第68回 患者の感情は、足し算、引き算

患者満足度のことを考える前に、なぜ患者は怒るのか。何が不満なのか。患者が満足するということとはどういう状況、状態なのかを考えてみる必要があります。

患者の感情は、足し算、引き算

患者の満足度を高める取り組みや努力は、いまやどの病院でも行われています。分かりやすい案内図、親切な説明、快適なアメニティなどの取り組みです。しかし、いくらさまざまな工夫をしても、患者投書箱には、いつもクレーム、お叱りの手紙が入っていませんか。

患者満足度のことを考える前に、なぜ患者は怒るのか。何が不満なのか。患者が満足するということとはどういう状況、状態なのかを考えてみる必要があります。

まず初めに「患者」の状況、状態の確認ですが、病院に来る目的は、診療、治療です。患者は診療や治療が必要な状況にあるということです。すなわち、「痛い」「苦しい」「気持ち悪い」といったような心身ともに弱った状態で病院にやってきます。

心理学にフラッシュバブル(閃光)記憶というものがあります。なにかトラウマ的な出来事が起こったとき、脳は感情的なものが深く根ざしたいわゆる“写真”をパッとフラッシュをたくようにして撮る。ということです。そして、こうした鮮明な記憶が問題なのは、記憶に結びついている強い感情が、傷ついたとことや嫌な経験が記憶に残りやすいと言われています。そして、その感情は蓄積していくのです。「蓄積」とは、文字どおり足し算ということです。「嫌だな」という負の感情が溜まり、どこかの時点でクレームという形で爆発するのです。大概は一カ所や一人の対応によってクレームになるのではなく、そこまでに嫌な思いを少しずつ受けて、その感情が蓄積していき爆発する経緯を辿っているはずです。さらにその嫌な思いは、「人」によってもたらされます。人との接触、人との会話などです。この場合、「人」とは病院の職員ということです。

一般的な外来患者の流れを見てみましょう。最初に病院に入ってくる。いいえ。病院の駐車場に車を駐車するところから、始まります。

1. 車を病院の駐車場に停めて、病院にやってきます。

それぞれの場面を確認しましょう。初めは病院の駐車場に車を停めるところですが、診療時間開始前の時間帯は、混んでいませんか。駐車場に誘導員を配置している病院もあるでしょう。とても良いことだと思います。実際にある病院の患者投書箱に「駐車場の誘導員が気持ちよく挨拶してくれた」とか、「車の誘導がスムーズだった」という投書をいただいているのを見たことがあります。病院に入る前に既に病院に対して感じるものがあるということです。

2. 病院に初めてやって来た患者であれば、どのように診察の申し込みをすれば良いか戸惑うこともあります。

診察の受付ですが、特に初めて来院された患者は何がどこにあって、何をどうすれば良いか戸惑うこともあると思います。受付の方法などを掲示してあっても、相手は、心身とも弱っている患者です。少しお手伝いをする人を配置する。困っていそうな方に声掛けするということは良い方法ではないでしょうか。まだ数は少ないですが、メディカルコンシェルジュを配置する病院も現れはじめました。

3. 受付が終わり、診察室前の待ち合室で多くの他の患者と一緒に待っています。

診察までは、待合室に待つことになりますが、この待ち時間の長さ*がクレームや患者満足度の低下に繋がるのは明白です。多くの病院で少しでも待ち時間を短縮する取組みをされていますが、その取り組みにも限度があります。

*厚生労働省調査による患者の待ち時間強要時間:30分

診察までの待ち時間が、外来患者にとって最もつらい時間帯です。自分が何番で、あと何人後の順番であるとか、おおよそ何分で自分の番が回ってくるかなど予め待ち時間が示されていれば、辛抱強く待っていることもできるでしょう。

4. 名前が呼ばれ、診察室に入り、ようやく診察です。

長い時間を待たされて、ようやく診察の番になった時に、たとえば医師の態度が横柄な態度だったら、患者の負の感情は最高潮に達してしまいます。患者への影響は、医師の言動が最も影響を及ぼします。
ある大学病院では、外待合、中待合と患者が待つ場所が分かれているのですが、中待合から患者を診察室に呼び込むときに、医師が診察室の扉を開けて、医師自らが患者を診察室に誘導しています。これは、かなり評判が良いです。

