第51回 診療報酬改定の考え方

医療機関にとっては、経営に直接影響が出る2年に一回の診療報酬改定がやってきます。このコラムがアップされる頃には改定内容も明らかになっていることと思います。毎回のように改定の内容を解説するセミナーが数多く開催され、どの会場も盛況のようです。恥ずかしながら私にも講演者としてお声が掛かる医療機関様や団体様があり、ありがたい限りです。しかし、いつも思うのですが医療機関様は置かれている役割や立地条件などそれぞれが全く異なります。改定の内容を正しく理解し、ある一面だけを捉えるのではなく自分たちの状況に合わせて今後の経営戦略を立ててくれれば良いのですが、大丈夫だろうか?などと心配することも多くあります。また講演者としてはさまざまな状況を想定しながら解説をしていますが、時間的な制約や幅広い参加者の場合も多く、中々全てのケースを想定した内容は伝えきれていません。もちろん私の技量不足も大いに影響していますが。

そこで今回は、診療報酬改定を踏まえて、厚生労働省発の文章の読み方ポイントやその背景等を踏まえたうえでの今後の医療機関の経営戦略(基本的な考え方のみですが)をお話ししたいと思います。

そもそも診療報酬改定はなぜあるのでしょうか?その答えは、叱られることを覚悟で言えば「医療費の削減」ただ一点です。改定の内容も医療費の削減を前提に考えれば全て納得できます。医療費を削減するには、三つの方法があります。一つ目は診療点数そのものを下げることです。二つ目は医療機関への受診者数(患者数)を減らすことです。そして三つ目が患者様自身の自己負担への切り替えです。一つ目の点数の削減は診療報酬改定で実施されます。直接点数を切り下げる方法から、包括範囲を拡大する方法や算定のルールを厳格化することなどあらゆる手法を使って医療費を下げようとしてきます。二つ目の医療機関への受診者数(患者数)を減らすとはどういうことでしょうか?それは例えば特定健診などを推進することで、より早く生活習慣病予備軍を発見し、指導することが可能になります。すると病気にならないように予防できる。あるいは病気になることを遅くする。病気が重症化することを避けるなどの政策のことです。さらに「目の前にベッドがあるから入院させるんだ」という国の考え方のもと、ベッド数の削減政策も実施しています。これらは、診療報酬改定だけでは実施が難しく、医療法などの法律を変更するなどの手法が取られます。さいごの患者様自己負担への切り替えとは、入院時の食事代など、以前は保険で賄っていた範疇のものを、患者様自己負担へ切り替えることにより医療費の軽減化を図ろうと考えています。この政策が拡大すると貧富の差が受けられる医療の差に繋がる恐れもあります。非常に危険だと考えています。しかし保険で賄う範疇の疾患と患者の自己負担で賄う疾患に分けよう*と国は考えているなどと噂も聞こえてきます。
※たとえば、糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病があります。1型糖尿病は主に自己免疫によって、自分自身でインスリンを産生する膵臓のランゲルハンス島β細胞を破壊してしまい、分泌ができなくなって発症します。2型糖尿病は、食べ過ぎ、運動不足、喫煙、肥満など患者自身の生活習慣が原因で発症する疾患です。言い換えれば1型糖尿病の発症には自己責任はありませんが、2型糖尿病の発症は自己責任による発症と言えます。したがって、1型糖尿病は保険診療するが、2型糖尿病は全額自己負担させようという考え方です。

国はあらゆる手法を駆使して医療費を削減しようと考えてきます。医療費の削減は、すなわち医療機関の収入が減るということです。ものすごい逆風の中を医療機関という船は前に進んでいかなくてはならないのです。医療機関の収入(収益)構造は単純です。その計算式は、患者数×患者単価です。単価は診療報酬点数という公定価格ですので、今回のように診療報酬改定で点数自身が減らされてしまったら、医療機関は抗うことは不可能です。対抗手段もほとんどありません。ポイントは患者数です。患者数を増やせるかどうか?しかも自院にとって最も有益な患者様群を増やせるかどうか?患者様の状態がいかに変化しても、自院や自院グループ内で対応することが可能で、患者様へのワンストップサービスを提供できる体制が整っているかが今後の医療機関、特に病院の経営戦略のひとつだと考えています。もちろん、何か特徴を作り、どこにも負けないコアコンピタンス戦略もあります。どちらの戦略を選択するかは、自院の置かれている環境を鑑み、決定すれば良いと思います。

厚生労働省発の文章の読み方/言葉の本当の意味
◇見直し……点数自身が下がる。あるいは、包括範囲が拡大するといった内容になる。医療機関にとっては、減収になる内容。

◇評価・充実……新しく保険収載される。点数自身が上がる。算定基準のハードルが低くなるなど、医療機関にとっては、増収になる内容。

◇~の推進・拡充……何らかのインセンティブを使って、国が求める方向へ誘導しようとしている。一定期間は医療機関側にとって増収となる内容だが、ある時期になると「やって当たり前」すなわち実施しても収入は得られず、実施できなければ減算するといったいわゆる「はしご外し」の政策が取られる。はしご外しだと分かったうえで、いち早くその政策に乗っかれば、それだけ利益を蓄積できる期間が長くなる。早い経営判断が重要。

◇適正化・適正な~……ある分野(範囲)のなかで診療点数が上がるものもあれば、下がるものもあるということ。一般的には技術力が高いものは評価が高く、技術が陳腐化、汎用化してくると評価は下がる。検査の点数などは代表的な分野(範疇)

この四つのキーワードを理解したうえで、診療報酬改定の答申書等を読んでいただくだけで、全く理解度が違ってきます。理解度が上がれば改定のセミナーに行っても、経営戦略の立案にしても、より適切な判断ができるようになります。ぜひ参考にしていただきたいです。

皆さんは、どう思いますか?

次回は3月9日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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