性があります。従来の選定療養費に加えての患者自費負担ですので、紹介状を持ってきた初診患者と持っていない初診患者では1万円近く自己負担額が変わることも考えられるので、紹介状なしで大病院に受診するのを躊躇する患者が出てきてもおかしくありません。さらに今回の診療報酬改定でこの「患者から自己負担分を徴収しなければいけない大病院」に指定されているのが、特定機能病院(ほとんどが大学病院の本院です)と500床以上の地域医療支援病院です。特に近隣に、この対象となる病院がある場合、近くの他医療機関に患者が流れることが考えられます。

要介護被保険者のリハビリテーション

次にリハビリテーションですが、患者自身の意思によって受療行動が変化するということよりも、医療機関が変化させざるを得なくような改定内容です。皆さんの周りにもリハビリを受けている方は多いのではないでしょうか。その方々は高齢者が多いと思います。また介護保険制度を使って、さまざまな介護サービスを受けている方も多いのでしょう。今回の改定で、このような要介護被保険者(介護保険利用者)が、医療機関で医療保険を使ってリハビリを受けた場合、医療機関側が実施すればするほど赤字になるような仕組みになります。具体的に数値でご説明しましょう。リハビリの中に「運動器リハビリ」というのがあります。この運動器リハビリの点数は、今回の診療報酬改定で、4月からは185点(1点10円)になります。この点数は今回5点アップしました。しかし、リハビリ対象者(患者)が要介護被保険者だった場合、60%の点数しか算定(請求)できないルールになりました。すなわち、5点アップした185点ではなく、4割カットされた111点しか請求できない(収入として得られない)ということです。このような患者が1日20人いたと仮定し、月の稼働日数が20日間とします。111(点)×20(人)×20(日)という計算式になりますので、44,400点となります。1日20人というのは、セラピスト1人が受け持つ一日当たりの患者数とすると、セラピスト1人で、44.400点の収入を得ると考えらえます。この金額はセラピスト1人当たりの人件費(給料、法定福利費、賞与引当金、退職積立金等)とほぼ同額で、ほとんど利益は出ません。さらにこの医療機関に通所リハビリ施設が無い場合、2割カットされます。すなわち、44,400点ではなく、35,520点ということになります。しかも、目標設定支援等管理料(リハビリの計画を立てていないければ)を算定していなければ、更に1割カットされ、31,960点になってしまいます。この点数(金額)では、実施すればするほど医療機関の持ち出しが多くなります。

医療機関側では、赤字では困りますので、リハビリを受けている要介護被保険者に対して、医療保険でのリハビリから、介護保険でのリハビリに切り替えを促すようにするでしょう。当然リハビリの内容は異なります。さらにそもそも、要介護被保険者のリハビリを受け入れることを躊躇う医療機関も現れるかもしれません。リハビリテーションは、医療保険と介護保険の2つの保険制度の中に重複している分野ですが、その目的は異なります。医療保険のリハビリは、機能回復が目的であり、介護保険のリハビリは機能維持が目的です。今回のリハビリの逓減性は、従来の目的に沿った保険制度下に患者を誘導することを狙った改定内容であると考えられます。

医療機関は自分たちで自分たちの提供するサービスに対して自由に価格を決めることができません。診療報酬と言う公定価格で守られていると考えることもできますが、経営環境が外部環境に大きく左右される事業分野とも言うことができます。それだけ経営が難しい分野です。また、患者の立場で考えると、賢い患者になることが求められている時代になったと思います。情報の多少が患者の不利益に繋がることも考えられます。このようにならないように情報提供はしっかり行ってもらいたいものです。

皆さんは、どう思いますか?

次回は4月13日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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