第30回 人材管理は難しい?その1

4月に入職、入社してきた新人たちは、現場へ配属され元気に仕事している頃だと思いますが、皆さんの職場ではいかがでしょうか?ところで「人の管理は難しい」とよく聞きますが、どうでしょうか?
最初に頭の整理として人材管理の機能や役割を考えましょう。それは概ね次のような事柄でまとめられるのではないでしょうか?

1、雇用活動として・・・新卒、中途採用を含め募集から採用、退職までを一貫しての管理
2、教育、訓練・・・新入職員(社員)研修、幹部候補生研修、職種別研修、診療報酬上の要件による研修などさまざまな形態がある
3、組織構造の設計・・・組織自体の設計や意思命令系統の設計、会議体の設計など
4、モチベーション・・・職員(社員)のモラル管理や動機付けのための仕組み
5、報酬制度の立案と運営・・・人事考課制度と賃金制度
6、福利厚生制度の立案と運営・・・金銭報酬以外のサービス提供
7、労使関係の調整・・・労使交渉

経営管理のなかでも、上記の人材に関わる管理内容(機能や役割)は非常に重要なウェイトを占めています。
人の価値観はさまざまですが、この人材管理の内容が最も重要と考える職員(社員)も多くいます。

人材管理の目的は、組織と言う「器」の中身を整え、組織を統合し、経営ビジョンや戦略といった目標に方向を定め、職員(社員)の作業効率や発想力を最大限に高めることで組織活動の各プロセスにおける付加価値を高めることと言えます。
その上で個々の人の能力を発揮させるという個別最適と、組織能力を最大化するという全体最適の両方を達成させることが求められています。

医療機関は、「労働集約型産業」とよく言われます。医療機関は「人」に依存した組織であり、収益に対する人件費割合(人件費率)が約50%を占めることでも分かります。
そのために人をどのように採用して、育て、評価し、そして報酬を与えるという一連の流れの中で、モチベーションとコミットメントを高める、維持していくことは非常に重要なファクターです。

医療機関は医師を頂点としたライセンス所有者が多くいる職場で、職種により大きく雇用環境が異なる職場です。
このような環境下での人材管理は、一般企業の人事管理システムと医療業界特有の慣行を併せ持った人材管理が必要となります。

医師は、大学の医局をベースとしてキャリアパスに乗ることが多い流動性の高い職種です。
看護職もまた流動性が高い点では同じですが、そのキャリアパスは多様で個別性が高いです。
また経験年数、勤務年数、専門性(認定看護師など)、勤務体系などにより全国共通の人材市場があります。
その他の医療技術職は、流動性が高い職種から低い職種、外部委託比率の高い職種から低い職種まであります。
近年は外部からの派遣社員や委託企業社員が多くなっています。

医療機関における人材管理は、前述したようにさまざまな有資格者、異なる職場環境など多くの要因が入り交じり、複雑さを極めています。
その複雑さゆえに専門職集団における自己管理機能に依存する傾向も見ることができますが、チーム医療を実践するためには、自己管理ではなく、組織として適切に人材管理を行うことが必要です。

このような内部環境の複雑さに加えさらに、外部環境も変化しています。
一つ目は、少子化の問題です。単純に人材の数が少なくなるため雇用確保が困難になるという問題から、雇用形態の柔軟化が起こり、家庭に入った人材を再雇用すること(再就職を支援する制度や院内保育園などで再雇用を促進)や、外国人労働者を受け入れる(FTA*やEPA*などにより、東南アジアから看護師として就職してもらう)などが取り組まれています。
※FTA:自由貿易協定、EPA:経済連携協定

正規職員(社員)に留まらず、契約社員(職員)や派遣社員、パートタイマー・アルバイトなどの労働に対する意識も実に多様化しています。
例えば管理職を目指すのではなく、スペシャリストを目指すとか、職業と同様に趣味の時間を大切にする人や、ボランティアなどの社会貢献に重きを置く人など労働に対する考えがユニーク化しています。
このような意識の多様化に対応するように雇用形態も同様に多様化しなければいけません。

そして、IT技術をはじめとする情報化の進展により、必ずしも医療機関に通勤しなくても、あるいは勤務時間にもとらわれない業務形態が出始めています(遠隔医療の一環で、画像診断の一部は、自宅などで業務可能など)。
このような業務形態により、場所、時間の節約が可能になり効率化が図られる一方で、情報漏えいなどのセキュリティ上の問題なども考慮しなければいけません。

人材管理の第一歩、入り口とも言える雇用に対する計画はどのように決定されていますか?単に欠員補充だけを行っていませんか?どの部署にどのような人員を何人、いつ採用するかという計画を立てているでしょうか?

要員計画は、採用、配置、異動、退職などのイベントに整合性を持っていなければなりません。
従来予算管理にも関係が深く、人員数の積み上げも予算管理抜きには計画人数を算定することはできません。
最適人数の計算には、法的な人員配置基準や、現場の状況を加味する必要がありますが、人件費という経費を基準に考えると以下の計算式が成り立ちます。
適正要員数=適正人件費(医業収益×適正人件費比率)÷1人当たり平均人件費
この数式はマクロの算出方法なので、各現場の業務内容や仕事量から積み上げた数値も勘案する必要があるので、注意してください。
また厚生労働省の調査報告である「病院報告」や全国公私病院連盟の調査報告などから部署別の平均配置人数が確認できます。
現場の状況が異なるので一概に比較して多い、少ないという判断は早計ですが、あまりにも調査数値と自院の配置人数が異なる場合は、その原因は追究しておいた方が良いです。

雇用形態が多様化していることは前述したとおりですが、採用方法も多様化しています。
通常は新規学卒者(新卒)採用を基本としますが、医療機関においては中途採用も一般化しています。
医療機関にとって優秀な医師の採用、確保は最も重要な課題のひとつです。医療機関は大学医局から、インターネットの活用、紹介予定派遣の活用などさまざまな手段を駆使し医師の確保を図ろうとしています。
特に地方部の医療機関は、医師自身がそのような勤務場所への勤務意欲が低いですから、給与を高くして勤務してもらうなど苦戦している医療機関が多いです。

医師の次に重要な職種と言えば、看護師でしょう。医療機関のなかで最も人数が多い職種です。
入院施設においては、看護師の人数によって収入額が異なります(看護基準)ので、看護師の採用の成功、不成功は収入額にも影響を及ぼします。
筆者の会社では看護師の満足度調査を実施しています。ある医療機関ではこの看護師満足度調査の結果を利用して看護師の働きやすい職場や人間関係を構築して離職率の低下に成功しました。人間関係の構築、良いコミュニケーションの構築については、弊社からメディカルコーチングを派遣し、看護部の役職者に対して、コーチングの指導を毎月、数回継続的に実施しています。
看護部は人数の多い職種でもありますから、上司・部下との関係に悩み、せっかくの良い人材が流出してしまうのはもったいないですから、このような取組を実施しているわけです。

皆さんは、どう思いますか?

次回は、人員を活用するための評価(人事考課)、目標管理などを中心にお話ししようと思います。

次回は6月11日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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