第74回 2018年度診療報酬改定 入院編

いよいよ、2018年度の診療報酬改定の内容が徐々に明らかになってきました。そこで、今回から数回に分けて、診療報酬改定の内容を解説していきたいと考えています。第一回としては、病院の収益では過半数を占める「入院」について解説します。

2018年度診療報酬改定 入院編

いよいよ、2018年度の診療報酬改定の内容が徐々に明らかになってきました。そこで、今回から数回に分けて、診療報酬改定の内容を解説していきたいと考えています。
第一回としては、病院の収益では過半数を占める「入院」について解説します。

近年の診療報酬改定では、厚生労働省は「現状はこうです。」「ここが課題です。」「だから、診療報酬改定で、こうします。」というファシリテートをしてきます。数値も含めて根拠を示しながら、外堀を埋めていく方法です。従って、最初の「現状はこうです。」という厚生労働省が問題視している部分をきちんと押さえておくことが重要です。たとえ今回の診療報酬改定で点数の変更などが無かったとしても、それは改定率に対する財源の問題などの理由で見送っただけであることが多いからです。今回の改定では見送られても、次々回の改定で変更される可能性が高いということになりますので、それまでの間に何らかの対応策を実行しておくことなどに繋がる情報となります。

厚生労働省の認識(入院)

入院患者数

  • 入院患者数は減少傾向にある。一方外来患者数は横ばいからやや増加傾向である。

受療率

  • 入院、外来共に受療率については全体として低下傾向であり、特に65歳以上で顕著である。

患者の年齢構成

  • 入院、外来共に、年齢構成については65歳以上の占める割合が増加傾向にある。

入院患者の傷病分類

  • 入院患者を傷病分類別にみると、多い順に「精神および行動の障害」、「循環器系の疾患」、「新生物」となっている。

入院医療費

  • 入院および入院外の医療費は、共に増加傾向である。
  • 入院1日当たりの医療費は増加傾向である。

ここまでの現状認識を整理すると、「入院患者数は減少しているが、医療費は増加している。特に65歳以上の高齢者患者が増加していることが要因」となります。
この現状認識から、入院患者が減少していることは、医療費削減の観点からも、歓迎すべき傾向だと考えていると思われます。しかし「高齢者人口がまだ増加していることに比例して高齢者の入院患者が増加し、高齢者の身体的な特徴から併存症や合併症、重症化などの状況に陥っていると推測され、患者1人当たりの医療費が増加しているのであろう。このような現状であるならば、どのようにすれば、さらに医療費は削減できるのか。」ということを厚生労働省は考えます。
さらに現状認識、現状分析は続きがあります。次に分析したのは、一般病棟入院基本料別の状況を調査しています。そもそも、現行の一般病棟入院基本料は、主に看護職員配置や医師配置等をベースに入院医療に掛かる基本的な療養に対する費用として、段階的に点数が設定されています。また、平均在院日数、重症度、医療・看護必要度、在宅復帰率などが施設基準の届出要件に含まれています。加えて、看護補助者等を追加的に配置している場合などには、加算も設定されています。

一般病棟入院基本料別

  • 平均在院日数は、7対1が最も短く、次いで、10対1、13対1、15対1となっている。
  • 病床稼働率は、7対1が最も高いが、近年、7対1、10対1、15対1は、低下傾向。
  • 届出病床数は、7対1が最も多く、次いで、10対1、15対1、13対1となっている。
  • 算定回数は、7対1と10対1をみると、近年、減少傾向。

病棟の看護職員配置人数

  • いずれの届出区分でも必要な配置数(推計)よりも実際には多くの看護職員を配置している。

入院継続の理由

  • 医学的な理由が最も多い。
  • 退院へ向けた目標・課題をみると、「疾病の治癒・軽快」は7対1が最も多く、13対1や15対1では、「低下した機能の回復」や「在宅医療・介護等の調整」「入所先の施設の確保」等の割合が、7対1や10対1に比べて多い。

7対1と10対1の医療機関の比較

  • 平均在院日数及び病床利用率をみると、いずれも医療機関間のばらつきが大きく、10対1届出医療機関の中にも7対1届出医療機関相当のデータを示す医療機関が存在する。
  • 重症度、医療・看護必要度の該当患者割合と平均在院日数とを比較すると、10対1より7対1の方が該当患者割合が高い傾向があるが、平均在院日数の分布はばらついている。
  • 重症度、医療・看護必要度の該当患者割合と看護職員実配置数あたり病床数をみると、10対1でも7対1相当の医療機関がある。
  • DPC対象病院のうち、7対1と10対1の届出医療機関別で、1日あたり包括範囲出来高点数の平均や、効率性指数、複雑性指数をみると、重複する範囲が広いが、効率性指数は7対1の方がやや高い傾向。

ここまでの調査内容に対しての(診療報酬改定における)対応策としては、

  • 将来の入院医療ニーズの変化に対応する病棟への弾力的で円滑な選択・変更を推進するため、7対1一般病棟と10対1一般病棟の現行の評価を参考にしつつ、急性期の入院医療の評価体系について、基本部分と実績に応じた段階的な評価部分との組み合わせによる評価体系を導入する。
  • なお、実績に応じた評価の最も高い部分には、現行の7対1一般病棟との整合性に配慮し、7対1看護職員の配置基準をそのまま適用する。
  • また、現行の7対1一般病棟と10対1一般病棟との間に中間的な水準の評価を設けることも検討する。

一般病棟入院基本料(7対1、10対1)の評価体系(案)

出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第373回)議事次第
○入院医療(その7)について 総-3 P.65(PDF:6,249KB)
矢印、青横線は著者が加筆

現在の看護師の人数による診療報酬の高低の差を一定割合は残すとしても、診療実績に応じた評価(診療報酬点数)と区分することは、非常に大きな経営的なインパクトを与えることになります。例えば、比較的軽症な患者が多い病棟であるが、看護師の人数は7対1看護基準に準拠している施設は、今後収益が減少するということを示しています。7対1や10対1に求められている診療実績とは、急性期の疾患の診療実績であり、重篤な患者を治癒させるということを求めているからです。
さらに現状の図の左側の7対1一般病棟の上辺から、青線を加筆しましたが、図の右側の3つの棒グラフの一番右の上辺と同じ高さです。ここがポイントです。診療実績が加わった評価体系になっても、7対1の現状の評価(診療点数)と同じであり、収益が増えることを意味していないということです。むしろ、現状の7対1の評価の下に、2段階の評価体系となり、図の左側の10対1上辺から図の右側へ辺を延長すると、棒グラフの上辺にわずかですが届いていないことが確認できます。これは、10対1入院基本料は現状の点数よりも低い点数にする予定であるということです。

入院基本料は、病院の経営にとって、非常に大きな部分を占める収益です。診療報酬改定までの期間に、現状の入院患者の状況(疾病分類や在院日数、在宅復帰率など)を調査し、今後どのような(疾患の)患者を積極的に入院させるべきなのか、またその方法はどのような手法があるのかなど話し合い、今後の経営の方向性を確認しておく必要があります。

皆さんは、どう思いますか?

参考
厚生労働省 中央社会保険医療協議会 (中央社会保険医療協議会総会)

次回は2月14日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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