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第124回 どうなるこれからの「公立病院」
公立病院の医師不足などの要因により赤字経営になる病院が続出し、改善の兆しも見えなかったことから、総務省が赤字解消を目的に「公立病院改革ガイドライン」を策定しました。経営形態の見直しを迫られる公立病院のこれからの役割について考察します。
どうなるこれからの「公立病院」
公立病院の赤字経営から立て直し改革
公立病院とは、都道府県や市町村などの自治体が運営する医療機関を指します。公立病院は地域の医療需要や公立病院でなければ担えない医療(例えば採算の悪い医療や特殊性が高い医療など)を提供します。一方で公的病院とは、医療法第31条で規定されていますが、公的な母体が開設している医療機関(例えば、日本赤十字、社会福祉法人恩賜財団済生会など)を指します。似ていますが異なる病院です。
その「公立病院」ですが、医師不足などの要因により赤字経営になる病院が続出し、改善の兆しも見えなかったことから、総務省が赤字解消を目的に平成19(2007)年度に「公立病院改革ガイドライン」(平成26〔2014〕年度に見直し)を策定。ガイドラインに沿った改革を実施中です。具体的なガイドラインの内容は、再編とネットワーク化、経営の効率化、民間医療機関への移譲も含む経営形態の見直しです。
この結果、令和2(2020)年度時点で943病院あった公立病院が853病院に集約され(これが再編です)、94病院が独法化に変更し、79病院が指定管理に移行しました。全部適用の382病院を含め、555病院が経営の効率化を図ったことになります。
このような状況の中で、さらに「働き方改革」への取り組みの強化、新型コロナウイルス感染症への対応が求められました。
そこで、「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」が公表され、2022年度・23年度中に「経営強化プラン」(改革プラン)を策定することが求められています。この強化プランは、既に再編などを実施した医療機関にも策定が求められます(全ての公立病院に過不足がないか再点検を求めた形です)。
経営強化プランの内容
- * 解説の部分は筆者加筆
(1)役割・機能の最適化
- 地域医療構想などを踏まえた当該病院の果たすべき役割・機能
- 地域包括ケアシステムの構築に向けて果たすべき役割
- 機能分化・連携強化
- 新興感染症の感染拡大時の対応に資する平時からの機能整備
- 医療機能等指標に係る数値目標の設定
- 一般会計負担の考え方
- 住民の理解
【解説】
地域医療構想の求める姿に民間病院を当てはめるのは労力が大きいため、指示しやすい公立病院から果たすべき役割などを明確にします。さらに今回のコロナウイルス感染症に対する初動や対応が思うようにいかなかった反省から、まずは公立病院にその体制、機能整備をしようというものです。
(2)組織・体制・マネジメントの強化
- 最適な経営形態の選択
- 医師・看護師などの確保
- 医師の働き方改革への対応
- 事務局体制の強化
【解説】
公立病院という枠にはこだわらず、現在も進められている独法化、指定管理、全部適用などを今後も進めていき、民間病院への譲渡(場合によっては介護施設への転換)も行っていくということ。医療従事者の確保は柔軟に行うということです。
(3)施設・設備の最適化
- 施設・設備の計画的かつ適正な更新
- 新興感染症対策のための施設・設備の改修・整備
- デジタル化への対応
- 不要な施設・設備の他用途への転用など
【解説】
施設、設備を更新とありますが、その財源が乏しいため実行されるかは不安視されます。
(4)経営の効率化
- 経営指標に係る数値目標の設定
- 経常収支比率および医業収支比率に係る目標設定の考え方
- 目標達成に向けた具体的な取組
【解説】
数値目標が掲げられることに本気度をうかがうことはできますが、実際に達成できるかどうかは疑問です。
公立病院の担うべき役割とは
わが国は、その歴史的な背景から民間病院が約8割の国です。そのような中での「公立病院」の役割は間違いなくあるものの、現在その役割は、別に公立病院でなくてもよいような感覚になってしまっています。むしろいいように利用されている印象さえあります。今回の経営強化プラン策定にあたって、もう一度公立病院の担うべき役割は何なのかを見つめ直してほしいです。
皆さんは、どう思いますか?
次回は5月11日(水)更新予定です。
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