第70回 診療報酬改定の準備

2018年は、6年に一度の診療報酬と介護報酬の同時改定(W改定)の年になります。実際にどのような準備をどこまですれば良いのでしょうか?今回は、「改定への対応準備」についてお話ししたいと思います。

診療報酬改定の準備

来年は、2年に一度の診療報酬改定の年です。また3年に一度の介護報酬改定も同じタイミングで実施されますので、6年に一度の医療と介護の同時改定(W改定)の年になるわけです。
医療機関等において診療点数が変わるということは、すなわち、医療の値段が変わることになり、収益が変わるということを意味しています。2018年4月に全国一斉に変更するわけですから、何の準備もしないで、2018年4月を迎えることは考えられません。しかし、実際にどのような準備をどこまですれば良いのでしょうか?
今回は、「改定への対応準備」についてお話ししたいと思います。

準備の中心部署は、医事課になります。この医事課がまずは、改定の内容や特徴を理解することから、準備は始まります。診療報酬改定の内容が明らかになるのは、通常ですと、1月下旬から2月上旬です。この時期に中央社会保険医療協議会(以下 中医協)の諮問、答申が行われ、いわゆる「白本」と呼ばれる改定内容が明らかになります。以前は厚生労働省でこの白本を入手するために、始発電車に乗って何時間も並びましたが、今では諮問、答申後数分で、厚生労働省のホームページにアップされます。時代は変わりました。
医事課は、この白本を読み解くわけですが、改定内容は、単純に「○点が▲点に変更になった」という変更ばかりではありません。算定する(できる)ルールが変更になったり、新しい点数が出てきたり、点数が削除されたりしています。しかもその文章は、非常に堅苦しい文章で書かれていますので、記載内容を理解するのに時間を要しますし、読むこと自体、「慣れ」も必要です。ここで重要なのは、書かれていない内容を読み解く力、「行間を読む」力です。改定の特徴や、なぜこの点数はこのように変更になったのか(厚生労働省の意図)を推測、理解しておくことが大事になります。この行間を読む能力は、改定の諮問、答申までの中医協の議論(今、まさに現在進行中の中医協の議論)をウォッチしていれば養われます。

白本の内容を理解したら、次に収支シミュレーションに移ります。シミュレーションの最初の段階は、単純な新旧点数の置き換えによる影響額の計算です。通常の改定時の診療点数は、下がる点数もあれば上がる点数もありますので、自院の実績件数を乗じてどの程度の影響額になるのかを計算します。次に算定に必要な条件変更がありますので、現状のままで、今まで算定できていた点数が算定できなくなるのか、算定ができなくなるのであれば、その影響額はいくらなのか、を計算します。そして、新設点数ですが、現在の状況のままで新しい点数が算定できる点数があれば、増額金額はいくらになるのかも計算します。ここまでの作業の集計結果が、今までと同じ体制での「診療報酬改定の影響額」となります。
次の作業は何かしらの変更(投資なども含む)をすれば、診療点数が算定できるものを選定し、シミュレーションします。例えば新たに看護師を○名採用すれば、新しい○○という点数を算定することができ、○○円増収する。同時に新たに看護師を○名採用するので、人件費は○円増える。その収支結果は○円の増収(減収)となる。ということです。このシミュレーションの結果、減収になるのであれば、もちろん変更はしませんが、増収になった場合、費用対効果だったり、自院の機能との関係だったり、総合的に判断して算定しにいくのか否かを判断することになります。

新旧点数のシミュレーション結果、何かしらの変更を伴うシミュレーション結果が完成したら、その分析結果を院長など関係者にブリーフィングします。「何が何点になりました。どうしましょう。」というブリーフィングは決してしてはいけないブリーフィングです。最終的な決定者は院長ですが、決定者が最善の決定ができるように説明することが、真のブリーフィングです。改定の趣旨、意図を踏まえ、自院の理念やビジョンと照らし合わせることも場合によっては必要になるかもしれません。よくあるパターンとしては、収益を増やしたいがために、新しい点数に飛びついて、理念やビジョンとほど遠い医療を実施する方向に向かってしまうことがあります。判断に迷ったら、理念、ビジョンに立ち戻ることも重要です。
さらに、医事課としての意見を申し添えることもぜひ実施してください。院内での地位向上のためにも、絶好のアピール機会です。

収支シミュレーションが終わり、経営者への説明が終わり、経営者の決定も仰いだら、次は、院内への周知です。改定内容によっては、各部署の業務内容などを変更することもお願いしなければなりません。改定内容を分かりやすく説明し、その内容の各部署への考えられる影響などを行います。職員全体に対して説明会を実施し、その後、ケースによっては個別部署への説明、相談に伺うこともあります。説明講師としては、医事課職員が実施することが理想ですが、改定内容全般をさまざまな職種の職員が納得できるレベルで説明することはハードルも高く、外部講師を活用することを検討されても良いと思います。人気の講師は、この時期のスケジュールを押さえることが非常に難しいですので、外部講師に依頼する場合は、早めにアクションを起こすことをお勧めします。

改定の説明内容ですが、自院に関係することだけを説明すれば(受ければ)良いのでしょうか。答えは「否」です。病院だから、診療所に関係する点数については、別に知らなくても良い、関係ない、と言っていけません。現在の病院は、多くの診療所から、患者を紹介していただいています。場合によっては、その紹介患者の増減にも影響がある改定内容があるかもしれません。さまざまなことが想定されますので、一見自院に関係なさそうな内容も理解し、職員に説明することが必要です。特に今回は、医療と介護の同時改定ですので、医療機関であっても、介護報酬の改定内容も理解、把握しておくことをお勧めします。

ここまで、終わればあとは作業です。レセコンのマスター変更、変更内容の確認を実施し、新しく算定する点数に必要な変更手続き(施設基準の変更など)を行います。特にこの変更手続きは、改定が行われる4月のレセプトを作成するにあたり、何日までに変更手続きを終わらせていないといけないという、期限が決められています。この期限を守れないと4月のレセプトでは該当する点数を算定できないことになります。本来請求できる収益が、まるまる4月1か月分算定できないことになりますので、十分に注意してください。期限は絶対厳守です。変更手続きも期限ぎりぎりだと、書類の不備などで、間に合わなくなるということもありますので、余裕を持って手続きを行ってください。

「備えあれば憂いなし」
改定の準備をきちんとしておけば、余裕を持って改定を迎えることができます。どのような改定内容になるのか不安だと思いますが、今できることを過不足なく実行しましょう。

皆さんは、どう思いますか?

次回は10月11日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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