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第163回 医療DXと医療AI その4~クラウド型電子カルテ~
前回のコラムでは医療クラウドやお薬手帳のお話をしました。今回のコラムでは、医療DXの鍵を握る電子カルテと電子処方箋の現状と課題について考察します。
医療DXと医療AI その4~クラウド型電子カルテ~
前回のコラムでは医療クラウドやお薬手帳のお話をしました。今回のコラムでは、医療DXの鍵を握る電子カルテと電子処方箋の現状と課題について考察します。
「地域連携ネットワーク」が示す方向性
医療機関内では、多職種間で患者などの情報共有や連携が中心となります。その中心となるのが「電子カルテ」です。情報共有や連携以外にも、2016年度診療報酬改定では電子署名の解禁、電子的な送受信に診療情報提供料の算定が可能になりました(それまでは直接送付かFAXしか算定の対象ではありませんでした)。
また、診療情報提供書(いわゆる紹介状)に添付する検査データや、画像データを地域連携ネットワークで電子的にやり取りする行為を評価する診療点数が新設されました。厚生労働省は診療報酬点数で、医療業界を進んでほしい方向に政策的に利益誘導しますので、「地域連携ネットワーク」はその意図がある政策と思われます。
さらに情報共有、連携は医療内にとどまらず、介護との情報共有や連携もその範囲と想定されています(注1)。
- (注1)在宅医療・介護連携推進事業に係るプラットフォーム
電子カルテが抱える普及率の課題
厚生労働省によると、2023年の電子カルテ普及率は65.6%です。病床数が大きい医療機関ほど電子カルテの導入率は高くなっています。
電子カルテの導入時の費用負担が、普及率が上がってこない理由の一つだと考えられています。さらに診療所での普及率が55.0%と低いのは費用の問題に加え、ITリテラシーの低さもあります。ただし、新規開業の診療所(比較的年齢の若い医師)では、開業時に電子カルテの導入はほぼ必須事項です。新規開業時の電子カルテは、費用の問題などもあり、(価格の安さから)クラウド電子カルテが選択されるケースが多くなってきています。前述のように医療と介護の連携など自院以外の医療機関や薬局、介護施設と情報共有や連携、情報閲覧などをすることを想定した場合、クラウド型の電子カルテは最適なシステムチョイスとなります。そして、この姿こそが医療DXの入り口です。
医療業界のDXはどんどん進んでいる
医療業界にDXなどの導入、活用を推進していくためには、費用の問題と世代間のITリテラシーの高低のばらつきを解決する必要があります。この問題が解決されなければDXのスタートラインにさえ立てないということになります。
医療のデジタル化は、電子カルテの普及率が高くなるのを待っているわけではなく、どんどん進んでいきます。DXの波に乗り遅れることは経営的な危険性も含まれていると認識した方が良いでしょう。さて医療のデジタル化ですが、コロナ禍をきっかけに見直されたオンライン診療、オンライン服薬指導、そしてマイナンバーの導入をきっかけにオンライン資格確認が進められています。
電子処方箋については、2016年にはガイドラインが第2版に改定されています。2019年に厚生労働省の委託により東京で医師会、薬剤師会の協力のもと、医療機関と薬局とが連携して実証実験が行われました。2021年に電子処方箋のシステム開発が行われ、当初2023年度の実施予定としていましたが、1年前倒しし、2022年度から実施となりました。この前倒し実施は、極めて異例な処置で、それだけ厚生労働省はDXに力を入れていると推測できます。
これほど厚生労働省が力を入れている分野ですが、現場ではまだほとんど普及していません(厚生労働省資料によると、医療機関への普及率は約1割)。その原因の一つが電子処方箋への署名に使う資格証カード(HPKIカード)を持つ医師、薬剤師が少ないことです(医師11.4%、薬剤師7.5% 2022年12月末時点)。少ない理由は、医師の場合で5年ごとに5,500円かかる発行費用やカードリーダーの購入費用、ソフトウェアのインストールなどの手間が背景にあるようです。
また、医師と薬剤師の本人確認の手段に関する政府の方針も曖昧です。厚生労働省はHPKIカード以外にマイナンバーカードも認めていますが、現時点で対応できるシステムがないなど、普及に向けた環境がまだ整備されていないことが原因と考えられます。これらの問題は根本的な阻害原因ではなく、解決策もあります。厚生労働省の考え方一つで、一気に普及することも考えられます。医療機関や調剤薬局は、その時になって慌てないように今から導入準備、普段の情報収集が肝要です。
皆さんはどう思いますか?
次回は8月13日(水)更新予定です。
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