第93回 医療機関の経営指標について

医療機関の経営指標は幾つかの指標をバランスよくチェックすることが大事です。経営指標は外部環境に大きく左右されますので、法改正や診療報酬改定等の変化にも気を付けなければなりません。医療機関の職員一人一人が指標の意味をしっかり理解して行動してもらうことが、経営指標数値の改善には最も重要です。

医療機関の経営指標について

どのような業態の企業においても、経営の目安にする数値があります。売上高、出庫個数、生産個数などのことです。このような数値を「経営指標数値」といいます。業界によってその経営指標数値は異なりますが、いずれも自動車のナビ、船舶の羅針盤、飛行機のコクピット内の計器類の数値のように、安全に迅速に目的地にたどり着けるように指し示す「道しるべ」となる数値です。自動車のナビや船舶の羅針盤、飛行機のコクピット内の計器のような数値が、経営においては経営指標数値です。もちろん、病院の経営においても経営指標数値があります。区分の仕方は幾つかありますが、代表的な経営指標数値をご紹介すると、お金の数値となる会計指標とお金の数値ではない非会計指標に分けることができます。

会計指標には、医業収益や医業費用が該当し、非会計指標は、患者数や平均在院日数などが該当します。また、機能性、収益性、安全性の三つに区分することもできます。機能性を示す指標としては、平均在院日数、紹介率、日当点等です。収益性を表す指標は、病床利用率、経常収益率、固定比率、医業収益比率、医業経費比率などが挙げられます。安全性については、自己資本比率や借入金比率が該当します。それぞれ表している意味が違いますので、どのような事柄を知りたいのかといった、目的に合わせた指標が存在することになります。

種類の多い経営指標数値ですが、医療機関においての代表的な指標をご紹介します。

平均在院日数

まずは、「平均在院日数」です。
計算式は、

直近3カ月の在院患者延べ日数 /{(直近3カ月の新入院患者数 + 直近3カ月の新退院患者数)/2 }

この計算式で求められた数値が短縮すると、1カ月間に入院できる延べ患者数が多くなりますので、入院収益が増えるということになります。しかし、この入院期間の長短は診療科の特性や患者の重症度に左右されますので、簡単に在院日数を短縮することは困難です。

多くの医療機関が平均在院日数を短縮するために、クリニカル・パスを利用して効率の良い入院医療(在院日数を短くする)の安全性を担保しながら取り組んでいます。さらに新規技術の導入や医療機器の更新なども平均在院日数の短縮に寄与するケースもあります。以前は日帰り手術の件数を増やすことで、平均在院日数を短縮、コントロールすることができましたが、診療報酬の改定により、多くの日帰り手術が平均在院日数の計算式から除外されてしまったので、現在は日帰り手術を多く実施したとしても、平均在院日数が短縮することはなくなりました。

このほかに平均在院日数を短縮するためには、重症度の低い患者を増やせば、平均在院日数は短くなります。しかし、重症度の低い患者の単価は低いので、薄利多売方式で行くかどうかの経営判断が必要になります。さらに仮に重症度の低い患者を多く集めて平均在院日数を短縮しようと判断したら、退院した患者が多くなるということですので、その退院した後に入ってくる新たな入院患者がいなくては、収益の増加につながりません。単に早く患者を退院させて、でも新入院患者が入ってこなかったら、空床率は高くなり、減収してしまう可能性すらあります。

平均在院日数の短縮の取り組みは、単独で行うのではなく、新入院患者の確保と同時に進めなければなりません。

病床利用率

次に「病床利用率」です。入院できる病床は限られていますので、効率よく病床が使われているかどうかを表す指標数値です。
計算式は、

(延べ在院患者数<24時時点の入院患者数>/許可病床数)×100

です。
求められた数値は、「100」に近ければ、近いほど空床病室が少ない状況を表します。

病床稼働率

似たような指標に「病床稼働率」という指標があります。この病床稼働率は、運用病床数に対し患者がどのくらいの割合で、入院されていたのかを示す指標です。求められた数値が高ければ高いほどベッドが効率的に運用されていたことを表します。
計算式は、

(その日の終わり<24時>に入院している患者数+その日に退院した患者)/病床数)×100

です。
病床利用率の計算式に比べ、退院患者数を含んで計算しますので、100%を超えるケースも出てきます。例として、午前中に患者が退院し、その同じベッドに午後別の患者が入院したといった事例が多ければ、この病床稼働率を上げるためには、患者を退院させないで常に満床の状況にしておけば、高い数値になります。しかし、このようなことを実際に実行すると、前述した平均在院日数が長くなり、入院基本料やDPCの係数に影響が出て、結局収益はダウンしてしまうことになります。従って、病床稼働率よりも「病床利用率」を指標として重視した方がよいと考えます。

病床利用率向上のポイント

病床利用率を向上させるポイントは、新入院患者(入院待機患者)を確保すること。患者が退院して次の入院患者が同じベッドに入ってくるまでの時間をなるべく短くすること。そのためには、いつどの病棟の誰が退院するのかといった情報が院内に共有されていることが重要です。また新規入院患者の確保と言いましたが、新規入院患者の中でも、他院からの紹介患者を増やす努力が必要です。入院患者の種類は、この紹介患者、自院患者、救急患者の3種類です。中でも、紹介患者は紹介元の医療機関で、診断が下されていることが多く、後は手術や処置をするだけといった状況で入院してきますので、患者単位の利益率は最も高い患者となります。紹介患者を多くするためには、地域医療連携室の営業を強化することが重要です。

まとめ

医療機関の経営指標をご紹介しましたが、指標がたくさんあることがご理解いただけたと思います。その指標全てを見ていては、どこに進めばよいか迷います。かといって、一つの指標しか見ていなければ、危険です。幾つかの指標をバランスよくチェックすることが大事です。経営指標は外部環境に大きく左右されますので、法改正や診療報酬改定等の変化にも気を付けなければなりません。最後に経営指標数値の改善は、「人」が行うものです。医療機関の職員一人一人が指標の意味をしっかり理解して行動してもらうことが経営指標数値の改善には最も重要です。

皆さんは、どう思いますか?

次回は10月9日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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