第121回 ターミナルケア(終末期医療)「自分のことは、自分で決める」

昨今、国は国民の健康寿命を延ばすような取り組みを始めています。健康寿命自体を延ばす取り組みではありませんが関連事項の一つに、Advance Care Planning(アドバンス・ケア・プランニング:ACP)があります。今回はこのACPについてご紹介します。

ターミナルケア(終末期医療)「自分のことは、自分で決める」

突然ですが、皆さんは今、おいくつですか? あと何年生きたいですか? 私は来年で60歳になります。世間ではこれを「還暦」というらしいですが、感慨深いものは、あまり感じていません。通過点と考えています。しかし、最近身近な人や古くからの知り合いの訃報を聞く機会が多い気がします。しかも自分よりも年齢が下の方の訃報などに接すると、何ともいえない胸が締め付けられるような思いになります。1年程前に後輩が、脳内出血を起こし、昏睡(こんすい)状態になりました。しかも病院内で、です。当然そのまま緊急的処置がなされましたが、いまだに意識は戻らず、植物状態です。みな、奇跡を願っています。このような出来事が身近に起きることも、確実に年をとっていることを感じさせられる一つです。

平均寿命と健康寿命との差

簡易生命表(厚生労働省)によると、2020年(令和2年)の日本の男性の平均寿命は、81.64歳、女性は、87.74歳です。さらに健康寿命(注)となると、男性で約8歳、女性で約12歳の平均寿命との差があります。この意味を言い換えると男性で約8年間、女性で約12年間、健康でない状態が続き、その後人間は亡くなるということです。そこで、国は平均寿命と健康寿命の差を短くする、健康寿命を延ばすような取り組みを始めています。ピンピンコロリですね。

  • (注)健康寿命:健康に生活できる期間。2000年にWHOが提唱。

人生の最終段階における医療・ケアを考える

健康寿命自体を延ばす取り組みではありませんが関連事項の一つが、Advance Care Planning(アドバンス・ケア・プランニング:ACP)です。2018年に厚生労働省から「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が出され、この中にACPが定義付けされています。

本ガイドラインによると、ACPは、「人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス」と定義されています。話し合う内容は、人生の最終段階に至り、受けたい、あるいは受けたくない医療やケアなどを事前に決めておくことです。本人の人生観や価値観、宗教観などを背景に、しかし、決して本人のわがままではなく、ご家族の意思なども反映されている内容になっていることが重要です。しかし、多くの人の医療・医学の知識は、医療専門職を除いてそれほど高くありませんから、正しい医療、医学知識を基にACPの内容を決めていくことができません。簡単に決められる内容ではありませんので、多くの専門職に手伝ってもらいながら、決めていく過程を踏んでいきます。さらに一度ACPの内容を決めたからといって、変更ができないかというと、そうではなく、いつでも変更は可能ですし、「ACPでは何も決めない」という決定も一つの決定として尊重されます。

少し具体的な話をしますと、「がん」に罹患(りかん)したとします。がんの治療方法は、手術、抗がん剤治療、放射線治療、そして近年は第4の治療法として免疫治療も出てきました。

いろいろと手を尽くしてきましたが、いずれの方法でも効果が見込めず、治癒の可能性が非常に低い状態となり、余命〇年などといった状況に至った際に、効果の低い治療で低い可能性、奇跡にかけますか。その治療によって副作用が出ていたり、生活上の支障が出ていたりしても続けますか。多くの人はその状況に立ち、深刻な決定に迫られると冷静な判断ができなくなります。「自分は大丈夫」(現状維持バイアス)「あの人が治ったのなら、きっと自分も治るはず」(availability bias)といった考え方に陥りがちであると、行動経済学でもいわれています。

そこで、冷静に判断できるうちにACPについて考えておくということが非常に重要な意味を持つのです。外国ではACPのような事前指示が法制化されている国もあります。しかし、我が国でその議論や取り組みがようやくスタートしたにすぎません。ましてや法制化はまだまだです。

自分の考えを伝えて、家族の思いを聞くということ

人間は必ずいつかは死にます。しかし、いつ死ぬかは誰にも分かりません。緩和ケアの介護に長年勤め多くの方をみとったブロニー・ウェアの著書『死ぬ瞬間の5つの後悔』の中で五つの後悔を紹介しています。

  1. 「自分に正直な人生を生きればよかった」
  2. 「働きすぎなければよかった」
  3. 「思い切って自分の気持ちを伝えればよかった」
  4. 「友人と連絡を取り続ければよかった」
  5. 「幸せをあきらめなければよかった」

今回はACPをご紹介しましたが、大上段に構えるのではなく、冷静に考えられるときに、家族を含めて考えて話し合っておき、自分の考えを周りの人に知っておいてもらうこと、家族の思いを聞いておくことから進めてはどうでしょうか。単なる通過点ではなく、悔いのない人生を送るためにも一度立ち止まって考えてみることも必要なのではないでしょうか。

私はまず、長年連絡を取っていない友人に連絡を入れてみようと思います。

皆さんは、どう思いますか?

次回は2月9日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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