第48回 AI時代に淘汰されない中間管理職

生成AIが進化する時代、単なる情報伝達や進捗(しんちょく)管理にとどまる旧来型の管理職は淘汰(とうた)されます。判断・育成・変革を担い、人にしかできない役割で力を発揮する管理職こそ生き残れるのです。

AI時代に淘汰されない中間管理職

生成AIの進化は、ホワイトカラーの働き方を根底から変えています。最も影響を受けるポジションの一つが「中間管理職」です。これまでのように進捗管理や報告の取りまとめを中心にしてきた管理職は、AIに代替されやすくなっています。では、淘汰されずに生き残る中間管理職とはどのような存在でしょうか。今回は「役割」と「それを実現するためのコンピテンシー」とを整理し、さらに業界・業態ごとに変化する視点も踏まえて考えます。

1. 中間管理職が危機にさらされる理由

生成AIは、数値集計、進捗管理、会議記録、報告書作成といった定型業務を瞬時にこなします。これらは従来、中間管理職の大きな仕事でした。しかし今、単に「数字をまとめる人」や「指示を伝える人」としての役割は不要になりつつあります。いわゆる「進捗管理型」や「伝書鳩(ばと)型」といわれる管理職は淘汰される運命にあるのです。

2. 淘汰されない中間管理職の役割

生成AI時代に必要とされる中間管理職は、AIでは代替できない人間ならではの価値を発揮できる存在です。代表的には以下の五つの役割が挙げられます。

1. 判断者
AIが示す選択肢をうのみにせず、文脈や感情を踏まえて最終判断を下す。
2. 育成者
部下のスキルとキャリア形成を支援し、学びの場を提供する。
3. 変革推進者
新しい技術や仕組みを積極的に導入し、現場に根付かせる。
4. 心理的安全性の担保者
部下が安心して意見を言える環境を整える。
5. 橋渡し役
経営の意図を分かりやすく現場に伝え、現場の声を経営に届ける。

これらの役割を果たせるかどうかが、今後生き残れるかどうかの分岐点になります。

3. 役割を支えるコンピテンシー

役割を担うには、具体的なコンピテンシー(能力や行動特性)が必要です。以下はその一例です。

役割必要なコンピテンシー
判断者AIリテラシー、情報解釈力、意思決定力
育成者傾聴力、フィードバック力、キャリア支援スキル
変革推進者柔軟性、企画力・実行力、リスク管理力
心理的安全性の担保者共感力、誠実さ、対人調整力
橋渡し役翻訳力(戦略の言語化)、ファシリテーション力、交渉力

4. 業界・業態・職種による違い

もちろん、役割の内容やウエートは業界や業態、職種によって異なります。営業管理職であっても、事業が「B to B」と「B to C」とでは求められる力が違いますし、同じ総務課長でも、本社総務と工場総務とでは担う役割が変わります。また、新規事業開発の管理職も大企業とスタートアップとでは重点の置き方が異なるでしょう。つまり、「淘汰されない管理職像」は一様ではなく、組織や現場の特性に応じて柔軟に再定義する必要があるのです。

5. 今すぐ取り組むべきアクション

では、今日から何をすべきか。代表的な行動を挙げます。

1. 業務の棚卸し
自分の業務を洗い出し、AIに任せられるものと人間にしかできないものとを切り分ける。

2. AI体験
議事録作成や企画のアイデア出し、資料のドラフト作成など、日常業務でAIを試して「使える実感」を積み上げる。

3. 部下育成の強化
定期的にキャリア面談を行い、心理的安全性を意識したチーム運営を心がける。

4. 未来視点の提案
自部門がAIでどう変わるかを考え、小さな実験を主導する。

6. 結論

AI時代に淘汰されるのは、単に進捗を管理するだけ、情報を伝えるだけの旧来型の管理職です。一方で生き残るのは、判断者・育成者・変革推進者・心理的安全性の担保者・橋渡し役としての役割を果たし、そのためのコンピテンシーを磨き続ける管理職です。ただし、前述したとおり、その役割は業界や職種ごとに異なります。だからこそ、まず自分の立場に応じて役割を再定義し、AIを「優秀な部下」として生かしながら、人にしかできない価値を発揮することが求められます。
淘汰か進化か――その選択は、今を生きる中間管理職一人一人に委ねられています。

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この記事の著者

ワークデザイン研究所/石山社会保険労務管理事務所

太期 健三郎

ワークデザイン研究所 代表
石山社会保険労務管理事務所 パートナー・コンサルタント

経営コンサルタント。
管理間接部門の業務改善、HRM(人材マネジメント)の二本の専門領域を持つことを強みとする。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスに勤務後、2008年にワークデザイン研究所を設立。
MURCでは人事コンサルティング、ミスミではコールセンターの業務改善を行った後、三枝匡社長(当時)の直轄タスクフォースで営業改革を推進する。グロービスではコンプライアンスおよびリスクマネジメントを統括、推進。
また、2013年~2015年にはクライアント企業の食品メーカーの内部改革者として人事部長・経営改革室長を兼務する。
「患者様の声をよく聴き、丁寧に診断・治療する“中小企業のかかりつけ医”」を信条としている。
ワークデザイン研究所
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