5. 血液検査をすることになり、検査室に移動して採血です。

採血での問題は、採血までの待ち時間よりも、採血行為そのものです。針を何度も刺された。採血後の腕が内出血したなどです。確かに採血しづらい患者がいるのも事実ですが、採血しづらい患者には翼状針を使用するなど検討してもよいのではないでしょうか。採血は繰り返しの経験によって、上手になりますので、採血者は採血専門の方に固定するなども一案だと思います。

6. 次にレントゲン写真も撮ることになったので、画像撮影します。

レントゲン撮影は、衣服を脱いで行います。初めての患者は、どこで、衣服を脱ぎ、どこに荷物を置けばよいのか分からない場合もありますし、技士が異性だった場合、躊躇や戸惑うこともあるかもしれません。このようなことを想定して、着脱場所の案内掲示に工夫をしましょう。また、特にマンモグラフィー撮影の場合は、女性技師による撮影だと、多くの女性患者は安心するようです。シフト組みが難しいそうですが、「女医による診察、女性技師によるマンモグラフィー撮影」などとアピールしている病院もあります。

7. 次回の診察の予約を取って、会計です。

次回の診察の予約をとって、会計、支払いとなりますが、ここまでのあいだ受付をしてもらい、診察をしてもらい、採血してもらい、レントゲン写真を撮ってもらい、患者は全て何々してもらっています。患者は立場が弱いのです。だから患者は不平不満があっても、じっと我慢している訳です。でも心の中では、受付方法が分かりにくく、事務員に聞いても忙しそうに応えるし、診察までの待ち時間は長く、医師は横柄な態度だし、採血は、何度も失敗し何回も腕に針を刺すなどなど個々の場所では、少しずつの負の感情が、リレー式に全て足し算されていきます。その不満の感情は、会計の場所で、一気に爆発します。ときには支払拒否などにも繋がります。会計では、患者が唯一、何々してもらう部署ではなく、患者がお金を支払う。すなわち病院が患者に支払ってもらうということですので、立場が逆転する場所なのです。会計窓口での患者対応は、こまやかな観察と対応が求められます。

今までは負の感情の足し算の話をしてきましたが、実は負の感情を収めてくれる感情の引き算もあります。感情のリレーを行っている時に、どこかの部署の誰かが非常に対応が素晴らしかったとすると、今まで蓄積していた負の感情が引き算されることもあります。特に医師の対応に患者が非常に満足した場合、引き算どころか、正の感情が突出することにもなります。そのような患者は院外で病院のことを褒めてくれるようなことさえあります。

患者の満足度は、病院職員一人一人の努力で、高めることができます。さらに不満を持った患者も、さまざまな職員(医師でなくても、一人でも)が真摯に対応することで、負の感情の連鎖を断ち切り、患者の不満を和らげることができます。特に医師の対応に患者が満足している場合は、その効果が大きいです。

皆さんは、どう思いますか?

次回は8月9日(水)更新予定です。

関連するページ・著者紹介

この記事のテーマと関連するページ

中小規模病院向け医療ソリューション 電子カルテシステムER

電子カルテシステムERは、カルテ入力やオーダリングの機能をはじめ、部門業務を支援する豊富な機能を搭載。医療施設の運用に合わせ部門システムや介護福祉システムとの連携も柔軟に対応でき、業務の効率化と情報共有を支援します。

ワイズマン介護・医療シリーズ 医療・介護連携サービス MeLL+(メルタス)

医療・介護連携サービス「MeLL+」は、地域包括ケアや法人内連携など、医療と介護のシームレスな連携を実現する医療・介護連携サービスです。医療関係の情報と介護関係の情報をクラウドのデータベースに蓄積し、それぞれの施設から「必要な情報を必要な時に」どこからでも共有・閲覧することができます。

この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

お問い合わせ・ご依頼はこちら

詳細についてはこちらからお問い合わせください。

お電話でのお問い合わせ

03-6743-1672

受付時間
9:00~17:30(土日祝日および当社休業日を除く)
総合受付窓口
インサイドビジネスセンター

卸販売について

ページID:00133969